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●アメリカン・レトロ・ボンデージ+歌舞伎的な手法で……
『隷嬢寫眞館』を立ち上げた12年前、水村氏は作品のタイトル数が100タイトルに達する頃には活動をやめるつもりでいたという。しかし90作品を越えて終了宣言をしたところ、大勢のファンから「やめるなんてとんでもない」という激励のメールが届いた。
「嬉しかったですね。それでもまさか、こんなに長く続けることになるとは思っていませんでした。着衣緊縛に特化したサイトは当時日本でうちだけだったというのもあるんでしょうけど、ありがたいことだと思っています。最初は『なんで裸にならないんだ』とかって批判も結構あったりして、ガックリ落ち込んでたこともあったんですけどね」
しみじみと時代の変化を感じるという。
「これはまだ活動を始めたばかりの頃の話ですけど、家族に写真を見られて焼かれたこともあるんです。私がこの世界に興味を持った頃って、今ほどSMが市民権を得ていませんでしたから、今だって少数派ですけどもっと極端だったんですよね。その点ではいい時代になったと思ってますよ。ネットの普及もありますし、普通にボンデージ的な衣装でそこら辺歩いている人もいますからね。好きなことがやりやすくなって楽しいですよ(笑)」
←『隷嬢寫眞館』立ち上げ初期の頃の写真。化粧の仕方や雰囲気に時代を感じさせるが、水村氏は「こういうものは永遠です」といとおしむ。紙焼き写真のいい味が出ている。 |
「(社長業よりも)こっちをメインにしたいなと。体がもたないですから。若い頃はね、企業戦士として、前向きに倒れて死にたいくらいに思ってましたけど、今は、自分の好きなことをやりながら、畳の部屋で安らかに死にたいと(笑)。応援してくれる皆さんのお陰でだんだんと気持ちが変化していきましたね」
←ボディサック&全頭マスクで完全拘束された女体。このボディサックには内部に腕を通す筒があり、袋状のボディサックと違って内部での身動きもほぼできなくなるという。 |
「そういう野望はまったくありません。『隷嬢寫眞館』のポイントを心得ている人がスタッフとしていてくれるなら使いたいけれども、無理に知らない人を教育して使おうという気はありません。疲れちゃいますから。何回かそういうのチャレンジしたこともあるんですけど、これってやっぱり感性のもの。教育してどうこうできるものじゃないんですよね」
好きなものにこだわりながら、自分を納得させられるものだけを作る。水村氏らしい、一貫した姿勢だ。こうして一人のマニア男性の手で作られていく“日本生まれのアメリカン・レトロ・ボンデージ”は、当然、2009年もネットを介してジワジワと世界に浸透していくことになるはずだ。改めて抱負を伺っておきたい。
←ホモ系のサイトで発見し、購入したという複式ギャグでの屈辱的結合シーン。キャラ設定やスートリーによって内面も様々に想像できる他、2人揃ってのもがき方にもユニークな特徴が出る。 |
ジョン・ウィリーの作ったボンデージ・アートがアーヴィング・クロウらの手で今も語り継がれるボンデージ・アイドルを生み、その伝統を踏まえた日本人が世界のボンデージ・マニアを魅了する新たなファンタジーに繋いでいく――。それを単なる夢と思わせない層の厚い面白さ、そしてファンの支えをマニアサイト『隷嬢寫眞館』はゆっくりとだが着実に獲得してきた。そして予告されたアメリカン・レトロ・ボンデージ+歌舞伎! 今後の展開も注視せずにはいられないのである。
文=井上文
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隷嬢寫眞館
井上文 1971年生まれ。SM雑誌編集部に勤務後、フリー編集・ライターに。猥褻物を専門に、書籍・雑誌の裏方を務める。発明団体『BENRI編集室』顧問。 |
09.01.18更新 |
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