web sniper's book review 根本敬初の「文字だけ」の単行本、遂に発売! 第11回みうらじゅん賞受賞!! 『真理先生(青林工藝舎)』 著者=根本敬 文=さやわか
2004年『en-taxi』に掲載された処女小説「小説」を中心に、ほぼ未発表に近い状態のエッセイ、『アックス』連載の「近況」等、選りすぐりの文章を集めさらに読みやすく加筆修正した、根本敬初の「文字だけ」の単行本。 |
根本敬については、やはりみうらじゅんと比較したくなる。みうらじゅんは九〇年代後半から、「マイブーム」や「ゆるキャラ」などの分かりやすい言葉を使って、分かりやすく消費しやすい形に洗練された「サブカル」を提供していった。しかし根本敬がやろうとしていることは、いつもみうらじゅんの真逆である。分かりにくく消費しにくく、ときに汚く不愉快である愛すべきものを根本敬は提示し続けてきた。
根底ではどちらも同じ「サブカル」であって、どちらのやり方が間違っているとは言えず、どちらも正しい。正しいとか間違いだとかいうものではない。しかしみうらじゅんがそのライトさによって当然のごとく市民権を獲得し今やauのCMに出演するような存在になった一方で、根本敬はどんどんと仕事を減らし、ゼロ年代後半には目立った著作を全く上梓しなかった。だからここには断絶がある。インターネット以前、サブカルが生き残っていた時代を知らない読者には、根本敬がどういう活躍をした人で、日本のサブカルにとってどんな存在なのかということが分からないはずである。
だからおそらく、「真理先生」がまるで文芸書と見まごうような端正な装丁で、オビに「みうらじゅん賞受賞!」などとアオリ文句が書かれ、これまた今ではすっかり立派なベストセラー作家になったリリーフランキーが推薦文を書いているのは、これはわざとである。彼らは、自分たちが薦めているのを見て、根本敬を全く知らない読者がうっかり買ってしまうことを期待しているのだ。社会はみうらじゅんやリリーフランキーを受け入れて、彼らが薦める本を盲信して買うようにすらなったが、ならば世間は根本敬を買うべきだ。この本が売れてしまったら面白い。彼らが今受け入れられているのは、彼らだけが冴えていたのではなく、あるいは彼らがスポイルされたのではなく、根本敬という才能だって評価されるべきなのだから。または、全く売れないのだとしたら、社会はやっぱりどうしようもない。そういうふうに、笑おうとしている。
根本敬の読者がこの本で最も興味深く読めるのはやはり、性的な抑圧が昂じた末にエロ老人になってしまう男を描いた第二章の「小説」だろうが、文章がただひたすら凶暴に破綻してしまっている他のエッセイも非常に面白い。この衝撃的な読み物を、一般読者が「文芸」として、「高尚な芸術」として、うっかりすまし顔で読んでしまったら、とても面白いのだが。
文=さやわか
『真理先生(青林工藝舎)』
著者=根本敬
価格:1600円(税込)
判型:4/6判上製/
ISBN:4-88379-277-1
初版:2009.01.22
帯文:リリー・フランキー
装幀:南伸坊
出版社:青林工藝舎
出版社サイトにて詳細を確認する>>
関連記事
愛、暴力、そしてミステリ。
舞城史上、最大のスケールで描く最高傑作。
『ディスコ探偵水曜日(新潮社)』 著者=舞城王太郎
特別すぎない、女の子のリアル。ここにそっとしまってあります…。
『素っ頓狂な花(小学館)』著者=武嶌波
少女まんが界に輝く、超人気大河ロマン!!
『ガラスの仮面 /43(白泉社)』 著者=美内すずえ
おれは誰に感情移入すればいいんだ?おれは宮本に感情移入すればいいのか?
『定本 宮本から君へ /1(太田出版)』著者=新井英樹
ツンデレという言葉が生まれたのは、この漫画が描かれるためだったのだ!
『百舌谷さん逆上する/2 (講談社)』 著者=篠房六郎
日本語をめぐる認識の根底を深く揺り動かす書き下ろし問題作!
『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で(筑摩書房)』 著者=水村美苗
“ひとつなぎの大秘宝”を巡る海洋冒険ロマン!!
『ONE PIECE/52(集英社)』 著者=尾田栄一郎
破戒のリーサルウェポン……投下!!
『最後の性本能と水爆戦(ワニマガジン社)』著者=道満晴明
小田ひで次の最高傑作、上下巻同時発売!
『拡散 上・下(エンターブレイン)』著者=小田ひで次
「ワーキングプア」の真実がここに!!
『蟹工船 1巻(新潮社)』漫画=原恵一郎 原作=小林多喜二
たとえそれがウソでもホントでも、神様を名のるやつなんてみんな、絶対どこか変わってる――。
『かんなぎ/ 1(一迅社)』 著者=武梨えり
ゼロ年代を代表する最注目の若手論客による 日本の〈情報環境〉を検証する決定的一冊
『アーキテクチャの生態系 情報環境はいかに設計されてきたか(NTT出版)』 著者=濱野智史
私だって『青春』したい!! 神大寺サキ、高校では仮面かぶります!
『青春パンチ(上) (集英社)』 著者=小藤 まつ
叙情マンガ家・今日マチ子、待望の処女作
『センネン画報(太田出版)』 著者=今日マチ子
ちょっと変わったエッセイ漫画家の偏執的な不安
『生活 / 1(青林工藝舎)』 著者=福満しげゆき
一話完結形式で次々現れる制服美少女たち
『世界制服 / 1(小学館)』 著者=榎本ナリコ
豊穣な想像力とエモーショナルな描写
『大金星(講談社)』 著者=黒田硫黄
平坦な戦場で僕らが生き延びること
『リバーズ・エッジ 愛蔵版(宝島社)』 著者=岡崎京子
なぜこんなにも息苦しいのか?
『不可能性の時代(岩波書店)』著者=大澤真幸
いまの日本は近代か、それともポストモダンか?
『リアルのゆくえ おたく/オタクはどう生きるか(講談社)』著者=大塚英志/東浩紀
一生かかっても見られない世界へ。
『漫画をめくる冒険―読み方から見え方まで― 上巻・視点 (1)(ピアノ・ファイア・パブリッシング)』著者=泉 信行/イズミ ノウユキ
あゆ/郊外/ケータイ依存
『ケータイ小説的。“再ヤンキー化”時代の少女たち(原書房)』 著者=速水健朗
NYLON100%“伝説”の全貌を探る
『NYLON100% 80年代渋谷発ポップ・カルチャーの源流』 著者=ばるぼら 監修=100%Project
時代を切り拓くサブ・カルチャー批評
『ゼロ年代の想像力』 著者=宇野常寛 【前編】>>>【後編】
さやわか ライター/編集。『ユリイカ』(青土社)、『Quick Japan』(太田出版)等に寄稿。10月発売の『パンドラ Vol.2』(講談社BOX)に「東浩紀のゼロアカ道場」のレポート記事を掲載予定。
「Hang Reviewers High」 |