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同人誌、ミニコミ、リトルプレス 自主制作出版史1960~2010年代
これまで国内で自主制作されてきたZINE(ジン/同人誌、ミニコミ、リトルプレス)を総括する初の試み。日本ZINE文化に詳しい著者陣が年代とテーマごとに資料を分類、制作時の状況や成り立ちを丁寧に解説していく。
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■パッションと運動のDIYメディアの歴史

「ZINE」という名前を聞くことが多くなった。アート系が参入しすっかりお洒落なアートブックのイメージがついているが、それだけではない。この本では、1960年代から2010年代までの自主制作出版の総称を「ZINE」とし、時々に名付けられた名称である、同人誌、ミニコミ、リトルプレスなどを、著者の野中モモとばるぼらが、できる限り集めて、その系譜を対談形式で時系列的に解説している。さらに、関係者のインタビューや年表、チャートと併せて体系化した力作である。

しかし、無数にあるオルタナティブな出版活動である、「ZINE」のすべてを知ることはできない。「知ってることすべて」と書いているが、あくまで「私たちが」という主語が隠れているといってよいだろう。著者たちも、漏れていることは言明しており、漏れていることこそに可能性がある。本書では、無名性の高い様々な自主制作出版活動に、今日のSNSでバリバリに縛られ、相互監視・検閲化したインターネット環境や疲弊化した出版流通とは異なる可能性を見出そうとしている。

本書では、ZINEがもっとも盛んだったのは、90年代にDTPが普及して、まだインターネットでブログなどのCGMが発達する前の期間と指摘されている。その黄金期を起点に、過去と未来に根をはったといえる。たしかに、それ以前だと自主制作のハードルは高いし、2000年代になると、ブログが登場し紙からネットに流れていく。ネットが爆発的に普及した反動で、紙に回帰し始めた現在が歴史を振り返るのにちょうどよいのだろう。

たしかに、90年代前半から後半にかけてZINEを出版していた友人は多い。MACが身近になり、容易に簡易印刷やコピーできるようになって、何かを表現したい人々、何かについて語り合いたい人々の恰好のメディアになっていた。

本書には、僕も寄稿していたZINEがあったりして、懐かしい想いでいっぱいになり赤面してしまいそうだ。お互いなんと純粋であったことか......。自分自身も商業誌で連載したり、書籍を出すようになり、その当時の想いはずいぶん褪せてしまった。おそらく、ここに掲載してるZINEは、当事者にとってはすべて赤面してしまうような青臭いものに違いない。

野中氏が「忘れられる権利」を侵しているのではないかと恐れ、「そもそもその場限りで読み捨てられてしまうのがZINEのいいところ」と書いているように、わざわざ名前を出したり、掲載しない方がいいのかもしれない。その乱暴さを引き受けた上で「知りたいし、知ってほしい」と述べている。それは、ZINEが公的(パブリック/パブリッシュ)というより、限りなくプライベートに近いセミパブリックともいえる活動だからでもあるだろう。つまり、本書は(頼まれていないのに)ZINEを白日の下に晒し、パブリック/パブリッシュ化する試みなのだ。

しかし、それによって、はじめてZINEが掴んでいた時代精神や個人・同人をベースにした文化が社会に与えた影響の大きさが明らかになったといえる。そして、人間関係が濃密でプライベートな要素が多いからこそ強く記憶を喚起させられる。個人的にも、後輩である貸本喫茶ちょうちょぼっこのグループ、矢部智子さんと瀬川卓司くんの『ANTENNA』、乙女と古本のパイオニアであった『モダンジュース』の近代ナリコさんなどの友人や、自身も少しだけ在籍していた『ジャングル★ライフ』などの名前も出てきて、関西の離散していったコミュニティを思い出させてくれたので記載しておく。また、はてなダイアリーのベータ版リリース前後のはてなと仕事をしていたので、ZINEから急速にブログへブームが移っていった状況も鮮明に思い出すことができた。

本書には、松岡正剛が創刊した『遊』(工作舎)や多木浩二、中原卓馬らが創刊した『provoke』(プロヴォーク社)が掲載されていたり、今となっては伝説的で、歴史的な価値を持つ雑誌もある。しかし、それらも含めて、洗練されていない、というのが一つの特徴だろうと思う。洗練とは、デザインなどの外形や内容のレベルの高低を指すのではない。商業的な洗練をしていない、あるいは拒否をした、パッションと運動性があるということだ。その青さこそがZINEのいいところであり、すべて若気の至りの産物といえる。

そして、60年代や70年代の持つ反体制的要素も含めて、一貫して個人の想いに立脚しているところも特徴である。だからこそ、現在でも胸を打つ。ZINEからスタートして、商業誌や書籍を出していく人には、もともとパッションや運動性を備えており、メディアが変わっても持続しているケースが多い。「頼まれなくても自分でやればいいじゃないか」というDIY精神が残っているのである。

野中氏が、「『作りたかったら自分で作ればいい』ということを実感できたら何かが変わると思うんです。自主的に発信しているのを見た他の人がやる気を出す、そのインタラクションが続いていく運動が美しいと思いますね。1冊で完結するというより、何かの行動を人に促して続いていく。ZINEに惹かれるのは、そういう想いの連鎖に心を動かされているからかもしれません」と述べているが、これらの言葉がすべてを表わしているといってよい。

時代時代の青い想いに触発されて行動が促され、読者から出版者に変わったら、著者の想いもつながっていくだろう。

文=三木学

『日本のZINEについて知ってることすべて』(誠文堂新光社)
編著者:ばるぼら,野中モモ
価格:2,600 円+税
ISBN:978-4416517673
発売:2017年11月1日
出版社:誠文堂新光社

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三木学(みき・まなぶ) 文筆家、編集者、色彩研究者、ソフトウェアプランナー他。独自のイメージ研究を基にした編集、執筆、ソフト開発、ライセンス・マネジメント等を行っている。編著に『フランスの色景』、『大大阪モダン建築』、ヤノベケンジ『ULTRA』(すべて青幻舎)がある。「あいちトリエンナーレ2016」コラムプロジェクト『アーティストの虹-色景』ディレクター。音楽自動生成スライドショーシステム『PhotoMusic』ディレクター。
http://photomusic.jp/
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17.12.02更新 | レビュー  > 
三木学 |