A tribute to Dan Oniroku
追悼 団鬼六 |
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『肉の顔役』に魅せられて
日本人のSM観に多大な影響を及ぼした小説家・団鬼六氏。それは団鬼六というひとつのジャンルであり、日本における官能という文化を語る時、避けては通れない歴史の分岐点でもあるでしょう。去る5月6日に永眠された氏を悼み、WEBスナイパーでは「追悼 団鬼六」と題した特集記事を掲載して参ります。第6弾は連載小説「赤い首輪」などでおなじみの小林電人氏が、熱心な団鬼六ファンの一人として語る『肉の顔役』の魅力。電人氏が「実用的」と評するその中身とは……。高校生の頃から、SM誌を読んでいた私は、どの雑誌にも掲載されていた団先生の小説は、もちろん読んでおりましたし、桃園書房などから発売されていた単行本もずいぶん買いました(表紙が大人しいので買いやすかったのです)。
どの作品でも繰り返し描かれる、高貴な女性や清純な少女が、羞恥にまみれながら堕とされていく姿は、何よりも私を興奮させてくれます。その後も、たくさんの官能作家が私をときめかせてくれましたが、やはり団先生の描写は圧倒的でした。それはもちろん文学的な筆力に負うところが大きいのでしょうが、団先生の作品においては、それすらも興奮を盛り上げるための要素に過ぎないのではないかと思うのです。
私のお気に入りの(つまり最も多く「使わせて」いただいた)作品は『花と蛇』、そしてそれ以上に好きなのが『肉の顔役』です。
『花と蛇』は言うまでもなく、団先生の代表作であり、文庫本10冊にも及ぶ超大作です。しかし、その長さにも拘わらず、内容は屋敷の中で美女たちがひたすら調教を受けるだけというもの。つまり全編が「実用的」なのです。どこを読んでも「使える」のです。分厚い太田出版が出た時などは、いつも途中で抜いてしまうため、なかなか読みきることが出来ませんでした。
『花と蛇』は、26歳の美しい人妻・静子を筆頭に、女子高生の美津子から32歳の熟女・珠江までの7人の美女が、代わる代わるに責められます。バラエティに富んでいるという魅力もありますが、正直言ってその分、散漫になってしまっている印象も拭えません。
その点、『肉の顔役』も8年間に及ぶ長期連載という大作でありながら、元子爵夫人の美紀と、その娘の由美子の母娘二人だけへの調教に集約されています。つまり、じっくりみっちりと責めの描写が続くわけです。
舞台は終戦直後の混沌とした時代。気高いばかりの美しさを湛えた元子爵夫人の有川美紀と娘の由美子が、借金のカタとして高級売春窟・紅バラ御殿の一味に売り飛ばされてしまいます。そして二人を、紅バラ御殿での変態ショーのスターにするための淫らな調教が繰り広げられます。
冒頭こそ、二人をこの境遇に追い込むまでの経過が語られますが、捕らえられてしまってからは、もうひたすら羞恥責めのオンパレードです。
美紀夫人の加えられる調教を書きだしてみましょう。青竹に両脚を縛りつけられて吊られてのご開帳から始まって、以前の使用人たちからの性感チェック、輪姦、クリトリスに糸を結んでの豆吊り。この調教は凄まじく、美紀夫人はそこにビール瓶をぶら下げられるまでに鍛え抜かれます。
可憐な女学生だった由美子も、当然の如くに処女を奪われ、ゆで卵をそこから産ませられます。さらにゴム棒でのフェラ特訓、夫人と同じく豆を吊られてジュース瓶をぶら下げられます。
個人的に嬉しいのは、この作品では肛門責めが重視されていることです。浣腸はもちろん(排泄シーンの描写がないのは残念ですが)、ガラス棒での拡張、タコ糸通し、綿棒での直腸掃除、玉子産みに、もちろんアナルファックと二人は徹底的に肛門を責められます。
中でも一番好きなのは、美紀夫人の肛門を由美子に舐めさせるシーンです。この二人は実の母娘でありながら、レズの関係を結ばされてしまうのです。美紀夫人は調教者たちに命令されて、こんなセリフを言わされます。
「由美子、お願い、目をそらさないで。お母さんのお尻の穴をよく見て」
「由美子、わかって? これがお母さんのお尻の穴なのよ」
「可愛い? それとも醜い? ねぇ、黙って見ているだけじゃ嫌。何とかいって、由美子」
娘の前で尻肉を広げられ、こんなあさましい言葉を強制される美しい母親。その惨めさを想像するとサディスティックな興奮が燃え上がります。
そして由美子も母を助けるべく、顔を尻肉の谷間に埋め、窄まりに舌を這わせるのです。なんと凄まじい光景でしょうか。
このシーンは、何度読んでも高ぶりを抑えられません。
調教者たちは、二人にレズの関係を結ばせるだけでは満足せず、さらに恐ろしい計画を企みます。それは脱走兵士の黒人ジョニーの子供を二人に産ませようというのです。二人は実の母娘でありながら、レズであり、さらには同じ男の子供を産むという複雑な関係にさせられるのです。
このジョニーという男の絶倫さは凄まじく、何時間でも女を犯し、何発でも発射できるという化物。彼から由美子の処女を守ろうと自分の肉体を差し出した美紀夫人は、4時間に渡って犯された末に失神し、結局由美子は処女なのにいきなりジョニーに2時間も犯されてしまうのでした。
これほどまでに調教者たちが彼女たちを堕とすことに熱中するのには理由があります。戦中の厳しい時代に、ぬくぬくと優雅な暮らしをしていた貴族階級への恨み。そして彼らの親玉である堀内は、美紀夫人の父親である岩崎中将の逆鱗に触れたことによって軍法会議にかけられた憲兵中尉だったのです。つまり彼らにとっては二人を汚し抜くことは痛快な復讐というわけです。もちろん、二人には何の罪もないのですが。
紅バラ御殿のショーなどで、ジョニーに犯され続けた由美子はやがて妊娠。それが発覚すると、調教者たちは美紀夫人にもジョニーの精子を人工授精させます。
物語の終盤には、お腹の大きくなった二人を堀内の軍隊時代の仲間がいたぶるという祝いの会が催され、さらには二人の出産で終焉を迎えます。
さすがにこのあたりになりますと、私もちょっとついていけないので、あまり読んでいないのですが、とにかく団作品の中でも、精神的にも肉体的にも徹底して嬲り抜かれてしまう母娘なのです。読んでいても、よくもここまでひどい目に、と思ってしまうほどです。
そして団作品のヒロインたちは、汚されれば汚されるほどに輝きを増すのです。そういう意味では美紀・由美子母娘は、団ヒロインの中でも、とびきりの輝きを放っていると言えるでしょう。
今回この原稿を書くに当たって、また『肉の顔役』を読み返したのですが、やはり我慢できなくなってしまいました。もう、数えきれないほど読み返しているというのに。
どんなに素晴らしい女体でも、いずれは飽きるし、輝きを失ってしまうものだとは思いますが、私のお気に入りであるいくつかの「ズリネタ」は、何度使っても(それこそ30年も!)飽きることはありません。この『肉の顔役』の母娘も、そうした永遠の「ネタ」なのです。たぶん、これから先もずっと私は彼女たちにお世話になるのでしょうね。
文=小林電人
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