special issue for Golden Week in 2012
2012ゴールデンウィーク特別企画/特集:セックス表現の現在形2012
セックスを映画で観てみよう! 文=ターHELL穴トミヤかつては秘匿されてきた性の営みがメディアと技術の発展で白日の下に晒されている現在、様々なジャンル・作品においてセックスはどのように表現されていくのでしょうか。これまでの描かれ方も含めて改めて検証していく連休特集企画――。第2弾はターHELL穴トミヤ氏がまとめる"映画におけるセックス表現"。長い映画史の中で様々に扱われてきたセックス。その傾向とポイントを「感情別」に分類しつつ、かいつまんで再確認していきます。
アメリカで量産されたソフトコアポルノムービーを代表する彼のセックスは、ひたすらに明るく!ボインで!楽しそう! よく「アメリカ人のセックスはスポーツみたいだ」なんて言いますが、そうです! そのとおり! そこには、一点の影もなし! さすが1年365日晴れが続くと言われているカリフォルニア出身のラス・メイヤー監督なんですが、「特にこの作品がおすすめ」みたいのは正直どれも区別つかないのでないんですね。一番有名な『ファスター・プッシーキャット キル !キル!』は名作ですが(トゥラ・サターナの暴力的なセクシーさが最高!)、「セックス」を観るという観点からは別にそんなでもないので、お勧めできない! 『ワイルドパーティー』も有名ですが、これもカット割りが激しすぎて疲れるので、お勧めできない!というわけで『ヴィクセン』シリーズあたりがいいんじゃないでしょうか。おしゃれなんで、異性を誘って一緒に観れちゃうというのも良いですね。
『ファスター・プッシーキャット キル!キル!』
『ワイルド・パーティー』
『ラス・メイヤー ヴィクセン BOX (デジタル・リマスターヘア無修正版)』
ところが、セックスは明るいだけじゃなかった。ということで、次は観ていてひたすら「陰惨、落ち込む」セックスを描写している映画! まず思いつくのはラース・フォン・トリアー。
最近公開された『アンチ・クライスト』は「シャルロット・ゲンズブールにズポズポ挿入をドアップ・スローで接写!」(日本では修正あり)というものでしたが、映画を見終わったらインポ必至の、「セックスを否定するために全精力を傾けました」みたいな映画でした。
『アンチクライスト』
ちなみに彼は自分の映画製作会社でハードコアポルノも作っていて、女性のためのポルノ映画と銘打ち、こちらは罪滅ぼしのようなユーザーフレンドリーなセックスシーンばかり。『Hot Men CoolBoyz』とか、マッチョな男がホモりまくる微笑ましい映画なんですが、日本未公開なので、お勧めできない! 女性監督が作った、ポルノと劇映画の中間みたいな『オール・アバウト・アンナ』は公開されていて、これは後半に挙げますが、「(女性が)抜くためのムラムラ」セックス描写の映画ですね。出てくる男たちが揃いもそろって洋ピンぽくて、しかしなにか全体的にルイス・ブニュエルみたいな夢の中感が漂っている、中々の作品でした。
『オール・アバウト・アンナ』
そして話を陰惨にもどしますが、もう 1人、やっぱりミヒャエル・ハネケでしょう。「理性というのは腐った存在である」という気分をいつも沸き立たせてくれる最悪の映画監督ですが、そんな彼の『ピアニスト』は、「ついにセックスも奴の毒牙にかかった!」というものでした。セックスと理性がぶつかってしまった時、人はどうなるのか? 変態なら彼女を救えたのに......そう思ってしまう悲しい、しかし同時にセックスを無視する人生は必ず失敗するという重要なメッセージも感じさせる映画でした。
それから、ついこないだ公開されたスティーヴ・マックイーン監督の『シェイム』! こちらもセックスシーンを観れば観るほど心が冷えていき、映画の帰りには、電車できれいな人をついチラ見してしまっただけで、そんな自分に落ち込んでしまうという、嫌な視点を植え付けてくれる映画でしたね。
なんかさっきから最近の映画ばっかりですね。さて陰惨から、ショッキングへ。「観ながらよく分からない興奮をする」セックスを描いているのは、パゾリーニ『ソドムの市』。ちょっと古くなりました。ナチが美男美女を屋敷に監禁して、非道のかぎりを尽くす、悪徳の饗宴を繰り広げる!という SM映画ですが、これは陰惨といえば陰惨、しかし段々興奮も入り交じり、そしてなにより、絢爛さがある。エロと表裏一体の芸術感も増してきて、「なんかこれ、すげーんじゃねーか? これ今映っている以上のことが映ってるんじゃねーか?」っていう気分になってくる。
『パゾリーニ・コレクション ソドムの市 (オリジナル全長版)』
とくると、その究極はやっぱり、大島渚『愛のコリーダ』でしょう。映画で描かれる、セックス。その一つの頂点は『愛のコリーダ』です。全編セックス! ずっとセックス! しかし、ラス・メイヤーとの、この違いはどうだ!? セックスシーンなのに、ほとんどホラーにすら見えて来るのはなぜなんだ?! そして背徳感どころではない、もっとなんか、見てはいけない聖なるものを見てしまっているような、恐ろしさ。天皇家の歴史すら感じさせる、絵巻感! これは、世界最高のセックスムービーと言って過言ではない、セックスそのものがそのまま芸術であるというのをこれほど雄弁に語っている映画はないですね。この映画が日本人によって作られたということは、最高の栄誉です!
『愛のコリーダ』
しかし、この映画は日本国内で現像できず、わざわざフランスに持ち出して現像されたんですよね。これは日本人の恥でしょう。いやーその点はさすが、フランス。セックス芸術に対して進歩的ですね。
そもそもフランスでは 1920年代初期から、後にrisqueとか stag filmなどと呼ばれるようになる、地下上映のポルノフィルムが流通していました。これは映画史におけるポルノフィムの勃興期とされてるんですが、さっき一瞬出てきてしまいましたが「抜くためのムラムラ」セックス描写ですね。
そして、世界初のポルノフィルムはこれも諸説入り乱れてますが、かなり初期に属する(または最初とされている)作品としてアメリカの『Free Ride』(1915)があります。今でも検索すると普通に(ポルノサイトで)観れるんでぜひ探してみてほしいですが、もうモロ無修正のハードコアポルノですね。ハードコアポルノ映画がアンダーグランドじゃなくて、劇場に合法的にかかるまでは 1970年代までかかりますけど(そして日本ではまだ違法ですが)、勝手に撮って上映するぶんにはそりゃ、もうリュミエールの後 20年くらいで、すぐ始まっていたと。
それで、この映画は、車で 2人組の淑女をナンパして一発かますという内容なんですが、車も T型フォードですからね。レトロカーとかじゃなくて、車はそれ以外ねえよみたいな時代ですが、おもしろいのは後半でフェラチオをしている。「フェラチオ」がアメリカに広く紹介されたきっかけは、チャップリンの離婚裁判スキャンダルだったという話が有名ですが、それが 1927年。ということは、チェップリン裁判で世間で「フェラチオ」がホット・ワードとして急上昇していた頃、ポルノムービーをチェック済のイケてるガイズにとっては「おいおいお前ら『Free Ride』観てなかったのかよ?」という感じだったんでしょうか。かっこいいですね。
さて、AVによって退場させられるその日まで「抜くためのムラムラ」セックスを描く映画は永遠と続くんですが、やっぱり一番盛んだったのは 60、70年代。日本でもピンク映画ブームがもり上がります。そこで、田中登監督の『マル秘 色情めす市場』。監督が当初つけようとした題は『処女懐胎』だったっていうだけあって、バリバリの芸術映画なんですが、そうですね、これは「抜くための」カテゴリじゃなくて「なんだかよく分からないけど興奮〜」カテゴリに入れましょう。
『(秘)色情めす市場』
そしてこのピンク映画から飛び出す突然変異で、石井輝男作品による「抜くためのムラムラ」にしてはアホすぎるという、「小学生が考えたアホムラムラ」セックス描写という『忘八武士道』『徳川いれずみ師 責め地獄』などがあります。ノリとしては「おっぱいだー!」から始まる無邪気さが、どこまでも変態道をつきすすむという映画でした。
『ポルノ時代劇 忘八武士道』
『徳川いれずみ師 責め地獄』
そして石井輝男は笑えるんですが、笑えるといえば、三池崇。彼の『ビジターQ』における遠藤憲一の突抜けた死姦は世界レベルの「笑える」セックスとして、やはりこれも忘れられなかった。
そして、色々挙げてきたけど、「何も感情が動かない」セックスもある。そんな完全フラットなセックスとしてはマイケル・ウィンターボトムの『ひかりのまち』を挙げたいですね。
『ひかりのまち』
この映画のセックスのフラット感はすごいです、淡々と外出しして終わる、なんの感慨もわかないセックス。映画自体が全部淡々と進むんですが、その中にセックスも組み込まれている。若い時観ていやーな気持ちになりましたよ。「セックスはここまで生活として処理されていくのか」って。
それから最後にWEBスナイパーだけに、スナイパーの映画を挙げたいですね! これは抜けるともまた違う、「リアル!」なセックス、『スターリングラード』のセックスシーンです。
『スターリングラード』
日常に、こちらは突然湧いた、セックスへの驚きがある。ムラムラするほど、抜けるほど激しくもない、でも生々しい。戦争ものですが、見終わってみればセックスの、その感覚だけが印象に残っているという映画でした。
以上、セックスから「おしゃれ!」「陰惨」「よく分からない興奮、芸術」「ムラムラ抜ける」「小学生」「笑える」「何も湧かない」「リアル」を想起させる映画を挙げてみましたが、映画におけるセックスってこれ半端じゃないテーマですよ。掘り出したら終わらない。どんどん気になって、観たい映画もまた増えてきたし、GWは、ぼくはこのテーマをさらに自主的におしすすめていきたいですね。それかセックスがしたいです。
文=ターHELL 穴トミヤ
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