WEB SNIPER Special Cinema Review!!
真魚八重子とターHELL穴トミヤの映画の話にかこつけて【4】
『映画秘宝』や朝日新聞映画欄などで活躍されている映画評論家・真魚八重子さんと、WEBスナイパーの映画レビューでお馴染み・ターHELL穴トミヤさんが、お互いに話したいテーマを持ち寄って映画談義に花を咲かせたら......!? 時には脱線もありでお届けする規格外の対談連載、第4回は「異性から見た、異性が共感してそうな映画」をテーマに、マギー・ケアリー監督『私にもできる!イケてる女の10(以上)のこと』、レイク・ベル監督『私にだってなれる! 夢のナレーター単願希望』を取り上げます! 前後編に分けてのお届けです。ターHELL穴トミヤ(以下「タ」) 前に真魚さんが「最近、来る企画が"女性の感性で選んだオススメ映画を"みたいのばっかでうんざり」とおっしゃっていて(笑)。なんなんだよ女性の感性ってみたいな。じゃあ、むしろ女性が男性の感性っぽいと思う映画を、男性が女性の感性っぽいと思う映画を選んで持ち寄ってみたら、面白いかもしれませんねと。
編 お互い逆に、ということですね。
タ そうです。それぞれの思い込みが浮かび上がったりするかもしれないし。
真魚八重子(以下「真」) 正しいか否か。
タ ジェンダー観が試される(笑)。女性映画は好きなんで最初はいくらでもありそうだなと思ってたんですが、改めて「女性的感性の映画」って考え出すと、考えれば考えるほど分からなくなっていく。無限ループに陥りました。
真 そうでしょー(笑)。
タ 難しいですよね。パッと思いつくものだとまず女性誌で紹介されてそうな映画。
真 『ブリジット・ジョーンズの日記』とかね。「女性的感性の映画を選べ」って、結局「女性誌で紹介されてるから女性的作品」ってことだから......。でも私、そんなの共感しないし、やめて欲しい。
タ ガラガラガッシャンみたいに、崩してしまいたい。そうなると途端に難しくなる。ああいうのはジャンルとしてなんて呼べばいいんだろう、「女性応援ムービー」とか?
真 (素で)オーメン?
タ オーメンって(笑)。応援です。でも「女性オーメンムービー」っていいですね。「女性応援ムービー」に対抗して「女性オーメンムービー特集」、やばい絶対いいですよそれ!(笑)
編 といったところで、まずはターHELLさん目線で選んだ女性的感性の映画を教えてください。
■この映画、もし男女が逆で、男がエクセルでリスト作ってチェックしてたらメチャクチャ気持ち悪い。(ターHELL)
タ 思いつくままに作品をリストアップしてから、3つに分類してみたんですけど。まずは恋愛もの、それこそ『ブリジット・ジョーンズの日記』とか。あと『プラダを着た悪魔』とかの仕事頑張ってる系。あとは服とかたくさん出てきてカタログ的にも楽しいみたいな、『幸せになるための27のドレス』とか。
真 雑誌側からこういうものを選んでくださいって、リストアップされそうなものしか浮かんでこないんですよね。こっちも刷り込まれちゃってて。確かに『プラダを着た悪魔』は女性映画だったりするんだけど、もうちょい違う映画にも裾野を広げたい。
タ そういうのは、かなり大きく「女性誌系」で一括りにしてみました。でも、女性が主人公なら女性的感性の映画なのか?って考えると、そうでもないし。女性監督なら女性的感性の映画か?ってそうとも限らないし、どんどん迷宮にはまっていく。それでひとつ考えたのが、逆に楽しめなかった映画。女の人が好きって言ってるから観てみたら全然理解できなかった映画。それこそ男の僕になくて女性にある感性なんじゃないかと。たとえばエリック・ロメールなんですけど、大抵寝ちゃう。けど映画好き女子の前で「エリック・ロメール、好きじゃない」っていうと、その時点で何かが終わってしまいそうな恐怖がある。
真 (笑)。
タ これは「寝ちゃう系」。さらに、観始めたけど寝るどころか身体が拒否反応を起こして最後まで観られなかったやつがあって、『食べて、祈って、恋をして』とか『カモメ食堂』とか。
真 私は観てすらいない。食指が動かなかった。
タ (笑)。僕が予告編だけでムリだったのは『玄牝-げんぴん-』って、出産のドキュメンタリーで、産んでる女性が号泣しながら「生まれてきてくれてありがとう」とか言っていて、あーこの映画すごく観たくないなと。これは寝ちゃうよりさらにエクストリームな「やめてくれ系」。それこそ自分から最も遠い、究極の女性的感性とか思ったけど、観てないからダメだなと。以上、踏まえたうえで迷走に迷走を重ねて選んだのがこの2本。『私にもできる!イケてる女の10(以上)のこと』と『私にだってなれる!夢のナレーター単願希望』です!
真 挙げてもらって初めて観ました。2本ともすごくいい作品だと思います。女のみっともないところとか、本性が出てる。女性誌は嫌うと思うけどね、生々しすぎて。
タ なんか分類意味なかったっていうか、悩みすぎて考えるのを放棄してしまった(笑)。どちらもボンクラ映画の主人公を男から女に変えただけっていうのが一番しっくりくる。
真 あまり違わないってことだと思いますね。
タ 結局は性差がなくなっちゃう。
真 『スーパーバッド 童貞ウォーズ』ってあるじゃないですか。いかに童貞を捨てるかっていう。あれと『私にもできる!イケてる女の10(以上)のこと』が同じ感じですよね。
タ ボンクラの初体験チャレンジみたいな、『アメリカン・パイ』なんかもそうですよね。『ゴーストバスターズ』が登場人物を女性にしてリメイクされましたけど、『私にもできる~』は、それこそ女バージョンの『スーパーバッド 童貞ウォーズ』とか『アメリカン・パイ』みたいな。ちなみにボンクラ映画って、なぜか邦題が「僕らの~」とか「俺たち~」で始まる文化みたいになってるじゃないですか。それで女のボンクラ映画として、「私に~」シリーズが発生してもいいんじゃないかと思っていて、そこも意識して選んだ2本なんですけど。ただ『私にもできる~』の主人公って、実はボンクラじゃないんですよね。
真 成績がいいだけで常識がないっていう意味ではダメな人。
タ 社会性があんまりない。勉強はすごくできるんだけど。
真 初体験を済ますために、TO DO LISTを作っちゃう時点でちょっとね。
タ 主人公のオーブリー・プラザ。僕、この人凄く好きなんですよ。
真 他に何に出てましたっけ。
タ 『彼女はパートタイムトラベラー』。そのあと監督が『ジュラシック・ワールド』に大抜擢された。
真 『彼女はパートタイムトラベラー』は良かったです。やっぱりちょっとメンヘラっぽい女の子の役でしたね。常にその場で浮いてて。
タ 新聞の広告で見つけた変な仕事に応募して、もっと変なヤツを取材してバカにする記事をつくろうとするんだけど、だんだんその変なヤツに感情移入していく。
真 恋愛感情を抱いていって。彼女は見た目の異形な感じもいいですよね。
タ 目が超ギョロッとしてる。前にiCloudからセレブの写真が流出した事件があったじゃないですか。あの時にオーブリー・プラザの写真も流出したんですけど。僕はそういうの見るのは良くない!とか言いながら、「えっ、オーブリー・プラザも?」ってなって、つい見てしまったんですが。そしたら『私にもできる~』のイメージまんまの、勢いのあるバカエロ写真で。最高!って(笑)。僕の中でますます株が上がったんですけど。
真 (笑)。
タ 惚れ直した!って。
真 一応綺麗どころなキャラなんだよね。
タ 綺麗なのにどっかおかしい。『私にもできる~』は、超優等生の主人公が、勉強だけじゃダメなんだってことに気がついて、友達と協力しながら、男とセックスしようとする。高校生の「処女捨て捨て大作戦」なんですけど、セックスの前にも、いろいろ捨てるものがありすぎるんですよね。原題は「THE TO DO LIST」で、いろんな技を、チェックリストを作ってクリアしていこうとする。フェラチオはあるし、ドライハンプとか聞いたことないのまですごい細かくて。この映画で初めて知ったんですけど、ドライハンプって着衣のまま性器をこすりつけ合うプレイらしくて。ググったら「セレブがドライハンプにはまってると発言」みたいな記事が出てきて、なるほどみたいな。あとフィンガープレイとか、クンニリングスとかあって、ひとつひとつクリアしていくんですよね。それで最後がセックスなのは、真面目なのか性が乱れてるのかよく分からない。そういうアホな映画。
真 行為を済ませた相手の名前も書き込んでね。リストを埋めていく行為が彼女の満足の一つだから(笑)。
タ セックス自体が目的じゃないんですよね。ちょっと満足感が歪んでる。
真 普通はまとめてするようなことも......。
タ 分散しちゃって(笑)。この映画、もし男女が逆で、男がエクセルでリスト作ってチェックしてたらメチャクチャ気持ち悪い。
真 でもやってる人いそうだよね。
タ 心の中のTO DO LISTはあると思うんですよ(笑)。それを実際に書き起こすところに気持ち悪さがあると思う。
真 この映画、93年の設定でしたよね。だからパソコンがまだなくて、定規でノートに線を引いて、手書きですべきことを書いてて。
タ いかにも高校生って感じのね、カラフルなペンを使って。パソコンだと味気ない。
真 スマホがあると簡単に話が進みすぎちゃう。だから映画にケータイが出るようになってからはわざわざ森に行って圏外だっていう設定が作られるようになって。「圏外だ!」ってセリフがどれだけ増えたか。「バッテリー切れだ!」とか(笑)。そうしないと話がもつれないから、この映画も90年代っていう設定なのかな。
タ 公開は2013年だから、あえて古くしたのはそうかもしれないですね。友達同士で映画観る会とかあるんだけど、それもビデオテープだったり。あと、ちょっとオタクで童貞っぽい子とプレイをしたら向こうが本気になっちゃうって展開があって。そいつがデートに誘ってくる映画がメグ・ライアンの『めぐり逢えたら』とか、いちいち懐かしい(笑)。
真 ロマンティックな恋がしたいんだよね、真面目な男の子は。
タ そうなんですよね、対する主人公はロマンスゼロな感じなんだけど。この映画、面白かったのはセックスを扱ってるんだけど、雰囲気が超究極にカラッとしていて。何もかもぶっちゃけすぎで、例えば親ともセックスの話をする。「潤滑油はこのゼリーを使いなさい」とか。あと、ハンドジョブをしてる時に突然「あっ」とか言いだして公衆電話に走ってって、お姉さんに電話して「いま手コキしてるんだけど、アソコの形が保健の授業で見たのと違うの。包茎なの」とか言ってる(笑)。
真 (笑)。
タ 「包茎の場合はこうこうこうするのよ」「わかった」って、すべて対話で解決できるはずだみたいな。超オープンっていうかマニュアル文化っていうか。『アメリカン・パイ』も同じで、これがアメリカなのかって。一種の性教育万能主義なのかな。
真 まあ家庭によるんでしょうけど(笑)。これは超笑えるけど極端ではあるよね。
タ ある意味リベラルの極致というか。
真 お父さんは判事で保守的で、お母さんはリベラル。
タ お母さん、実は元・ヤリヤリチアリーダーみたいな感じなんですよね。
真 「私の初体験は17歳の時で」って突然夫に告白して「僕が初めてじゃないの!?」って(笑)、モメてたりするのね。
タ 主人公は、お父さんの真面目さを受け継いでて、お母さんの血はお姉さんが一手に引き受けてた。お姉さんはヤリまくりなんですよね。それで「私は主婦が第一志望、いい男を見つけて......」みたいな。
真 もういろいろヤッたから、あとは主婦っていう感じのね。
タ あと、オーブリー・プラザがとにかくタフなのもよかった。非モテのウジウジ感がない。抱かれたい男No.1みたいな男がいるんだけど、そいつからの電話だと思ってバッと受話器取ったらイケてない男からで、でもすぐに頭を切り替えてて。あと女の友達とモメちゃって「あなたビッチじゃない!尻軽女、ヤリマン、絶交よ!」みたいに言われても、そこでリストカットとか始めないで、そうか、だったらどうしようか、って次の一手をすぐ考えはじめる。まったくへこたれる瞬間がなかった。。
真 全部頭で考える人だから、滅入った時にも理論的に考えようとする。
タ やっぱり頭がいいと気分に押しつぶされないんですかね。
真 プールで働いてて、ビキニを無理やり着けたり、凄い恥ずかしい真似するでしょう。カッコつけて飛び込んだらビキニ外れたりして。
タ しかもビキニをクソガキに取られちゃって「返しなさいよ!」。
真 それで「もういい!」って開き直って裸で歩いていって(笑)。
タ 「ヨーロッパではトップレスとか普通なんだから」とか言って(笑)。知識があったり論理的に考えたりすると気分に押しつぶされないぞっていうのは、この映画のひとつのメッセージなのかな。
真 あんまり気分に左右されないのは女としては珍しくて、羨ましい。
■世の中は男性に都合よくできてるっていう認識があるから、「女がちょっとくらいひどいことをしても見逃してやるか」みたいな気持ちが、無意識に働いてるんだと思う。(真魚)
タ なるほどと思ったのが、オーブリー・プラザがフィンガープレイの相手を求めて凄い気合い入った目して歩いてると、ある男の子が目の前で手を2回洗うんですよ。そこで「あなた、手を2回洗うの?」「そ、そうだけど?」ってなって、合格!みたいに連れて行く。よくモテるための~みたいな記事で「清潔感が大事」って書いてあるのは、こういうことだったんだ!と。
真 (笑)。
タ こういうふうに役立つんだ!って、もの凄い説得力があるシーンだったな~(笑)。
真 石鹸じゃなくて、台所用洗剤で2回洗うのが極端でね。でも綺麗にしてて欲しいっていうのも分かる。コメディとしてそういうとこもいいですよね。清潔感を表わす前に潔癖症まで行っちゃう(笑)。
タ 相当アホですよね。オーブリー・プラザも全部理性で考えるから、セックスをする時も「私は騎乗位がいい。なぜなら騎乗位だとイク確率が4割アップするから」って、いちいちデータの裏付けがある(笑)。あと凄いイケメン男が「君はホットなあつあつ子猫ちゃんだぜ」とか言ってくると「今のは重複表現よ。どっちかひとつだけでいいから」。
真 (笑)。
タ 主人公が自分の頭のよさを捨てないし、映画もそれを否定しない感じがいい。で、この映画がアホなだけじゃなくて、真面目モードにシフトするのが、主人公がいろんな男といろんなプレイをしてると、ひとりの相手がTO DO LIST を見つけちゃう。「えっ? 俺は性の対象にされてただけなのか。俺のこと好きじゃなかったのか」みたいな感じで、傷つくシーンがあって、そこで、「オッ、ちょっとこの映画アホなだけじゃないぞ」みたいな。
真 その後どうフォローしてましたっけ。「ゴメンね」とか言ってましたっけ。
タ 「ゴメンね」って言わないんですよ(笑)。「確かに私が悪かった。あなたは優しいし、あなたを傷つけたのは私のミスだった。けど、私は後悔しない。なぜなら10代は後悔しない年齢だから!それがティーンエイジャーだから!!」って。スゲー!って思いました。
真 (笑)。
タ えーっ!と思ったけど、よかったんですよね、そのセリフも。
真 とことん頭で考えてる人だよね。心は傷んでない。
タ 「みんなそうやって大きくなるもんだから」みたいな。だけどそこでお母さんから「男ってああ見えて繊細なのよ」みたいなダメ出しが入ったり。男のヤリヤリムービーだと、それこそ女の人を性の対象としてしか見てない人間はヒールとしてしか出てこない。それで「あんなクソ野郎のことは忘れなさいよ」ってなるか、ヒールの男がひどい目にあうとか、改心するかってパターンだと思うんだけど。この映画は女の人が男をバイブ代わりみたいに扱って、そのままみたいな。
真 「女性は包容力がある」っていう想定を裏切る分、その点冷たいと思う。割り切ったら、意外とホントにそう思ってる(笑)。
タ (笑)。
真 だからたぶん「10代は傷つくものだから」っていう言葉は本気だし、誠実な言い訳なんだけど、男の側がそれ言ったら嫌われる映画になるよね。「この主人公なに!?」って。
タ あり得ないですよね(笑)。この映画の男女を逆転させてみた時に、男だったらありえねーなっていうところが、逆に言えば女性的といえるのかもしれない。ボンクラコメディとしても交換できない部分。
真 立場が逆だったら、手コキだけに使った女としてリストに書かれてるのを、女の子本人が見つけちゃうってことになる。それで男が「10代は後悔しないものだから」って言ったら、何コイツって男の人も思うんじゃないかな。
タ その映画、ちょっと観てみたい気がしてきました(笑)。
真 こわっ......て思いますよね。
タ 完全にやばいやつ(笑)。最後はサイコパスになるんじゃないかって。何なんですかねこの違いは。
真 彼女の場合はギャグとして受け止められるけど......。
タ 社会の形としてすでに不均衡があるから、そういう男がそのまま歳を重ねていった時に、さらに乗っかる形でヤバいことになるだろうなって。そんな予想が働いて、同じセリフでも違って感じられるのかもしれない。
真 世の中は男性に都合よくできてるっていう認識があるから、「女がちょっとくらいひどいことをしても見逃してやるか」みたいな気持ちが、無意識に働いてるんだと思う。
タ そうするとオーブリー・プラザにあんなセリフを許してしまうこの映画は、実は女性差別的な作品なのかもしれない(笑)。そういう現状を肯定したままっていう。
真 いや、抑圧に従っていないし、社会的に性的なハンデがある分、ホントの女性の気持ちに近いんじゃないかな。「私が悪いんじゃない」みたいな。
タ 10代はこういうものだから!(笑)。
真 意外に私が悪いんじゃないって思ってる女の人、いろんな局面で多そう。
タ たとえばオーブリー・プラザもヤリヤリのまま歳を重ねていくと笑えなくなってくると思うんですよ。未来は『ミスター・グッドバーを探して』とか、不幸にしかならないんじゃないかって。
真 この映画の彼女は優等生で、大学もいいとこ入って、生徒会長的な雰囲気もある。
タ 一番最初にヒラリー・クリントンの言葉を引用してるんですよね(笑)。
真 いつもヒラリー・クリントンの写真飾ってて。尊敬する人なんだよね。
タ 完璧な人間を目指すからこそ、セックスも欠かせないっていう。勉強できるから、そのうち医者とか弁護士になりそう。
真 ちゃんとした職業に就く人だっていうのは分かるから、性の面で迷走しててもあんまり不安感はない。
タ そういう映画ありましたよね、『ステイ・フレンズ』とか。男も女も仕事があって独立してて、ふたりはセフレ以上恋人未満みたいな。
真 ジャスティン・ティンバーレイクがロサンゼルスで働いてたのを、ニューヨークにヘッドハンティングするのがミラ・クニス。彼女は人を見出す能力に長けてるキャリアウーマンで、ヘッドハンティングされて立場のある職業に就くジャスティンも仕事ができる。そういう2人の「セフレになりましょう」みたいな話だよね。
タ 重いのはやめましょうみたいな。だけど結局本気になっていってしまうという、そういう映画はたくさんありますよね。
真 やっぱり「セフレで終わりましょう」だと抵抗感があるんじゃないですかね、道徳的に。
タ アメリカ人ってやっぱり根がすごい道徳的というか。超オープンで、バーで出会っていきなりセックスみたいな展開が多いんだけど、必ず最後は結婚しましょうってなる気がします。一種のジャンル映画なのかな。
真 そうだね。じゃないと不安を覚えるというか......。ドラマだと『セックス・アンド・ザ・シティ』。男とのワンナイトスタンドの話が多いから、人気が出て長寿番組になっていったら、めっちゃくちゃヤリまくる話になってしまった。弁護士の女性なんて途中で「今までやった男は43人」って言ってた。あれはちょっと極端じゃない?って思う。
タ (笑)。最後はどうなるんですか?
真 彼女はキャリアウーマンだから、稼ぎはないけど家事をやってくれる男を捕まえて結婚する。そして子供も産む。
タ 宇多田ヒカルが前に「私が男に求めない素質ナンバー1、経済力」みたいなことツイートしていて(笑)(実際のTweet: 『私が人生のパートナーに求めるものランキングの最下位:経済力』)。
真 やっぱり正直だよね(笑)。
タ 超かっこいいなと思ったんだけど。そういう感じなんですかね、その弁護士の人も。男の主夫ですね。
真 今回ピックアップした作品って、全部そうじゃない?
タ そうかもしれない。後で取り上げる『KNOCKED UP』(『無ケーカクの命中男/ノックトアップ 』)だと超キャリアウーマンで独立してる女性が......。
真 無職の男5人で同居して、一日中マリファナ吸って暮らしてるような23歳のボンクラと、クラブで知り合った勢いでヤッたら妊娠しちゃう。
タ ワンナイトスタンドで終わるはずが......。
真 やっぱり中絶にも抵抗があって。アメリカはうるさいからね、保守派が。中絶表現あると否定されるし。で、マリファナ吸ってて仕事をする気がない人の子供も「産むわ」って。
タ キャリアと天秤にしながら迷うんだけど、結構「産むわ」に至るまでに葛藤がないというか。そこで引っ張るのかと思ってたら、映画の早い段階ですぐ産む結論を出してて。
真 お母さんから「中絶しなさい」って言われるだけで、次のシーンでは「産むことに決めた」って言ってて。
タ 決めたら全員がすぐに「じゃあそれはそれで応援するわ」ってなる。そこまでが早い、やっぱキリスト教の......日本映画だとけっこう高い確率で堕ろす展開あると思う(笑)。
真 それか「苦労してでもあんたとの子供産むわ」みたいになって。
タ 産むまでに引っ張りまくりそう。揉めまくって、もう産むとこで映画終わるみたいな(笑)。アメリカが産みやすい社会っていうのもあるのかもしれないですね。「産む前に左遷されないように、あえて隠しきれなくなるまで妊娠を黙っておく」っていうセリフが出てくるじゃないですか。
真 妊婦ってだけでクビにしたら労働法違反になる。
タ もしシングルマザーになっても収入も失わない。社会でもシングルマザーが目立たない。そういうコンセンサスっていうかノリが日本よりはあるのかな。
真 日本だと、芸能界のような目立つ世界で、シングルマザーでそのまま働いてる人ってちょっとしかいない。萬田久子とか。一応、父親的な人は分かってて、その人は何年か前に病気で亡くなったけど、産んだ時は誰の子だ?って。沢田亜矢子もそうだったし、風当りは強いですよね。
タ じゃあオーブリー・プラザは大きくなったら『KNOCKED UP』に繋がっていくのか(笑)。
真 やっぱり彼女はああいう極端さを抱えたままで生きていくと思うんですよ。恋人ができたら今度は恋人のTO DO LISTを作ったり、結婚までのTO DO LISTとか。絶対そうやって生きていく。
タ 子供ができたら、子供にもTO DO LISTをおしつけそう(笑)。「私にもできる!TO DO LISTから自由になる10の方法」みたいな、最終的にはTO DO LISTを捨てるところに行って欲しい。
真 そういうのも面白いですよね(笑)。
タ 今回、女性的感性の映画にありがちな展開をグラフにしてみたんですけど、X軸に「ビッチ」と「マジメ」、Y軸に「勝ち組」「負け組」を配置して、『私にもできる~』の主人公は、マジメ・勝ち組ゾーンからビッチ側に行こうとする。マジメに振り切れててもダメだし、ビッチに振り切れててもダメという。
真 負け組・勝ち組なのかなぁ。成績だけ?
タ 所得の低・高にしたほうがいいんですかね。
真 所得的にはたぶん勝ち組になるよね。
タ それこそ酒井順子の『負け犬の遠吠え』みたいな、高所得、独身の女性。
真 子供のない女性は負け犬だっていう話ね。
タ そうするとこのグラフでは表現しきれないですね。
真 高校生から30代くらいまで含んでるから。
タ 『ヤング≒アダルト』だと、所得も低くビッチ寄りゾーンの中を、2時間ぐるぐる迷走してる。
真 ずっと迷走して終わる。最初から最後まで(笑)。
タ このグラフの中の運動で、いろんな映画を説明できないかなと(笑)。所得が上がっていくとか。
真 独身で所得が上がるとビッチになりやすかったり。
タ たぶんこのあたりが一番幸福ゾーンで、バランスが取れてる。所得が高くてマジメ過ぎても寂しいし。
真 『私にもできる~』はまだビッチには行ってない気がする。
タ 男の子の心の痛みを理解できたから、ビッチにならずに帰ってきたんじゃないですか。ビッチ方向にロケットみたいに飛んで行って、「キモ男の悲しみ」という惑星を発見して、Uターンして戻ってきた。
真 キモ男は優等生じゃなくて、ある意味で彼女と相対性のある存在。あの2人でうまくいきそうだよね。
タ キモ男くんと最後に再会するんですよね。
真 TO DO LISTの一番最後を彼が埋める。
タ そうすると結論として、『私にもできる! イケてる女の10(以上)のこと』の女性的感性というのは......。
真 頭のいい人の生々しさ。
タ 生々しさはどこだったんですか。
真 意外にああいうリストを書いてる人はいるかもしれない。
タ 女性同士であれやったこれやったみたいなのは、あるあるなんですね。
真 会話ではある。意外に男の人は気づいてないかもしれないけど、バラされてるよ(笑)。あの人はなんとかだったみたいなこと。
タ (笑)。みんなの憧れの的の、セックスシンボルみたいな男がいるんですけど「早かった」とか言われてましたね。
真 そうそう。そういうのをいきなりバラされるんですよ。
タ 一応、彼にも彼なりの言い訳があって「いや、俺は意外と真面目なんだ」みたいな(笑)。
編 この映画は真魚さんからすると、女性的感性にかなった作品ということでよかったでしょうか。
真 はい。十分OKです。
タ 合格(笑)。いつのまにか試験方式になっている。
真 (笑)。
(続く)
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17.04.08更新 |
WEBスナイパー
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