special issue for silver week 2011
2011シルバーウィーク特別企画/特集「女性向けAVの現在形」
女性向けアダルトメディアの歴史・彼女たちの欲望 文=安田理央WEBスナイパーがお届けする2011年シルバーウィーク特別企画、これまでは急激に活性化が進む女性向けAVを中心にご紹介してきましたが、ここでAVに限らない女性向けアダルトメディアの歴史を、フリーライター、そしてアダルトメディア研究家の安田理央氏にご紹介いただきます。現在の活況に至るまで、多くのクリエイターたちが女性の欲望と向かい合ってきました。そんな苦難の道のりの数々を、皆さんはご存知でしょうか。
レディースコミックの元祖は、1979年創刊の「Be in LOVE」(講談社、後に「Be LOVE」に)とされているが、これは少女漫画を卒業した年齢の女性向けのコミック誌であり、いわば「ヤングジャンプ」や「ヤングマガジン」の女性版に当たるものだ。
女性向けコミック誌に本格的なセックス表現をもちこんだのは、1985年創刊の「La.comic」(笠倉出版社)が最初であり、続く1986年創刊の「FEEL」(祥伝社)と共に漫画界に衝撃を与えた。その描写はどんどんエスカレートし、1989年創刊の「アムール」(サン出版)がSMなどのアブノーマルなセックスを扱いだすと、レディコミは一気に加熱する。90年代初頭のバブル期には、月に80誌ものレディコミ誌が乱立し、30万部などという売上を記録する雑誌も登場した。内容も純愛物からハードな物まで幅広く、男性向けAVと遜色のない、いやそれ以上に過激な世界となっていく。
こうしたレディコミブームの中から生まれたのが、レディースマガジンだ。1993年に「綺麗」(笠倉出版社)、そして1994年に「Fuu」(マガジンボックス)が創刊。これは女性のためのセックス雑誌であり、グラビアには男女のハードなセックス写真や、AV男優のヌードが掲載され、記事もひたすらセックス、セックス、セックス。
そしてこうした雑誌で最も人気が高いのが読者参加企画だった。人気AV男優に抱かれたいという読者女性、あるいは読者カップルが応募してきて、その痴態を誌面で公開するのだ。
いわば女性向けエロ本なのだが、より実践的な面が、あくまでもファンタジー(妄想)色の強い男性向けエロ本との大きな違いだろう。
実践的なセックス記事ということなら、「綺麗」以前にも偉大なる先達がいる。1971年創刊の「微笑」(祥伝社)だ。「受け身のセックスから女性自身が楽しむセックスへ」という女性の性意識の改革を啓蒙するかのように性器の構造や性感帯の研究、愛撫のテクニックなどを科学的に図解で説明した。一見、女性週刊誌風の表紙に騙されてしまいそうだが、内容はこのようにかなり過激だった。
女性誌のこうした実践的なセックス記事は、ティーンズ向けの雑誌へも波及。1984年には「ギャルズライフ」(主婦の友社)などの内容があまりにも過激だと国会で糾弾される事件にまで発展している。
さて「アムール」が創刊され、レディコミが空前のブームに突入しようとしていた1989年には、もうひとつ大きな出来事が起きている。女性誌として絶大なる影響力を持つ「an・an」(マガジンハウス)が、「セックスできれいになる」という特集を行なったことだ。あの「an・an」までがセックスを大々的に取り上げたという衝撃は社会的な話題となり、大ヒット。当然、「an・an」は更にセックス特集をエスカレートさせていく。1991年には、なんと本木雅弘のヘアヌードを掲載。以降、男性タレントのヌードグラビアは定番化する。
「綺麗」や「Fuu」の創刊は、レディコミのブームだけではなく、こうした流れも受けたものであろう。
しかし、90年代半ばには、レディコミバブルはあっさりと崩壊する。市場が飽和状態に達して読者に飽きられてしまったのか、売上は激減。あっという間にレディコミ誌の数は半分以下になってしまった。
そして同じようにレディースマガジンも失速。元祖の「綺麗」は2000年代まで、なんとか生き延びるが、追従した類似誌はバタバタと休刊していった。
これはレディースコミック、レディーズマガジンの出版社が中小規模の会社が多かったために出版不況の影響を受けやすかったという理由も大きいだろう。女性のセックス情報に対するニーズが衰えたわけではない。
「an・an」はその後、順調にセックス特集を繰り返し、2006年には当時トップのAV女優であった夏目ナナ主演のDVDを付録につけるまでに至った。それは成人指定はされていないものの、夏目ナナのセックスシーンが描写された、ほとんどAVと呼んでよいものだった。
これが女性向けAVとして、一般的に認識されたものとしては第一号と言ってもいいだろう。何しろ数十万枚規模で、女性読者の手に渡ったのだから。男性向けでもそれだけ多くの人が観たAVは少ない。
「an・an」以前にも、女性向けAVは作られていた。その最初の作品として確認できるのは、1990年にJVDから発売された『シンデレラになりたくて… AV女優、小沢奈美の性の事情』だ。「JVDが女性をターゲットにしたアダルトビデオ『シンデレラになりたくて』を卑弥呼レーベルの第一弾として発売」と表記される資料があるのだが(「アダルトビデオ20年史」東京三世社)残念ながら内容は未確認。ただしパッケージを見る限り、特に女性向けという感じはしない。
1994年にはAV女優であった哀川うららが自ら監督した『Fake or Truth』が発売されている。女性が女性向けに制作したビデオで、よりよいオーガズムを得るためのオナニー講習ビデオとなっている。
またこの年に発売された『別冊宝島 メディアで欲情する本』(宝島社)の「いますぐアクセスできる女のセックス最新情報」(芹島直美)には、「これぞ女性向けのアダルトビデオ」として『美少年狩り』なるAVが紹介されているが、「入手方法は通信販売制で、完全秘密厳守」とのこと。我々男性の目の届かないところで、こっそりこうしたビデオが作られていた可能性はある。
ここに上げた例以外でも、AVメーカーは何度も女性向けAVに挑戦している。90年代後半に、とある有名メーカーが女性向けAVをリリースするために女性ディレクターを入社させたことなどもあったようだ。しかし、そうした試みは継続することはなかった。商業的には成功しなかったのである。
その理由として、女性は「エロ」に金を払わないからという話をよく聞く。女性向け風俗店も、何度も作られては失敗している。あれは、女性はホストクラブのような「恋愛」にコーティングされた風俗ならば、金を惜しまないが、直接的なセックスに金を払うのは自分のプライドを傷つけるようで好まないのだと。
もっともらしく聞こえるが、その説を裏付けるような統計は、特に取られていないようだ。ただ、大成功を収めたレディースコミックや「an・an」がいずれも安価に購入できる出版物だったことから考えると、うなずけないこともない。男性のように、「エロ」だからといって、財布の紐は安易にゆるくはならないのだ。
そんな女性とAVとの関係に変化が起きたのは2000年代に入った頃だ。一人のAV男優に女性からの注目が集まった。
TOKIOの長瀬智也を思わす端正なマスクを持つ男優・南佳也だ。彼の人気に火がついたのは、一説によればCSのアダルトチャンネルだという。昼下がりに放映されている熟女物の視聴率が高いというので、調べてみるとそれを観ていたのは主婦層だった。彼女たちは、熟女の相手を務める男優・南佳也が目当てだったのだ。
そしてテレビ番組「トゥナイト2」で美形男優として彼が紹介されたことでその人気は爆発した。
当時、彼がよく出演していたメーカー、ロイヤルアートのサイトはすごかった。トップページからいきなり南佳也のドアップ画像。さらに「南佳也フリーク」「南佳也コレクション」「南佳也が満載!!」などという文字が踊り、もちろん南佳也ファンクラブまである。
基本的には、男性向けとして作られているはずのAVメーカーなのだが、ここまで南佳也シフトを引いてしまうほどに、彼の人気は絶大だったのだ。
南佳也はその後、テレビ番組にレギュラー出演するなど芸能界で活躍するようにも見えたが、それほどの成功を収めることはできなかったようである。
しかし、AV男優にもイケメンがいるということを世間に知らしめた功績は大きいだろう。
また、彼の人気がCS放送から火がついたという点にも注目したい。いくら女性向けAVを作ったとしても、それを購入するのが男性向けAVショップでは、女性が足を運ぶはずがない。当時は怪しげなイメージもあり、通販でAVを購入するのも敷居が高かった。女性のニーズがあったとしても、それに応えるインフラが整っていなかったのだ。CS放送は、その点で数々の問題点をクリアしていたと言える。
そして2009年、いよいよ本格的な女性向けAVメーカー「SILK LABO」が登場する。ラブロマンス物のテレビドラマや映画のように美しい映像とイケメン男優たち。洗練されたパッケージなど、女性の好むAVを徹底的に研究しつくしたような作品作り。売上も好調なようで、リリースも続いている。
さらにその年末には女性向けアダルト動画サイト「Peach joy」、2011年夏には、新たな女性向けAVメーカー「JUICY DINER」も登場。また老舗AVメーカーh.m.pがイケメン男優、鈴木一徹の出演シーンを女性向けに編集したベスト盤DVDを発売するなど、女性向けAVシーンは急に活況を見せている。
これまで問題となっていたインフラは既に整っている。ブロードバンドの普及により、誰にも気づかれずに女性がアダルトコンテンツを見ることが可能となった。
さらに若い世代の携帯電話で動画を見るという習慣の定着も大きいだろう。最近、新人のAV女優にインタビューすると、必ずといっていいほど、携帯電話でAVを観ていたという話を聞く。こっそりと観ることができる携帯電話でのAV視聴は、男女の壁を作らない。女性も観たければ、何の障害もなくAVを観ることが出来るのだ。
現に、AVを配信しているとある携帯サイトでは、ユーザーの三割が女性になっているという。
ネット通販も動画配信も身近なものとなった現在、女性向けAV普及の障害となるものはなくなったように思える。
あとは、「女性はエロに金を払わない」というジンクスのみだろう。
AV業界が女性客を取り込もうと躍起になっているのには、理由がある。AVユーザーの市場規模の縮小が見えているからだ。
現在、AV購買層のメインとなっているのは30代後半から40代といったところだ。そしてそれより若い世代には、AVをお金を払ってみるという意識が薄い。現在のメインユーザーが高年齢化した場合、その下のユーザーがちゃんとお金を払ってくれるかどうかは、かなり疑問なのだ。
そういう意味では、人口の半分を占める女性がAVのユーザーになってくれれば、市場は一気に広がる。若い女性ともなれば、若い男性以上にお金を払ってくれるかはわからないが、とりあえずパイを広げれば、払ってくれる人数もグンと増えるだろう。
AV業界が今後生き延びられるかは、女性客の取り込みにかかっているといっても過言ではない。
さて、女性向けAVが市民権を得る時代は、ようやくやって来るのか。それとも……。
文=安田理央
関連リンク
SILK LABO
JUICY DINER
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