毎週土曜日更新! The dancing girls are in full bloom at their best.
咲きほころぶ踊り子たちの肖像 舞姫爛漫 第12回 「徳永心」 【3】
写真・文・インタビュー=インベカヲリ★
モデル=徳永心
ストリップ劇場でのストリップショー。黄金時代は過ぎたといえ、根強いファンはいまも劇場に通っています。そして踊り子たちもまた踊り続けているのです。そんな彼女たちの姿を追う「舞姫爛漫」第12回徳永心さん、掲載中です!
小さい頃は自分より不幸な人なんていないんだって思ってたけど
それを通り越したら『不幸でもいいや』みたいな。記憶もないし!
消えたお母さん
それを通り越したら『不幸でもいいや』みたいな。記憶もないし!
徳永心はあいかわらずタバコに火をつけ、吸い続けている。ピチピチとした肌は間違いなく23歳の若さで、それでいて妙に悟りを開いたような穏やかさを持っている。大人っぽい、というより達観しているという表現が正しいか。徳永心が育った環境というものが気になった。
「お母さんですか? 私が小さい頃に消えたんですよ」
徳永心は、なんでもないことのようにサラリと言った。消えた、というのは蒸発のこと。父親の実家で、祖父、祖母、父、母、姉、の6人家族で暮らしていたが、母親は、ある日突然いなくなってしまった。
「消えたのがいつ頃なのかはわからない。一緒に住んでた記憶もないんですよ。写真もないし、顔も知らなかったから。お祖母ちゃんからは、『あんたとお父さんは捨てられたのよ』って言われてましたね。じゃあ、なんでお姉ちゃんもいるの?って感じですよね(笑)。お姉ちゃんは本当に健康体だったから」
お父さんは部屋の中でいつも点滴の器具をガラガラと引いて生活をしていた。仕事は叔父さんがやっているケーキ屋さんの手伝い。お金は本当になかったけど、たまに服を買ってくれたりして、お父さんのことは大好きだった。お父さんが入院しているときは、学校帰りに飛ぶように病院へ向かって、毎日毎日お喋りした。病院から家まで何分で帰れるかを計りながら、いかに早く着けるか挑戦するのが楽しみだった。家事はお姉ちゃんと二人で分担していたけど、お姉ちゃんは意地悪で、朝はいつも自分の分だけお弁当を作ってさっさと学校へ行ってしまう。お姉ちゃんより遅く起きた朝は、少なくなった冷凍食品を寄せ集めて、チンしてお弁当箱に詰めて学校に向かった。
「お父さんのお葬式のときに、お母さんが来たんですよ。『この人、どなたですか?』ってなるじゃないですか。『お母さんなんだよ』って言われて、ブチ切れましたね。『何しに来たの? どうせ来るなら生きてるときに来いよ!』って大喧嘩になったんですよ。そしたらお母さんは精神的に弱い人だったらしくて、大泣きして倒れちゃったんですよ。それで私が責められて、私は悪くないよ!って、お姉ちゃんと大喧嘩になり。まあ、それはもう済んだんですけど、その日を境にお祖母ちゃんとお母さんが連絡を取るようになったんですよね」
驚いたことに、徳永心は現在、母親のそばで暮らしている。
「お祖母ちゃんがね、『お母さんの家に行きなさい』って言ったんですよ。お母さんは自分のお母さんの介護で大変で倒れちゃって、向こうの家がメチャクチャになってるからって。お姉ちゃんも私も絶対に行きたくないって言ったけど、お姉ちゃんはもう結婚してるから、行けるのは私だけだったんですよね。それでお母さんの実家の近くに移り住んだんです。今で4カ月目ですね」
一緒に住み始めるとお母さんは優しかった。ご飯も作ってくれるし、手伝おうとすると遠慮されてしまう。お母さんは障害者施設で働いてるけれど、手伝いに行こうとするとやっぱり止められた。寝坊しても、お祖母ちゃんの手を誤って車のドアに挟んじゃっても怒らない。私、もう成人してるんだよって何度も説明したけど、お母さんからは子供に見えるようで、なんでもやってあげるからと優しく微笑む。その言葉がなんだか痒くて、変な生活だけど面白いっちゃ面白い。
「私はお母さんの子なんだな〜と思いましたよ。もう、チヤホヤチヤホヤチヤホヤ……。最初、お姉ちゃんと夜な夜な電話して『どどど、どうしたらいいの? あの人、私のお母さんなんだよねえ? どうしていいかわかんないんだけど』とか言ってましたね(笑)。『あんた今まで甘えてこなかったんだから、甘えればいいじゃない』って言われたけど私20歳過ぎてるし(笑)。どうやって甘えればいいの? ママ〜って言えばいいの?みたいな。はっはっは!!」
「壮絶な人生ですね〜」なんて思わずありきたりな発言をしてしまう私に、「全然、これ笑い話なんですけど。えへへへへ!!」と、徳永心は笑顔で切り返した。
「よく言うじゃないですか、上には上がいるって。小さい頃は自分より不幸な人なんていないんだって思ってたけど、それを通り越したら『不幸でもいいや』みたいな。はははは! 記憶もないし! なんでもいっかあ、みたいな」
病気も家庭の複雑さも、一般的には笑い話として語られない。彼女の目には世間の一般的な悩みなど、さぞ小さく見えることだろう。
(続く)
徳永心
TSミュージック所属。2006年2月01日、TSミュージックにてデビュー。スレンダーな肢体が激しく動きまわる巧みに演出されたステージはまるで映画のアクションシーンのよう。また白い虎が登場する演目は連作となっているそうで、ファンならずとも楽しむ仕掛けが施されている。
香盤情報
TSミュージック
12月1日-10日
シアター上野
12月31日ー1月10日
撮影=インベカヲリ★
モデル=徳永心
取材協力=船橋ニュー大宝、若松劇場
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第10回三木淳賞受賞作品展 奨励賞
インベカヲリ★写真展『倫理社会』
2008年12月9日(火)〜12月15日(月)
10:00-19:00(最終日は16:00まで)
会場:ニコンサロンbis 地図
(東京都新宿区西新宿1-6-1新宿エルタワー28階 ニコンプラザ新宿内)
■大阪
2009年1月22日(木)〜1月28日(水)
11:00〜19:00(最終日は15:00まで)
会場:ニコンサロンbis大阪 地図
(大阪市北区梅田2-2-2ヒルトンプラザ ウエスト・オフィスタワー13階 ニコンプラザ大阪内)
※受賞作品展につき、
以前開催の同名作品展と同内容になります
インベカヲリ★ 東京生まれ。編集プロダクション、映像制作会社勤務を経てフリー。写真、文筆、映像など多方面で活動中。著書に「取り扱い注意な女たち」。趣味は裁判傍聴。ホームページでは写真作品を随時アップ中。 インベカヲリ★ http://www.inbekawori.com/ |
08.12.06更新 |
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