毎週土曜日更新! The dancing girls are in full bloom at their best.
咲きほころぶ踊り子たちの肖像 舞姫爛漫 第11回 「天羽夏月」 【1】
写真・文・インタビュー=インベカヲリ★
モデル=天羽夏月
ストリップ劇場でのストリップショー。黄金時代は過ぎたといえ、根強いファンはいまも劇場に通っています。そして踊り子たちもまた踊り続けているのです。そんな彼女たちの姿を追う「舞姫爛漫」、第11回は天羽夏月さんの登場です!
男子に「生意気だ」とか「気の強い女だ」とか言われて、しょっちゅう喧嘩してました
私、男子と喧嘩して7回病院行ってますから
只者じゃない雰囲気
私、男子と喧嘩して7回病院行ってますから
頬杖をつき、リラックスしてステージを見ていたお客さんの一人は、突然飛び上るように体を起こし、目を見開いた。天羽夏月は、ベッドショーでしとやかな女性を演じた直後、曲のテンポを一変させ場内の空気をぶっ壊したかと思うと、何の前触れもなく軽やかに側転した。まったく想像しなかった展開。客席が唖然とする中、華麗な肉体を見せつけ颯爽と舞台袖に消えていった。強烈な凄みを感じるステージ。頭をガツンと刺激され、今観たものはなんだったんだろう?と絶句させられる。
天羽夏月のステージを観たときに、最初に思い浮かんだこと。「頭のどこかがぶっ飛んでいる」「なにかものすごい人生を体験してる人に違いない」、いくつもの憶測が頭の中をぐるぐると飛び交い、「もしかして頭がイカれてるのか?」とまで思ってしまった。
大阪在住の天羽夏月は、この日、東京にある劇場の寮に泊まっていた。部屋にお邪魔し、撮影の打ち合わせのため衣装を見せてもらう。彼女は落ち着きがありながらも、よく喋る人だった。エレベータで建物に上がる間も、まるでインタビューが始まっているかのように自分のことを話してくれる。高校時代のこと、体が健康ではないこと、ステージのこと。そして衣装を取り出すたびに、そのときの演出や意図などを丁寧に説明してくれた。そのどれもが人を惹きつける魔力を持っていて、ほんの少しの言葉からも、好奇心をグイグイと引き寄せられる。天羽夏月は他の踊り子とは決定的に違う何かを持っていた。
「お手柔らかにお願いします」
インタビューが始まると、彼女はニッコリほほ笑んで席についた。
数日ぶりに見る天羽夏月は、まるで別人のように違うオーラをまとっていた。一寸の隙もない緊張感。それはピシっとした姿勢からか、ハッキリと通る声からか、まっすぐと相手を見つめる目からか、自分にも相手にもとても厳しいという姿勢がビシビシと伝わってくる。ステージ後に会った時の柔らかさは、そこにはない。「お手柔らかに」はこっちの台詞だ……。裸足で逃げ出したい気持ちを押し殺し、私も同じような姿勢でまっすぐと彼女の眼を見てみたが、その差は歴然だった。
「父方が古い歴史のある家で、武道一家なんですよ。父が武道をやっていて、母はダンスの先生ですね。だから小さい頃からスポーツをやるのが当たり前。3歳からクラシックバレエ、小学校の3年から武道を始めて、同時進行でダンスも色々習ってましたから、なんでもやりましたね。水泳以外は一通りできます。人間って筋肉つけすぎると沈むから、水泳だけはできないんですよ」
ステージでのハードな踊りと、美しく鍛え上げられたカラダを見れば、運動をしてきた人間であることは明らかだった。しかしその「運動」のレベルは、はるかに想像を超えていた。
「変わった家だったんですよね。できて当たり前で、できなきゃ駄目だったから、試合に負けると父親にボコボコにされました。普通、娘の顔を殴らないでしょ!? 顔をグーで殴られましたからね。よい時は竹刀か物なんですけど」
よい時で竹刀か物。普通は逆じゃないかと思うが、天羽夏月の家は違った。
「だって、物であれば、物を持ってるって意識があるからそんなに強くは叩かないじゃないですか。素手だと加減しても痛いんですよ。吹っ飛ぶんですよ。吹っ飛んで意識なくなるんですよ。父親はヤスリをトンカチの先につけて、ずっと殴って鍛えてるような人だったから。そりゃ怖い家でしたよ」
試合内容が悪ければ、説教は一週間続く。正座を3時間させられ足が変色する。圧倒的に強い父のいる家庭で、長女である天羽夏月は徹底的に教育された。
「小学生のときに、電話対応を一個間違えただけでご飯を抜かれましたね。横で聞いてて駄目だったらその場でパーンと弾かれました。常識はちゃんと身につけろって。あとは家にいる間は関西弁禁止。使ったら殴られました。やっぱり女の子だから、公的な場に出たときに綺麗なイントネーションを使えないと恥をかくだろうということで。でも関西人が標準語使ってると、クラスメイトから『スカしてる』とか言われるんですね。だから学校では関西弁で家では標準語だったんですけど、ポロっと出たときには大変。父親がそばにいないかすぐ確認しましたよ。いやー結構厳しかったですね。父の車が家の前に止まると、ご飯が喉を通らないんですよ。それぐらい怖かった」
両親の期待に応えるように、天羽夏月は優秀な子どもに成長した。小学生ですでにスポーツは全国大会まで進み、生徒会では副会長もしていた。
「男子に『生意気だ』とか『気の強い女だ』とか言われて、しょっちゅう喧嘩してました。私、男子と喧嘩して7回病院行ってますからね。でも親父から、『お前が本気出したら怪我させるから、本気になるな』って止められて。だから殴りそうになっても我慢してたんですよ」
まるでドラマのストーリーを説明されてる気分だった。これほどに自分の過去を語れる人を、私は他にみたことがない。
(続く)
天羽夏月
九条OS劇場所属。2005年2月1日、九条OS劇場にてデビュー。ストリップファンも認めるダンサブルなステージから、一転してエロティックで過激なベッドが評判。締まりある肉体美がところ狭しと躍動するさまは必見だ。
香盤情報
まさご座
10月21日-31日
芦原ミュージック劇場
11月11日-20日
池袋ミカド劇場
11月21日-30日
A級小倉劇場
12月1日-10日
撮影=インベカヲリ★
モデル=天羽夏月
取材協力=シアター上野、西川口テアトルミュージック
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インベカヲリ★ 東京生まれ。編集プロダクション、映像制作会社勤務を経てフリー。写真、文筆、映像など多方面で活動中。著書に「取り扱い注意な女たち」。趣味は裁判傍聴。ホームページでは写真作品を随時アップ中。 インベカヲリ★ http://www.inbekawori.com/ |
08.10.25更新 |
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