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『月光橋はつこい銀座(幻冬舎)

著者=イシデ電


文=さやわか


ウェブ連載から単行本化された『私という猫』でデビューのイシデ電、待望の新作が登場。  
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ウェブ連載されて好評だった『私という猫』が昨年、幻冬舎から単行本化され話題だったイシデ電のデビュー作が収められた単行本である。しばしば「どこか懐かしい」などと形容される彼女の作風にいかにも似つかわしいようなタイトルと表紙で、まあノスタルジックなものが読めるのだろう、と思って読むことになる。

しかし『三丁目の夕日』であろうと『団地ともお』(ともに小学館)であろうと、読み手がノスタルジーを喚起されるかどうかで優れた作品だと言われることがあってはならない。それはあくまでも物語への感動とは切り離して考えるべきである。そうでなければ、『月光橋はつこい銀座』が下町っぽい「懐かしい」情景なくしても、子供時代の細やかな心の動きを美しく描いているのだということは指摘できない。彼女は、子供が男女関係や家計という「大人の世界」を必ず子供なりの考え方で理解するということに注意深く忠実であろうとしている。描写が子供にとって真に正確であるかどうかは、もはや子供ならざる読者には分からないことなのだが、しかし彼女が子供に対して忠実であろうとしているということは伝わる。子供というものを大人と全く切り離して、子供がこうであってほしいとか、こういうことを言ってほしいというファンタジーを託した物語を描こうとはしていないのである。話を戻せば、あくまで子供の心理描写に重きを置いているこの作品においてノスタルジックな風景は主題ではなく、もはやそれは背景としてある。だからこの物語の舞台は「懐かしい昭和」などではなく、子供にとっての「今」そのものである現代である。それは正しいことである。

しかしこの物語においては、背景が主題と巧みに接近させられる瞬間がある。それは物語冒頭における「どうせ商店街で生きていくしかない」という少女の絶望と、その母の「月光橋はつこい銀座が…竹屋乾物店がおはなしの舞台だったら主人公は私ではない」という諦めである。彼らの多感な青春ですら、定型的な物語の一つでしかない。それがどんなに瑞々しくかけがえのない現実だったとしても、読者に「懐かしい時代」の記憶を喚起させるだけのものとして、結局ノスタルジーに回収されてしまう。この作品は、それに抗うことができない彼らを癒していくものとしてある。ここに本当に描かれているのは読者の心の拠り所としての古き良きノスタルジアなどではない。登場人物たちがいかにして物語をたしかな現実として生きるのかを描いている。コミック的で大胆なイシデ電の描線は、その内容にふさわしい。

文=さやわか


『月光橋はつこい銀座(幻冬舎)
gekkohatsukoi.jpg

著者=イシデ電

価格:620円(税込)
ISBN:978-4-344-81564-3 9979
発行:2009/02/24
出版社:幻冬舎


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「Hang Reviewers High」
http://someru.blog74.fc2.com/

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09.04.19更新 | レビュー  >