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現代デザイン革新の中心的な担い手
杉浦康平の半世紀にわたる活動を浮き彫りにする1冊
手がけた雑誌だけでも2000冊以上。一貫して独創的な手法を切り拓き、ブックデザインやエディトリアル・デザイン、タイポグラフィの領域で画期的な試みを展開してきたデザイナー・杉浦康平。今も多くのクリエイターに影響を与え続けている氏の半世紀にわたる活動を浮き彫りにした初めての評伝。
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戦後日本のエディトリアル・デザイン史において最も重要なデザイナー、杉浦康平の評伝が出た。氏は未だ現役であり、その影響は日本のみならずアジア圏に及ぶが、デザインの分野に興味がなければその名を知る機会がなかなかないのも事実で、こうした本の地道な出版が誰かの新たなきっかけになるのだと思う。この本が分厚い研究書ではなく新書として出たのは正解だろう。著者はかつて『デザイン』(美術出版社)の編集長を務めたデザイン・ジャーナリストで、現在は女子美術大学の非常勤講師。『装幀時代』『現代装幀』『装幀列伝』などブックデザインに関する編著作が多くある。

本書は第6回日宣美展日宣美賞を受賞した1956年から今日(80年代後半以降は駆け足だが)に至るまでの足取りを辿りながら、杉浦のデザイン哲学がいかに構築されていったかを紹介していく。時折こぼれる著者の杉浦デザインへの感嘆は、デザイン批評というより文芸批評のスタイルに近いが、読みやすいことは確かで、それは初めて杉浦を知る新書読者にとってマイナスではない。

杉浦康平とはどんなデザイナーであるかを、具体的なブツを見せずに説明するのは難しい。戸田ツトム、鈴木一誌、羽良多平吉、祖父江慎、葛西薫、町口覚……と杉浦の影響を受けたデザイナーの名前を列挙してもいいのだが、杉浦を語ったことにはならない。氏は自著も多いが、アジアに根付くデザインの思想を語ったものが多く、杉浦康平自体への入門にはあまりむかない。2004年に出た『疾風迅雷 杉浦康平雑誌デザインの半世紀』が今のところ唯一の仕事集である(氏は長らく自分の仕事をまとめることを拒んでいた)。

氏のデザインに気軽に触れられる機会が年々減っていることも、理解を妨げる要因だろう。リニューアル前の講談社現代新書、休刊した『噂の真相』や『季刊銀花』、写研カレンダーなどを、もしお持ちならクレジットを確認してほしい。奥付にデザイナーの名前を入れる習慣は、デザイナーという職業の地位確立のために、杉浦が長年、出版社へ働きかけた産物である。

さて、杉浦康平とはどんなデザイナーか。日本で、日本語を使ったデザインに初めて自覚的になったデザイナーであると同時に、印刷表現の実験を次々と行ない、一つの潮流を生み出した、真の意味での開拓者である、とは言える。大袈裟だが事実だからしょうがない。細谷巌と考案した文字ヅメはもとより、現在のDTP時代においても行なわれているメソッドをいくつも最初に行なった人物である。杉浦のよき理解者である松岡正剛は、かつて以下のようなコメントを残している。
いわゆるタイポグラフィの面からいうとむずかしいけれど、写植のつめ打ちをはじめたのは杉浦さんですし、直角ブラケットの使用とか、文頭の一字下げをなくすとか、註・図版番号に関しては1級おとすとか、図版番号に対して黒ベタの白ヌキ数字を使うということも杉浦さんがはじめられたことで、たぶん現行のデザイナーがやっているベーシックなレイアウトメカニズムやフォーマットメカニズムは、杉浦さんがほぼ開発されたのではないでしょうか。それをほとんどご自分ではいわれないものですからね…。
『季刊タイポグラフィ』2号/1974年1月25日
発行=柏書房
写植地紋の連続パターン化とアソシエーション。細谷巌も加わって開発した写植文字の切り貼り手法。行間指定(初期はほとんど全角指定だった)。約物の多用とそのレイアウトへの転用――たとえば等号・プラス記号・↓・黒丸白ヌキ文字・直角ブラケットなど。同心円的波紋パターンのプログラミングとそれへの濃度システムの混入(先駆的にはデュシャンが試みていた)。ななめ組の写植自動打ち。小さな文字への3色アミかけあわせ。コンマ2桁のインク・パーセンテージ指定。割付用紙におけるラスター・システムの汎用――基本文字サイズの倍数法によるグリッド方式。分色版フィルムのダイレクト・スクラッチ。モノクローム写像のカラー・アナライザーによるグラフィズムへの転用(武満徹『骨月』のレイアウト)。IBMタイプライターやスポット・メーターによる画像解析。タイプフェイスのソフトフォーカス化。銀紙およびアルミホイル印刷。ヤラ紙の再印刷……。これらは杉浦康平とその協同スタッフが手がけてきたグラフィズムの準技法上のノウ・ハウのほんの一部だ。
『デザイン』1977年11月号
発行=美術出版社

これだけ列挙されれば、いくらなんでもただ事ではないと判るだろう。計算された厳密なフォーマットに、抽象的アイコンとアトランダムなノイズを散りばめ、禁欲的な書体選択と定形外レイアウトにより、本の意味内容を増幅させるセマンティック・デザイン。杉浦が手掛けた書物は、どれも情報の容器に徹した簡易装丁のペーパーバックとは正反対に位置する。思わず姿勢を正してしまうような、日本のエディトリアル・デザインの真髄に興味があるのなら、『杉浦康平のデザイン』は有益なガイドブックとなるはずである。

文=ばるぼら

『杉浦康平のデザイン』(平凡社新書)


著者=臼田捷治

発売:2010年2月16日
定価:903円
ISBN-10:4582855113
発行元:平凡社

発行元サイトにて詳細を確認する>>

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ばるぼら  ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』(共に翔泳社)『NYLON 100%』(アスペクト)など。『アイデア』不定期連載中。
「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/
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10.03.25更新 | レビュー  > 
文=ばるぼら |