WEB SNIPER Cinema Review!!
品川ヒロシ監督による、哀川翔の芸能生活30周年を記念したオリジナル作品
敵対する組織との抗争で怪我を負い、組が解散となった元ヤクザの組長・宗形博也(哀川翔)。彼は刑務所にいる弟分の武史(鶴見辰吾)に代わって武史の娘である日向(山本舞香)の面倒を見ていた。しかし武史の出所が決まるなり日向が家出をしてしまい、武史と共に日向が向かったという銭荷島に赴く。するとその島では謎の病気が蔓延していて――。『ドロップ』『漫才ギャング』の監督品川ヒロシが贈る、絶海の孤島を舞台にした超絶アクション・エンタテインメント!!5月16日(土)全国公開
ゾンビに"足の速いの"と"足の遅いの"がいるなんて、今まで考えてみたこともなかった。
私の中にあるゾンビは、腐った足をひきずりながらヨタヨタと近寄ってくるというイメージ。油断していると首筋を噛まれ、噛まれた人間はゾンビになってしまうアレである。
しかし、本作に最初に登場するゾンビは100メートル走するときのように全力疾走するのだ。宮川大輔演じる血まみれゾンビがさびれた孤島の商店街を走ってくる姿は超怖い。でも超笑える!
ゾンビの最初の目撃者になってしまった映画マニアの医者(風間俊介)は、「まじか、このゾンビ足速いほうっ!?」と叫びながら、とりあえずママチャリで逃走。彼の「これ、食われるとゾンビになるほう? ならないほう!?」という疑問もすぐに解決する。残念ながら"ゾンビになるほう"で、田舎の小さな孤島はたったの一晩で容赦なくゾンビだらけになっていく。
本作『Zアイランド』は、ゾンビムービーだ。
監督はお笑いコンビ『品川庄司』の品川ヒロシで、主演は今年芸能生活30周年を迎える哀川翔。ゾンビとお笑いとVシネキングの合体。これ以上はないってほどいろいろと盛り込んだエンターテインメントムービーなのだが、いざ観始めたら思った以上にスプラッタで、思った以上に笑えて、思った以上にホロリとしてしまった。
主人公は、元ヤクザの組長・宗形(哀川翔)。
10年前、敵対するヤクザ・竹下組に襲撃され重傷を負った彼は、子分の信也(湘南乃風のREDRICE)と運送業を営みながら、刑務所行きになった舎弟・武史(鶴見辰吾)の一人娘・日向(山本舞香)の面倒をみている。そんなある日、武史がムショから出てくることになるのだが、元ヤクザの父親と会うのが気まずい日向は親友のエリカを誘い、昔両親と一緒に訪れたことのある銭島へ家出をしてしまう。
しかしその頃銭島はチンピラが持ち込んだ謎のドラッグの影響でゾンビの島と化しており、生き残った島民達とはぐれた日向は絶対絶命のピンチにさらされる。
日向を追って銭島へ向かった宗形、武史、武史の元妻(鈴木砂羽)、信也のヤクザチーム4人に、島の生き残りであるスケベ医者やチャラ警官、レゲエ漁師、日向の友人・エリカが加わり、日向の救出と島からの脱出をかけてゾンビと闘うことになる......とまあ、おおまかなストーリーはこんな具合。
何がいいって、これは芸人監督じゃないとたぶん撮れない映画だってことだ。
品川ヒロシの前々作『漫才ギャング』で一番良かったのは、漫才シーンがちゃんと面白いことだった。
マンガや小説なら「聴衆は笑いの渦に巻き込まれた」の一行で済むけれど、映像で表現するとなるとそう簡単にはいかない。劇中でもちゃんと説得力のある舞台を見せないと、映画全部が一気にお寒いものになってしまう。
その点『漫才ギャング』の漫才シーンは品川ヒロシ自身が漫才台本を書き、実際に客を入れぶっつけ本番で撮影したんだそうで、上地雄輔と佐藤隆太というイケメン俳優2人がやっているのにもかかわらず、しっかり笑えたのが素晴らしかった。
本作もそれと同じく、芸人監督ならではの笑いのセンスとサービス精神が存分に発揮されている。
こわもて俳優・哀川翔と鶴見辰吾の子供みたいなかけあいや、スケベ医者と元カノのセクシー看護婦(シシド・カフカ)、金髪警官・窪塚洋介とJK2人のテンポいいやりとりは、まるで漫才を見てるようでついつい顔がニヤけてしまうし、制服姿の日向とその友人・エリカはタランティーノが大喜びしそうなアクション美少女。肝心のゾンビもしっかりグロく血のり30%増で、まるで「面白くない映画なんて意味がないじゃん!」と言ってるみたいだ。
個性的な芸人やミュージシャンが数多くキャスティングされてるフットワークの軽さも嬉しい。特に、哀川翔に敵対するヤクザの木村祐一や野生爆弾の川島は、キャラがビンビンに立ってて俳優顔負けの薄気味悪さ! 物語の後半にはひょんな流れで銭島に上陸し、魅力的なヒールとして哀川翔との因縁の対決を見せてくれる。こんな采配も、芸人を誰よりもよくわかってる監督だからこそなんだろう。
さて、「ゾンビ怖い~! でも登場人物のかけあい笑える~!」なんて思っているうちに話はどんどん進み「生き残るのは誰か?」という局面になってくる。
もちろん観てる側としては全員生き残ってほしいと思ってしまうわけだが、そううまくはいかないのがゾンビムービーのお約束だ。
弱い者を守ったり、ゾンビ化した大事な人を殺せなかったり、因縁の相手に邪魔されたりして、戦士たちは一人また一人とやられていく。哀しいけれど、死んでいく者全員にちゃんと見せ場を与えて、滅びの美学みたいなものをたっぷり感じさせてくれるのが、これまたたまらない。
脇を固める役者たちのキャラの強さに押され気味だった哀川翔も、ラストシーンでは派手な殺陣やバイクアクションで、文句なしのカッコよさでシビれさせてくれる。
2時間のあいだスクリーンの前に座り、笑って、泣いて、日常を忘れる。そんな映画の醍醐味を思い出させてくれるエンターテインメントな一本。
終盤20分の胸躍る展開を観ていたら、角川映画全盛期に青春時代を送った私は、中学時代に興奮しまくった『二代目はクリスチャン』や『戦国自衛隊』といった名作をふと思い出した。そういえば本作の制作も角川映画......小さな偶然にちょっと嬉しくなってしまったのだった。
文=遠藤遊佐
謎の島"Z"アイランドで最後に生き残るのは誰だ!?
『Zアイランド』
5月16日(土)全国公開
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