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『灰色猫のフィルム(集英社)

著者=天埜裕文


文=さやわか


網膜に映る都市の光景を鮮やかに切り取り、緊迫した小説世界を構築するデビュー作。第32回すばる文学賞受賞作。  
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店頭のポップが煽ることによると、すばる文学賞受賞作が携帯電話で書かれた小説だということだった。それがセールスポイントになるのだろうかと思ったので読んでみた。

純文学というのは今や文学全体にとってジャンルの一つに過ぎない。そう考えるべきである。純文学も大衆文学と呼ばれるその他の文学も相対的な地位に位置づけられていると考えた方がもはや自然である。市場で存在感を保っているものが不快だとか、本来的でないとか、全体として質が低下しているなどという議論はナンセンスだし、反対に、純文学などつまらないのに権威を保ち続けているなどと言って悦に入っても仕方がない。『灰色猫のフィルム』はジャンルとしての純文学としてひとかどの内容を備えていて、つまりこれはジャンル小説としての純文学を携帯電話で書いたのだ、と言うことができる。ジャンル小説としてのケータイ小説ではない。

つまり、店頭のポップが指摘していたのは、この小説が書かれた環境がどうなのかということであって、中身についてではない。せいぜい「携帯電話で書かれた小説にも純文学の立場から評価可能なものがありました」ということだけではないか。このような姿勢は、キーボードで入力されたものと万年筆で書かれたものを等しく評価するというのと同じで、平等であり妥当なようではある。しかしそれはまず、携帯電話で小説が書かれ、あるいは読まれるということを単にツールの違いとしてしか捉えようとしていない。バスドラムの代わりに段ボールを叩いているから面白いですねという程度のことだ。そうすると、ケータイ小説のジャンルとしての面白さを認めもしないのだろう。たとえば『恋空』(スターツ出版)や『赤い糸』(ゴマブックス)のようなケータイ小説は認められず、やはり文学の本来は『灰色猫のフィルム』のようなところにあるべきなのだという考え方が覗いてしまう。これは「アイドル音楽にも優れた楽曲がある」とか「漫画も芸術として評価できる」という考え方と一緒で、美学的な価値観とは言えるのかもしれないが、しかし僕には、別ジャンルにおいて外部の価値基準に沿えるものを探しているだけに思える。

少なくとも僕はこの小説に、執筆のツールとして携帯電話が使われたからこその見所というものを感じることがなかった。店頭のポップを見て、そういうものを読めるのだと勝手に思ってしまったのは僕の誤解だ。この小説は純文学というジャンルの小説としてきちんと読めるから、誹るには値しない。おそらく、すばる文学賞としてふさわしくないわけでもないのだろう。しかし同時にそのことは、これが『あたし彼女』(スターツ出版)のような目新しい読書体験をもたらすものではないということで、店頭ポップの売り文句は、結局のところ書かれた環境をやけに声高に主張しているだけになってしまう。それは残念なことだ。

文=さやわか


『灰色猫のフィルム(集英社)

著者=天埜裕文

価格:1,155円(税込)
判型/総ページ数:四六判/128ページ
ISBN:978-4-08-771275-9
発行:2009/02/05
出版社:集英社


出版社サイトにて詳細を確認する>>


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sayawaka_prof.jpg さやわか ライター/編集。『ユリイカ』(青土社)、『Quick Japan』(太田出版)等に寄稿。10月発売の『パンドラ Vol.2』(講談社BOX)に「東浩紀のゼロアカ道場」のレポート記事を掲載予定。

「Hang Reviewers High」
http://someru.blog74.fc2.com/

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09.04.12更新 | レビュー  >