ショーSM界のパイオニア長田英吉を師匠に持つドイツ人緊縛師長田スティーブ。金髪碧眼、その大きな体で見せるショーは非常にダイナミック。また流派などにこだわらず熱心に緊縛術を学ぶことでも知られるが、はたしてそんな彼にはどんな時代が見えているのだろうか。 |
既成の枠組みにとらわれないドイツ人縛師。
彼が望むのは純粋なほどに緊縛術だけ。
長:日本では縄師同士の交流があまりない。やっぱり西洋と違って日本社会は〜流とか〜派みたいになってしまう傾向があって、幅広く付き合ったり仕事をしたりできないのは残念なことだと思うよ。
――それはあなたが風習にとらわれないドイツ人だからではなく、あなたの勉強したいという熱心な気持ちがそうさせるのでしょう? そのことのほうが重要だと思います。
長:ドーモアリガト(笑)。だから僕のスタイルが何であるのかというと、みんなの影響を受けてるんだ。雪村先生もおっしゃってたけど、テクニックよりもM女をいい気持ちにさせることのほうが大事だって。でもそんなことを言えるのは、雪村さんがそれほど上手で、すごい人だから言えるわけなんだ。僕なんかはまだまだテクニックにこだわらないと自分が進歩しない。でも根本的に僕の第一の満足はM女を満足させること。だからサービス業(笑)。だけどそれプラス、メンタルな部分、心の繋がりがないといけない。それは一生の勉強ですよ。話を戻すと、明智伝鬼さんが亡くなられたことで、新しい何かを期待しているってことだよね。でも日本ではみんな交流がないから、新しい何かが出てくるのは非常に難しいと思う。西洋では色んな会場でイベントがあると、みんな一緒に行くことが多く、みんなの努力で新しいものが出てきたりするわけだけれど、日本は交流がないから自分のところでしかやらない。そんな状況では新しい面白い時代になるのは難しいと思う。
――色々な交流をするべきだと?
長:そうすれば新しいアイデアや新しい縛りが生まれてくるんじゃないかな。
――そういう状況を作るためにあなたは何をするべきだと考えていますか。
長:それは日本のことだから。僕が関わることじゃないと考えてる。例えばSMクラブで高いお金を出してプッシーが見れるとか、女王様に縛ってもらえるとか、とても単純な取り引きになっちゃってる。西洋にそういう場所はないけどアマチュア同士で交流できる場所がある。例えばフェティッシュパーティ。アマチュア同士とか少しプロになってても色んなことができる。だから色んなアイデアが出てくるんだ。
――そんな日本の状況を嘆くあなたにも、できることはあると思います。
長:僕一人では日本の考え方や日本のシステムを変えることはできないよ。
――先ほど3年経てばと言われました。そのときあなたが言う新しいコミュニティを持っていれば、相応の影響力を持てるんじゃないでしょうか。
長:たぶん僕にそれを期待しないほうがいいよ(笑)。問題点を把握した上で、僕が言えることはひとつだけ。その問題を解決するにはそういうパーソナリティが必要なんだ。僕はパーティも、沢山の人といっしょにいることも好きじゃない(笑)。だから期待しないでほしい。でも僕にできることの一つは、世界中の人たちが自分の中のSMを受け入れる手伝いができる。僕ら50年代の人たちは若いときみんな悩んでいた。インターネットのない時代、しかもヨーロッパでカトリック教の影響が強く、女性をいじめたい気持ちは非常に悪いことだと思っていた。でもそういう人たちにSMは悪いことじゃない、こうすれば自分の気持ちをエンジョイできると伝えること、それは僕にできることだ。わかってほしいんだけど、今の若い人たちは、自分がS、自分がMだと簡単に言えるようになっているよね。でも前の世代の人たちは決してそうじゃなかったってこと。そして少しずつ次の世代、新しい世代が出てきてるとも思うんだ。今の世代は縄に限らず色んな道具を使ってる。でもまだ縄に専念する新しい人は見ていないな。やっぱり僕は縄の道でいきたいと思う。僕はキャリアの終わりに回転舞台で女性のプッシーだけをお客さんに見せるハメにはなりたくないんだ。やっと西洋ではかなり名前を知られるようになった。でも日本ではまだ、何者でもないんだ。例えば雑誌とかで僕の緊縛を見て、ドイツ人とか関係なく縛りだけ見て、この人は上手いと言われるようになったら嬉しい。そのためにはまだまだ毎日縛らないとダメなんだよ。でもね、昨日と今日、今日と明日で、僕の縛りは確実に成長しているからね。
次回は有末剛が登場です。
インタビュー=編集部・五十嵐彰 通訳=alice liddell
※この記事はS&Mスナイパー2006年1月号に掲載された記事の再掲です。
長田スティーブ ドイツ出身。1988年にフォトジャーナリストとして来日。1998年、長田英吉氏と初めて出会い、その後師事。2001年、長田英吉が永眠すると、生前伝えられていた師匠の希望通り長田性を襲名、緊縛師・長田スティーブとしての活動を開始して現在に至る。
関連リンク
長田スティーブ公式サイト=http://www.osadasteve.com/