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劇場版『涼宮ハルヒの消失』パンフレット
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2010春の連休特別企画
劇場版『涼宮ハルヒの消失』パンフレット
発行=2010年2月6日

春の連休特別企画第3弾は絶賛公開中の『涼宮ハルヒの消失』について。名作と誉れ高い今作ですが、ファンが待ち望んだ映像化はTVアニメではなく、映画化というかたちをとりましたが、読者の皆さんはもう御覧になりましたか? ネタバレを含む記事ですので、未見の方はくれぐれもご注意を! ではばるぼらさんと編集部による『消失』談義をどうぞ。
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■『消失』にいたるまでの涼宮ハルヒ

ばるぼら:『涼宮ハルヒの消失』の映画をようやく観に行って、すごく面白かったんだけど、はたして「面白かった」以外の何かを語れるのか?というのを探りつつ話していきますか。

編集部I:とりあえず今回の映画公開までを振り返ってみましょうか。

ばるぼら:原作となる小説版『涼宮ハルヒの憂鬱』が2003年からスタートして、現時点で最新の9冊目が出たのが2007年4月。9冊目は続きもので、すぐ続きの10冊目が出る予定だったんだけど無期延期状態のまま。次にマンガ版が2005年11月から連載。アニメ化されたのは2006年4月。これが大ヒットして、すぐ第二期が始まればよかったんだけど、原作の進行とかアニメスタジオの問題とか色々事情があって、何度も予定は立てられつつ2009年4月までされなかった。この2009年のは第一期の再放送と新作が混ぜられてる変則的な放送形態で、しかも途中に何度も同じ話をやったり、一つの話を引き伸ばしたような展開にしたりして、話題にはなったんだけど、批判も多かったんだよね。

編集部I:8回放送された「エンドレスエイト」、原作の55ページ区切りで映像化された「溜息」ですね。

ばるぼら:あと、第二期として一番期待されてた話をやらなかったという批判もあった。それが『涼宮ハルヒの消失』。この『消失』にかけられていた期待がすごく大きかったんですね。この話は原作だと4冊目ですけど、それまでの1〜3冊目は前哨戦で、ここから本当の物語が始まると言っていいくらい重要な話なんです。ファンの間では非常に評価の高い作品で「これをアニメ化すれば……!」って期待が込められてた。再アニメ化の情報がいち早く載った『ニュータイプ』2008年7月号(涼宮ハルヒ始動)の表紙絵のハルヒは明らかに『消失』の格好だったから、なにかあるだろうとは思われてた。

編集部I:髪の毛が長くて制服が違ったんですよね。でも『消失』のテレビアニメ化はなかった。

ばるぼら:「結局『消失』やらないのかガッカリ……」と思ってたら映画化が発表されてファン歓喜!という流れ。しかも2時間40分超えの大作。でも実際に上映される前までは、正直もうさっき言ってた第二期のアニメの変な仕掛けのせいで微妙に盛り上がりに欠けてたんだよね。

編集部I:「笹の葉ラプソディ」のサブタイトルがテレビ和歌山の番組表で流出、とか。

ばるぼら:そもそも第二期っていう言い方をせずに、再放送に新作を小出しに混ぜていくっていう放送形態自体が、いかにも口コミ狙ってる感があって、人為的にエラーを起こして話題になろうという意図が見え見えだと思うんだけど……。

『涼宮ハルヒの憂鬱』5.142857 DVD(第2巻)/限定版 発売元=角川エンタテインメント 発売日=2009年9月25日
編集部I:ハルヒダンスが流行ってた頃の勢いはまったく感じられなかったですよね。実際に「エンドレスエイト」を8回観た人がどれだけいるんでしょう。ただ、DVDリリースもそうでしたけど、本来の時間軸に沿っての再放送は、原作未読の視聴者には親切でしたね。

ばるぼら:「本来の」っていうのはハルヒシリーズの物語の中の時間軸ね。原作や第一期放送は話の進行は必ずしも時系列ではないんだけど、再放送は4月の高校入学から順に11月頃まで進んで、それで映画の『消失』は物語の中では高校1年生の12月の話で、って綺麗につながる。で、まあ、その盛り上がりに欠けた状況で遅すぎた期待の映画『涼宮ハルヒの消失』がですね、つまらなかったらどうしようもなかったんだけど、ものすごく質の高い、隙のない構成で練り上げられた、つまり面白いものだったんですね。

編集部I:うん、本当に面白かったです。

ばるぼら:それでこういう「何か語った方がいいんじゃないの」という場が設けられてるわけですけど。映画を思いだしながら話していきますかね。

■『消失』の魅力はどこにあるか?

<<<<!!CAUTION!!ここからネタバレに配慮しません!!>>>>

編集部I:結果として『消失』は映画になりましたけど、映画でよかったですか?

ばるぼら:映画館じゃないと2時間40分もじっと見てられないから映画館で正解でしょう、もちろん。テレビでやってたら絶対途中で立ったりちょっとネットみたりしてしまうに決まってる。そもそもテレビだったら絶対に原作のどこかが省略されただろうけど、ほとんど省略なしで忠実だった。

編集部I:キョンのひとり語りがいつにもまして多いですもんね。僕が思うに『消失』ってハルヒシリーズの魅力がよくわかるストーリーじゃないかと。

ばるぼら:たとえば?

編集部I:ひとつは、時間を横断して行き来して伏線を回収するという、SF的な魅力。もうひとつは、ハルヒとその取り巻きキャラの魅力。

ばるぼら:みくるの魅力は(小)より(大)でしたね。役割分担として、普段の長門の全能的役割が『消失』ではみくる(大)に回ってきた感じ。

編集部I:今回の長門に超常的な力がないから、そうした役割は必然的にみくるがこなさないと物語が進まないですもんね。みくるは大人の魅力、青春期をすごしちゃった意味深な魅力が全開でした。いずれにせよキャラのIF的なものが見て取れる。それこそ古泉の「好きなんです」、死んだ目のハルヒ、感情が表現されている長門などなど。

ばるぼら:そのハルヒの目が死んでるっていうか退屈そうな描写は、改変前の、キョンと出会う前までのハルヒの表情でしょう? 改変前と改変後の世界は基本は長門以外性格は変わってないんですよ。長門だけ正反対に変わってて、あとは宇宙人とかのSF的設定が取り除かれたくらい。SFじゃなくなって、普通の学園生活を送る場合、彼らはこのように生活するという世界。

編集部I:そう、だからIFですよね。状況が違えば言動も異なって当然かと。

ばるぼら:キャラのIFじゃなくて設定のIF。これでキョンの性格まで改変されてたら、二次創作の同人誌にありえるわけですが、そうじゃないから物語に展開が起こるわけですな。一人だけ取り残されてる。それでキョンとのやり取りの中で、それぞれのキャラの本質が垣間見える。

編集部I:SF的な高度に構成されたストーリー上で、キャラたちの二次創作的とも言えるふるまいからその魅力が再認識できる。映画化のための素材としても『消失』は最適に思えますね。

■『消失』は何を肯定するのか?


『涼宮ハルヒの消失』 発売元=角川書店 発売日=2004年7月
ばるぼら:それで、改めて『消失』がなぜファンの間で人気が高いのかというと、ハルヒシリーズで転換期になる話だからだと思うんですね。どんな転換かというと、ここではじめてキョンが積極的に、明確な意思決定を行うからです。

編集部I:キョンが「やれやれ」をほとんど言わないんですよね。

ばるぼら:キョンも昔は非日常との邂逅に憧れていて、でも諦めて平凡な日常を生きていたんです。それがハルヒとの出会いで一変した。そこからしばらくは巻き込まれ型の傍観者を気取って、脇役を演じてたつもりのキョンが、『消失』でついにハルヒとの非日常の暮らし=今を肯定する。で、結論に近い話をしてしまいますけど、キョンっていうのは、このハルヒシリーズを読んでいる、ライトノベル読者の姿をうつしたものだと思うんですよ。原作では読者に対してキョンが語りかける場面があるんです。

編集部I:読んでるときは気付かなかったな。どんな場面ですか?

ばるぼら:P238、病室で記憶を取り戻したところ。「それのどちらが幸せだったのか。/もう解っている。/俺は『今』こそが楽しかった。そうとでもしないと、死にかけてまで俺のやった行為はすべて無駄になってしまうじゃないか。/ここで質問だ。キミならどちらを選ぶ? 答えは明らかなはずだろう。それとも俺一人がそう思っているだけか?」。

編集部I:こんな描写があったんですね。

ばるぼら:ハルヒが性格がヒネてるだけの普通の女子高生で、SFっぽい設定とは関係ない日常の世界と、今いる自分の置かれてる非日常世界を比較するんですけど、ここで非日常でドタバタの世界を生きることに決めたキョンっていう姿を読者に共感させるんです。キミもそうだろ? もやもやしてた思いがクリアになる。ここに小説版の『消失』の面白さっていうのが凝縮されてるんです。

TVアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」OP主題歌 冒険でしょでしょ? 発売元=ランティス 発売日=2006年4月26日
編集部I:それで『消失』の映画でもオープニング曲は「冒険でしょでしょ?」なんですね。新テーマソングを付けることもできたはずなのに。

ばるぼら:そう。だからエンディング曲は変わってたけど、テレビ版と同じ「冒険でしょでしょ?」を選んでることには意味がある。『消失』はキョンはずっと脇役を演じてるつもりだったんだけど、でも実は前から主人公の一人なんだよ、っていうことに気付くお話なんですね。中心はキョンの成長物語なんです。これはライトノベル読者の共感を得ると思う。小説読んでるだけだと思ってても、実はもうキミの冒険も始まってるでしょでしょ?っていうこと。

編集部I:今までのハルヒが発端となるハチャメチャな非日常を自分にとっての日常として、キョン自らが選び取る物語。ラノベと成長物語の親和性の高さは当然でしょうが、『消失』には明確な寓意が込められていると。ハルヒシリーズではこの後の『陰謀』で長門がキョンに「未来につながる今を生きること」の大事さを説きますよね。

ばるぼら:たぶんそれはハルヒシリーズ全体のテーマになってるんじゃないかと思います。んで『消失』に限ってみれば、全体のストーリーとしては「長門を選ぶかハルヒを選ぶか」という選択肢でハルヒを選んだキョン、という感じですかね。

編集部I:最後のハルヒ特製鍋についての言及からも見て取れますよね。

ばるぼら:でもそれを「日常を選ぶか非日常を選ぶか」という問題に置き換えたまま修正しないところがキョン視点なんですよ。

編集部I:その視点が端的に現れてるのは、やっぱり長門への接し方。長門の好意を受け止められない自分、で長門と接するのではなく、みんなで仲よく今までどおりがいいよね?と接するんですよね。

ばるぼら:白紙の入部届を返す時に、長戸にとっては一緒にいたいという告白に近い意思表示を断られたんだけど、キョンはあくまで改変後の世界に安住することを拒絶したつもりなんだよね。すれちがい。

■フィーチャリング長門有希

編集部I:この『消失』の質の高い構成力も映画だから実現したように思うんですが、気になった演出や場面はありますか?

ばるぼら:最後の長門の「ありがとう」が一番わかりやすいですけど、『消失』には対比と反復が沢山出てくるんですね。対比は改変前・改変後のサイン。反復は時間の経過のサイン。何度もくり返される朝の起床シーン、曲がり角で会う朝比奈&鶴屋さん、古泉の「うらやましいです」、文芸部のドアを開けるシーン(ノックする、しないで知らない世界と知ってる世界を表現)、長門が本を落とすシーン(第一期OP)、ハルヒが部室に入ってくるシーン(改変前の世界と図らずも同じ行動をとる)、もちろん長門の「ありがとう」……。

「涼宮ハルヒの憂鬱」7巻 発売元=角川グループパブリッシング 発売日=2008年12月10日
編集部I:いっぱいありますね。部室のパソコン、NEC Value Star PC-9821も寂寥感の演出に何度も出てきました。漫画版『消失』ではノートPCだったので、あの古めかしさは狙って行われてる。映画化にあたって原作からストーリーはほとんど改変されてないですよね。オリジナルと思われる要素は意外と少ない印象。

ばるぼら:完全オリジナルは図書館での長門のエピローグくらいですかね。「本で口元を隠して欲しい」という原作者の意見を取り入れてはいるみたいですけど。ストーリーはほぼ変更なくて、設定は細かい部分でちょこちょこあるかな? 大きいのはラストの病院屋上シーン。

編集部I:これは大きいですよね。修正後の世界で長門とキョンの対話シーンが病室から屋上へ、そしてそこで雪が降る設定へと変わっていました。

ばるぼら:雪が降るのは『憤慨』に入ってる「編集長★一直線!」からの着想なんでしょうけど、今回はクリスマス前っていう時期設定、かつ長門有希=ユキがメインだから、雪に関する記号が頻出してましたね。パーティの準備で雪の結晶の飾り物をずっと見つめてる。あと栞のメッセージの裏側に雪の結晶がデザインされてる。原作では「花のイラストが入った栞」。

編集部I:いろんなところに散りばめられてますね。雪に絡めた表現は他にもありましたっけ。
ばるぼら:駅の改札みたいな抽象シーンで雪の結晶が降ってましたよね。長門が感情を高めてる時に出てくるサインだったのかもしれません。雪のモチーフが長門を象徴してるのは自明なので。ベタすぎるくらい。

編集部I:長門の感情は決して明示されることがないですもんね。

「公式ガイドブック 涼宮ハルヒの消失」 発売元=角川書店 発売日=2010年2月26日
ばるぼら:そう考えた場合、最後の長門の感情の成長を表すシーンで雪を沢山降らすっていうのは、ベタな演出としてはいいかもしれませんね。無意味に感動を煽りたいってだけじゃないという意味で。ちなみに文芸部の部屋でキョンが「全部、お前のか?」と聞いて、長門が「前から置いてあったものもある。これは借りたもの」ってシーンは、図書館で借りてきた本を見せることでキョンが自分のことを思い出さないかな?っていう期待が込められてるシーン。これは原作にもありますが。

編集部I:切ない話ですね。世界を改変させた長門の願いが透けてみえるようです。

ばるぼら:そうですね、ハルヒの情報創造能力を利用してまで世界を改変して、自分が普通の女の子になった場合にも(改変しつつ)残されている、キョンとの記憶なわけですからね。

編集部I:そんな長門の好意を改変が終わってからも気付かないキョン。それとも気付いてますかね?

ばるぼら:どうかな、気付いてないでしょうね。それがライトノベルをライトノベルたらしめる掟。主人公は絶望的に奥手でニブい、という。

編集部I:『消失』は、絶望的にニブい主人公なんだけど、キョンがハルヒへの自分の思いについても自覚的になった物語ですよね。

ばるぼら:でも自覚するだけで、他者、ここでは長門が、自分に対しどう思ってるかについてまで頭が回らないのが、キョンの未熟なところなんです。

編集部I:そのことが長門を愛すべきキャラに仕立て上げてるんですよね。

■映画は何を演出しているのか?

ばるぼら:気になったところはないですか?

編集部I:寝袋のハルヒに触れる指のシーン。原作と比べてみたいですね。慈しみを感じました。

ばるぼら:寝袋のシーンは原作にあります。P232「俺はベッドに座ったまま手を伸ばし、怒ったような顔で眠る顔に指先を触れさせた。/ポニーテールには足りない長さ。俺の目にはたまらなく懐かしい。その黒髪がむずかるように揺れた」。

編集部I:あれれ、それほど慈しみが感じられないですね。顔に触れた、ぐらいですか。

ばるぼら:若干長めなのは演出家が加えたシーンです。「愛しい人にやっと会えた」という気持ちを出してみたという。「(古泉が)いなければチューしてたんじゃないかな(笑)」という演出家の石原立也さんの発言が公式ガイドブックにありますね。唇に触ったシーンが暗示してる。

編集部I:だからこそ雪を降らせてまで長門の感情を演出して見せる必要があったというわけですね。その後の原作『陰謀』で触れられますが、長門が最後にとった行動は、彼女にとっても大きな転機になる重要なシーン。あの最後の「ありがとう」も、すでに伏線が張られているんですよね。

ばるぼら:長門の部屋で、あの時の図書館で言えなかったお礼として言われる一回目の「ありがとう」は、原作にはありません。最後の「ありがとう」のために、アニメスタッフ側がよりわかりやすく対比の構造を持ってきています。

編集部I:あ、一回目のほうは映画オリジナルなんですね。漫画版だと言いかけて言わなかったような。

ばるぼら:そこは原作をどう解釈し、どこを中心に見せたいかという演出上の判断で選ばれたんでしょう。映画『消失』では長門の心の動きをより大きく見せようとしたってことでしょうね。

編集部I:それにしても映画『消失』では古泉、大人みくる、長門というサブキャラたちは、感情が透けて見えますね。

ばるぼら:その感情の透け方は全部映画オリジナルですからね。古泉の「うらやましいです」、大人みくる「いつか分かる日がきます」、長門「ありがとう」。

編集部I:キョンのハルヒに触れるシーンは原作にも描写があるけど、サブキャラたちはあえて追加されてるんですね。

ばるぼら:聞き取りづらかったけど、レストランから出てきて、踏み切りの音に紛れながら、古泉が属性無しでキョンがハルヒに好かれてることに対して「うらやましいです」って言うのが一回目。その後、キョンが病室で目を覚まして、団長がずっと心配していたことに対して「羨ましく思っているだけです」と語る二回目。つまり世界改変前後でキャラの性格自体には変化がないとすれば、二回目の方の「羨ましい」という感情にも、ハルヒが好きだけど選ばれない寂しさっていうものが込められてることになる。

編集部I:「涼宮さんのことが好きなんですよ」ってハッキリいう台詞は原作通り。でもこのつぶやきの方が切ない。

ばるぼら:大人みくるが高校時代を振り返って言うのは、原作だと「たいへんだったけど、全部いい思い出です」だけ。映画だと「きっと、いつかあなたもこの高校生活を懐かしく思う日が来ます」「終わってしまえば、何もかも、あっという間だった……。夢のように過ぎてしまった……。そんなふうに……」って郷愁が入る。この12月頃のみくる(小)はまだ自分の任務を知らせてもらえないアイデンティティ不安定状態だけど、それを乗り越えて肯定できることを大人みくるが示すことで、キョンへの励ましになっている。

編集部I:これまでのこともこれからのことも、全て知ってるキャラは大人のみくるだけですもんね。そして長門の部屋で言われる「ありがとう」ですね。

ばるぼら:原作では図書館のことをキョンが覚えてないことにガッカリするだけなんですけど、映画では勇気を出してお礼を言うんですね。でもその言葉はかえってキョンに「長門がこんなことを言うなんて」と戸惑いを残す。屋上のシーンでの「ありがとう」は長門の感情の成長で、描写されないけどもちろんキョンは嬉しかったでしょう。そういう対比効果を生んでるんです。

編集部I:明確な意図を持ったオリジナル要素や、細やかな演出力がこの映画版『消失』の高い構成力を担っているわけですね。

ばるぼら:そう、原作におけるキョンの自己認識という主軸はしっかり描きつつ、サブキャラクター一人一人の魅力も打ち出せている。後者はアニメの演出の部分に因るところが大きい。なんていうかな、全体的にこの後の物語へ期待をもたせる作りになってると思いませんか? この映画一本あればもうハルヒはいいや、って言う人は流石にいないと思うんですよね。だって今回そんなにハルヒがメインで活躍はしてないから(笑)。つまり映画は一つの大きなポイントではあるけど、ここがハルヒシリーズのピークではなくて出発点だという含みを持たせてると感じます。その今後への期待を煽るところも含めて映画を「面白かった」と感じたのではないかと!

編集部I:まとめに入ってますね?

ばるぼら:ほら、映画だけだと解決してない部分が残ってるでしょ。みくるや長門と12月18日早朝の世界改変を修正しに行く件やら、キョンが階段から落ちたことになってる件やら、その時階段の上に「女がスカートをひるがえす姿」を見たってハルヒが言った件やら。それも含めて、『消失』が映像化されたことで、ようやく物語内のクリスマス以降の話をアニメで出来るんですよ。ここからがハルヒシリーズの核心だから、『消失』でようやくハルヒアニメのプロローグを終えたという……。

編集部I:長すぎたプロローグでしたね。では今後もハルヒに期待、と。

ばるぼら:全然関係ないけどマンガ版だとキョンが刺された時に助けにきた人たちの中に髪の長いハルヒの姿がなぜかいたりするんだよね。あれずっと気になってるんですよ。

編集部I:そういう混ぜっ返しは今度にしてください!

構成・文=ばるぼら・編集部

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ばるぼら  ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』(共に翔泳社)『NYLON 100%』(アスペクト)など。『アイデア』不定期連載中。
「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/
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