WEB SNIPER's book review
裸の映像作家16人へのインタビュー・ノンフィクション
私は、AVを早送りせずに最初から最後まで観たことがない。新たな世界へのガイドブックを期待して本書を開いたが、しかし最初に気づかされたのは、ここに掲載されている大半のAVを観る方法が、ないということだった。一部の監督の作品はDUGA(デュガ)を始めとしたネット動画配信サービスで見ることができるが、出てくるタイトルに興味をおぼえ、よし!これを見よう!と思った時に、そうする術が中々ない。レンタルショップに行けばいつでも借りられ、また定期的に回顧上映も行なわれている日活ロマンポルノなどと異なり、古いAVは基本的にオークションでビデオやDVDを購入しないかぎり観られない。それはAVを「作品ではなく、実用品」としか捉えてこなかった人間のつくりだした状況でもある。
家庭用ビデオが誕生し、やがて空前のAVブームが到来し、去って行った。本書はその歴史を、渦中にあった(そしてなおその中にいる)人間による証言でまとめている。なんと多様な男たちがAVをつくっていたのだろうかと思う。
「婦人服のデザインをしておりました」から経歴の始まる監督がいる、ヘンリー塚本だ。やがて家出してデンマークへ渡り皿洗いをしながら、現地で結婚の約束をするがうまくいかず、帰国して文房具のデザインで成功する。非常にソフトかつ上品な語り口で語られる、波乱万丈な人生遍歴を読みながら、しかしそこからどうAVにつながって行くのか見当もつかない。ところが、商売の単価を上げるべく、当時まだ高価だったカメラとデッキを購入したところから、風向きが変わり始める。結婚式や運動会の撮影を想定し、「家族のビデオ撮影します」という広告を出した彼のもとに来たのは、「愛人とのセックスを撮ってくれないか」という注文だったのだ。上品な初老の男性が、「オマンコ、オマンコ」と叫び続ける女性を目にした時の衝撃。その後に続く、さらに数奇な運命がおもしろい。
ディスコのボーイを経て、ホストになり、客で来ていたAV女優に「ビジネスパートナーを探してる人がいる」と紹介されて監督になった松本和彦の話は印象的だった。
会いにいくとめちゃくちゃ胡散臭い人が出て来て、めちゃくちゃな肩書きと名前の名刺を渡してくる。その「な~んも考えてない」ように見える42歳のサエないオヤジが、しかしナンパの天才だった。彼は元ナンバーワンホストである自分に、道玄坂でナンパ競争をしよう、と申し込んでくる。するとまったく歯がたたないのだ。才能もありイケイケの若者が、冴えないオヤジの強さを目の当たりにし、師弟関係になる。こういう展開、剣豪ものとかでよくあります!!! そんな出会いを経て、たった2人の会社で「ブルセラビデオ」を撮りまくる、そこでオヤジから言われる助言がまた染みる。ブルセラビデオを撮りながら、しかしそこには間違いなく、「ビデオ道」があった......。そして逮捕。全国ニュースになり、当然別れ別れになり、ところがある日、護送車でオヤジと乗りあわせる。そこで交わす会話。その出会い・成長・別れの流れは、鮮烈な青春物語として響いてくる。
日比野正明は自分がアシスタントとして勤めていた村西とおるが、いかに女の子を騙して、AVに出していたかを語る。村西とおるのやり方、それダメでは?と思う。そこには、「時代が変わって今ではダメになった」ではないダメさを感じる。それでも金は儲かりまくり、ハワイロケではFBIに突入され、衛星放送局をぶち上げ、バブルの波に乗った一大帝国の話を聞くのは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を見るような楽しさがある。やがて資金繰りの悪化とともに、「騙してはいたが、高額のギャラは女の子に払っていた」という最後の良心が消えるのをみた日比野正明は、村西とおるの元をさっていく。
本書の読後感はどうしたって「やがて淋しき......」になる。バブルが崩壊し、ネットが登場し、AVブームはさる。最近では、女性のAV監督も活躍している。Oculusで観たVRのエロビデオはすごかった。ポルノ映像は滅びないが、その中身はどんどん変わっていく。そしてもし、AVが実用品であるならば、古くなったポルノは消えるしかない。本書はそこに立ちはだかる試みだ。AVを実用品ではなく、作品であると宣言し、監督へのインタビューだけで、AVを作品であると感じさせる。それは成功していただろうか? それは読んで確認してもらうとして、私は『竜介・トオル&ミミの特出し劇場』(高槻彰監督)いちど観てみたくなりました。
文=ターHELL穴トミヤ
『裸のアンダーグラウンド』(三交社)
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