WEB SNIPER's book review
父と息子の近親相姦を扱う(!?)異色BLコミック!!
高校生の龍之介は、常にモテる男前の父・ダニエルと二人暮らしをしている。
龍之介は知らされていないが、彼は14年前にダニエルがある女性から託された子どもだった。
気の置けない友達もいて、楽しい毎日を送る龍之介。
けれどダニエルには言えない秘密を抱えていて――。近親相姦の欲求がキュンキュンを加速させる、人気著者による禁断のBLコミック!! 近親相姦というとものすごく後ろめたくてダーティで黒いイメージがあります。イメージだけじゃなく実際そういうものだと思いますし、そうじゃなきゃ遺伝的な意味で人類は困ったことになるでしょう。
が、現実に致さなくても、親や兄弟姉妹が何かのきっかけで性的な対象として見えてしまい、うっかりしてはならない妄想をしてしまったことは、皆さんも経験があるのではないでしょうか。特に思春期のただでさえ心の均衡が崩れやすい、箸が転がってもおかしくなるし、風が吹いても胸が痛くなるような時期には、私も何度かヒヤリとさせられました。
大抵はその「ヒヤリ」から目を逸らし続け、適当に折り合いをつけられるようになって大人になるのでしょうが、この作品は「ヒヤリ」から目を逸らせず困っている少年が主人公です。
主人公=龍之介は、義理の父親であるフランス人のダニエルが、本国で「仕事」の最中に、見知らぬ女から突然預けられた子。その女はダニエルが見ている前で爆発に巻き込まれ、彼はなし崩し的に龍之介を育てることになります。肝心の龍之介は、ダニエルと自分に血のつながりはないことを知りません。
ダニエルの仕事というのは何なのか、この巻でははっきりとは語られていませんが、どうも大っぴらにはできない類のもののようです。龍之介16歳、ダニエル42歳の現在、日本で二人暮らしをする彼らは、ダニエルは表向きはガテン系の職に就いており、龍之介はごく普通に高校に通っています。
なんでキナ臭い仕事が本業のフランス人イケ中年が日本でガテンしてるのとか、義理とはいえその子の名前が龍之介なのとか、龍之介に偶然声を掛けた相手までガイジンで、しかも都合よく父親似なのとか、腐女子に限らない女子の夢がだだ漏れなところには少々食あたりを起こしそうになりましたが、一応大体の部分は筋が通っているのでこれらはまぁスルー。そもそも女子が夢いっぱいで読むものですし、私のような半分はおじさんみたいな人がとやかく言ってはいけないでしょう。
龍之介は幼少時からダニエルに恋愛感情を持っていたのですが、いけないことだと自覚はしているので、その思いはずっと隠しています。この龍之介がまた、モデルにスカウトされちゃうような金髪の美少年で、ホモの友達はいるけど女の子ともうまくやれているし(というか3人で3Pしている)、父と離婚した母親とも仲良くしている。自分のことを大事にしてくれる大人も多い。学校でセックスしたのがバレちゃったりもしたけれど、ソツなく対応したぐらいには器用。そして本人自身も父親にとっていい子でありたいと願っている......と、どうですかこの閉塞感。
しかしあるとき龍之介の部屋を掃除したダニエルはゲイ雑誌を発見。龍之介を理解したいと思いつつもゲイを否定するダニエルに対して、ますます思いの向け場がわからなくなった龍之介は、泣いていたところに声を掛けてくれた父親似の男・ヴィスにダニエルの面影を重ねながら惹かれていきます。
が! タイミングの悪いことに時を同じくして、フランスにいる謎の人物からダニエルに「龍之介を返せ」と打診が。どうやら裏の仕事と絡んでいるようですが、読者にはまだ詳しいことは明かされず。ですがとにかくこのことからダニエルはヴィスを疑い、勢い龍之介と性的な関係にまで発展していることを知ってしまいます。
お父さんを振り切って何とか幸せになりたいのに、ただでさえ綱渡りのような毎日なのに、お父さんは追いかけてくる。お父さんの代わりとはいえ、やっと好きになれそうだった人との関係を切らせようとする。それが自分の「好き」とは違う種類の「好き」によるものだというのが切ない。
BLは「男相手にときめいちゃいけない」制限が強ければ強いほどキュンキュンするのですが、これはさらに近親というもう一つの枷があります。冒頭の「ヒヤリ」に何かしらの美しいもの、はかないもの、やるせないもの、悲しいものを感じてしまう人、感じてしまったことのある人であれば、きっとこの枷がどれほど甘美で残酷なものかが理解できると思います。
また、同性の親子や兄弟はともすれば友達に近い関係になりがちです。この一見限りなくユルく、お互いのダメなところまで受け入れ合っているようにも見える関係の中では、恋愛感情なんてあるはずのないものだし、あってはいけないものなのです。
だからこそそこにはさらなるもうひとつの残酷さ......近親相姦がタブーであるというのとはまた違った切り口の残酷さもあります。龍之介が不協和音となる感情を持て余しつつ、あくまでもいつも通りにユルく日常生活を送ろうとするのも痛々しかった。
それと最後に。終始、右往左往する龍之介ですが、ところどころ散りばめられたギャグ描写のおかげで、悩んでいるわりには何ともいえない「おバカ」に見えたりもします。この、どんなに凹んでも一抹の「おバカ」具合を残しているところが何ともいえず「少年」で、そこもたまらなかったですねぇ。
文=早川舞
『パパ'sアサシン。~龍之介は飛んでゆく。~』(大洋図書)
関連記事
『えんどうくんの観察日記』(大洋図書) 著者=ハヤカワノジコ