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咲きほころぶ踊り子たちの肖像 舞姫爛漫  第12回 「徳永心」 【1】
写真・文・インタビュー=インベカヲリ★ モデル=徳永心

ストリップ劇場でのストリップショー。黄金時代は過ぎたといえ、根強いファンはいまも劇場に通っています。そして踊り子たちもまた踊り続けているのです。そんな彼女たちの姿を追う「舞姫爛漫」第12回、徳永心さん掲載開始です!
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dancing_girls_55_01.jpg
デビューした当時は体重が35キロしかなかったんです
お客さんに「とにかく喰え!」とか言われて(笑)
80万を稼ぐために

「次はどの踊り子さんでいきましょうかねえ」、編集者とそんな話をしていた。ストリッパーはステージに立つ仕事のため、特定のファンがつけばアイドル的存在になりやすい。アイドルということは、ドロドロとした人間味を見せず、いつも元気で心優しい女性像を求められるということ。そのためか、好き好んで自分のことを喋ってくれる踊り子さんを探すのは至難の業でもある。彼女たちにとって本当の自分を見せることは、ステージに立つ上で特にメリットがないからだ。

徳永心は、ある劇場に行ったとき、たまたま観た踊り子さんであった。スレンダーな体に汗を撒き散らし、ハツラツと踊る姿からは若さが漲っていた。トラの絨毯や剣を使った演目は演劇仕立てで、それでいてエロさを大胆に見せ付ける。「若いのに、エグいステージを平気でこなすなあ」というのが第一印象。取材のお願いを続け、やっと出会えたのは、それから数カ月後のことだった。

「すみません、遅くなってぇ」

劇場近くのレストランで待っていると、衣装から私服に着替えた徳永心が小走りでやってきた。握り締めたケータイには、キラキラと光る装飾品がビッシリとデコレーションされている。ポンと椅子に座り、私と編集者の顔を交互に見る姿からは、曇りのない笑みがこぼれていた。

「もう半分、あきらめていたんですよ。徳永さん、なかなか休みはなさそうだし」

正直に話すと、彼女はテレ笑いを浮かべて謙遜した。本当はインタビュー自体断られることも予想していた。しかしそんな心配は、彼女の爽やかな表情を見て吹き飛んだ。健全、ノーマル。自分の人生に迷いがなく、心の闇といったものを何も感じない。打ち合わせもサクサクと終わり、インタビューの日取りを決めてあっさりと別れた。

「青空のような子でしたねえ」

それが最初の感想だった。笑顔が澄んでいて裏表がない。人に対して構えることもなく、はじめからスっと自然体を見せてくれる。ストリッパーというある種の風俗業界で、こんなにクリアな子を見るのははじめてだった。

「あんな普通の女の子も、ストリッパーの世界にいるんですねえ」

しみじみと思った。が、そんな陰りのないイメージは、インタビュー開始とともに脆くも打ち砕かれるのであった。


「出稼ぎに来たんですよ、私」

徳永心は真顔で言った。

「え? 出稼ぎ?」

「はい。出稼ぎに来て、バーっと稼いでバーっと帰ろうと思ったんですよ。そしたら一番いいのがAVだよって事務所の人に言われて。顔とか全部修正してくれるっていうし、それなら私ってバレないからいいかなって。でも出稼ぎをしなきゃいけない理由を聞かれて話をしたら、『そんな子はAVに出させられない!』って止められたんです。それで紹介されたのがストリップだったんです」

数ある裸仕事の中でも、ストリップのギャラは決して高くはない部類だ。AVをするかしないかで揺れ動いてる女の子に、「絶対にバレない」「簡単な仕事」などと、うまい話を並べるのは常套手段で、実際のデメリットなどをわざわざ説明する事務所などほとんどない。そんな事務所側が、AVを止めさせる側になってしまったというのは「ちょっと良い話」に聞こえた。気になる出稼ぎの理由を聞いてみると、彼女はフフフと笑い、少しためらいながら話してくれた。

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「私、体が弱いんですよね。腸があまり機能しなくて、栄養が吸収されないんですよ。生まれつきで原因もわからなくて、小さい頃からずーっと入院ばかりしてたんです。それでまあ、20歳までは生きられないって言われてたらしくて。それを聞いたのは20歳過ぎてからなんですけどね。手術を受けるのであれば80万くらい必要だって言われて、じゃあ、それだけ稼いでくるわってことで。80万稼ぐために始めたんです」

いきなりの壮絶な告白に驚いてしまった。徳永心はあいかわらず、フフフと笑いながら話している。

「あの、お父さんが死んじゃって。それが一番の発端ではあるんですけど、うちは母親がいなかったから、お祖父ちゃんお祖母ちゃんに負担をかけさせるわけにもいかず、自分で稼げるくらいには働かなきゃって思ったんですよね。お父さんですか? お父さんは難病指定されてるクローン病っていう病気です。その辺全然わからないんですけど、お腹の中身が荒れてなくなっちゃうのかな? 昔なにかをやって大腸がなかったんだけど、切った場所がガンになったとかで結局死んじゃった。うちは、お祖父ちゃんも障害者なんですよ。なんかやって右半身が動かない。なので父方がそういう病気家系なんですよね。そのせいかなんかで私の医療費は安かったらしいんですけど、お父さんが死んでお父さんの何かを引き継がなかったら、医療費が一気に高くなっちゃった」

そう言うと、徳永心はタバコに火をつけ、慣れた手つきで吸い始めた。タバコを吸っても大丈夫なのだろうか? 痩せている体を見ながら心配になってきた。

「ストリップを始める前は、お菓子の工場で働いてたんですよ。箱詰めとか不良品を弾く作業なんですけど、それは1年くらいで辞めましたね。何回もぶっ倒れて、救急車で運ばれて、『いい加減にしてくれ!』って言われてクビになりました。そのあと車の部品工場で働いてたけど、そのときはお父さんが危篤状態になって死んじゃって、一週間休みもらったんですけど、その間に私も倒れちゃって、連絡をできずにいたらクビになってました。そんな感じ。はははは!」



徳永心は普通の仕事ができなかった。長時間立っていることもままならないほど、体は病弱。小さい頃から医療費を重ねてきたが、充分に払えるだけのお金は、はじめから家にはなかった。金銭的に頼れる人のいない状況で、徳永心はそれでも自分で働く決心をした。生きるか死ぬか、選択肢はあまりにも少なかった。

「デビューした当時は体重が35キロしかなかったんです。身長は162センチですね。お客さんに『とにかく喰え!』とか言われて(笑)。でも本当はすごい食べる子なんですよ。食べるんだけど、胃下垂みたいに食べたものが全部出ちゃう。だから定期的に点滴を打ちにいかないといけないんだけど、最近はあんまり行ってないですね。私、デビュー当時に比べて10キロ太ったんですよ。今はもうまんま健康体!!」

そう言うと、誇らしげにポンポンとお腹を叩いた。

「ほら、いい音する! 前は助骨が浮いてたから、だいぶ脂肪もつきましたよ。昔、テニスをやってたけど、テニスよりストリップのほうが全然筋肉つくんですよね。ストリップ始めて、本当にみるみるうちに体重が増えたんですよ。だから今は、ほとんど病院なんていかない。80万はいつかのために取ってあるけど、今のとこ手術を受けるつもりはない。まあお金は自由に使ってます! はははは」

ストリップは、体力を使う仕事だ。ダンスのレッスンや、体を柔らかくするためのストレッチは日々必要なことで、真面目に取り組んでいればかなり健康的な生活といえる。手術費を稼ぐ手段のはずが、ストリップのおかげで当面は手術を受けなくてもいいほどになった。そんな上手い話があるのだろうかと思うが、自分の体のことはきっと自分が一番よくわかるのだろう。期間限定で始めたはずのストリップは、あるときから彼女の本職に変わった。

(続く)


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Tokunaga Kokoro x Inbe Kawori★

徳永心
TSミュージック所属。2006年2月01日、TSミュージックにてデビュー。スレンダーな肢体が激しく動きまわる巧みに演出されたステージはまるで映画のアクションシーンのよう。また白い虎が登場する演目は連作となっているそうで、ファンならずとも楽しむ仕掛けが施されている。

香盤情報
山代劇場
11月21日-30日
TSミュージック
12月1日-10日
シアター上野
12月31日ー1月10日


撮影=インベカヲリ★
モデル=徳永心
取材協力=船橋ニュー大宝若松劇場

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■東京
2008年12月9日(火)〜12月15日(月)
10:00-19:00(最終日は16:00まで)
会場:ニコンサロンbis  地図
(東京都新宿区西新宿1-6-1新宿エルタワー28階 ニコンプラザ新宿内)

■大阪
2009年1月22日(木)〜1月28日(水)
11:00〜19:00(最終日は15:00まで)
会場:ニコンサロンbis大阪  地図
(大阪市北区梅田2-2-2ヒルトンプラザ ウエスト・オフィスタワー13階 ニコンプラザ大阪内)

※受賞作品展につき、
以前開催の同名作品展と同内容になります

インベカヲリ★ インベカヲリ★ 東京生まれ。編集プロダクション、映像制作会社勤務を経てフリー。写真、文筆、映像など多方面で活動中。著書に「取り扱い注意な女たち」。趣味は裁判傍聴。ホームページでは写真作品を随時アップ中。

インベカヲリ★ http://www.inbekawori.com/

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08.11.22更新 | WEBスナイパー  >  咲きほころぶ踊り子たちの肖像 舞姫爛漫