モダンアート外観 from 『新宿考現学』 | 本誌・web連動企画 『新宿アンダーグラウンドの残影』 〜モダンアートのある60年代〜 文=ばるぼら S&Mスナイパー4月号の誌面では紹介できなかった「モダンアート」をめぐる新宿とアングラの親和性。現在までつながるいくつかの残影を集めながら、いま再び光をあてる新宿アングラ詳論の決定版! |
なぜ新宿なのか
さて、戦前から50年代にかけての銀座や浅草や上野、または80年代における原宿、90年代における渋谷、00年代における秋葉原のように、ムーブメントの発祥地は時代と共に移り変わっていくが、60年代から70年代にかけて、日本で若者文化の中心地といえば「新宿」であった。
なぜ新宿だったのかという問いに明快な答えは用意できない。早稲田大学や武蔵野美術大学が近くにあり、安保闘争で挫折した左翼学生や、シンナー遊びに興じる地方からの上京組がたむろ(新宿東口駅前の芝生はグリーン・ハウスと呼ばれ、そこに素泊まりするフーテンが1967年頃に各所で話題になっていた)した街だったから、というのが定番の回答の一つではある。
『新宿考現学』深作光貞(角川書店) 1968年9月15日発行 |
『新宿考現学』(1968年9月/深作光貞/角川書店)では、全体的に安くお金のかからない街であること、ターミナル駅で交通が便利なこと、深夜でも開いてる喫茶店やスナックが多くあり朝までダラダラできたこと、浅草などのような戦前からの伝統がないこと、街全体が流入者が多いことなどの点が挙げられているものの、ではなぜ渋谷や池袋ではダメだったのかという疑問に答えることはできないだろう。なぜひげ・長髪・ドラッグのフーテン族発祥の地となったのか、なぜ新宿に集う若者の多くが既成秩序に反発する精神を前提にしていたのか、なぜ世界的に盛り上がっていたカウンター・カルチャーの日本代表地区となったのか、なぜ、なぜ、なぜ……。
一つ補足をすれば、新宿はストリップ劇場・トルコ風呂・ヌードスタジオの発祥の地でもあるわけだが、裸やエロスというのは60年代までは社会に対する強力なアンチであり武器であった。そんな街の近くに安保闘争に参加するような学生達が通っていたことで、何らかの相互作用を起こしたのかもしれないとも思う。
ここでは「なぜ渋谷・池袋ではなくて新宿だったのか」の問いに、「新宿にはフーゲツがあったから」と返答しておこう。「フーゲツ」とは「風月堂」のことで、無数にある新宿の有名スポットの中でも、まずは誰もが名を挙げるであろう、ヒッピーの拠点だった喫茶店である。
「風月堂」には前史があり、戦後すぐに開店した頃は洋菓子屋で、ケーキの販売などをしていたそうだ。正式なコーヒーを出すことで有名だったらしい。1950年にリニューアルしてクラシックのレコードをかける名曲喫茶となり、その頃から店主が絵画のコレクションをはじめて、画家が訪れるようになった。1955年に再オープンした際には、日本アヴァンギャルド美術家クラブ代表にして、シュルレアリスムやダダをいち早く紹介したという江川和彦がプロデュースをつとめ、秋山邦晴による現代音楽のレコードコンサートが定期的に開かれるなど、やや特殊なカフェとして、その名は広まっていたという。
ただ、風月堂が若者の中心地として有名になるのは東京オリンピックからである。というのは、東京オリンピック直前の1963年頃に出た日本観光ガイドブック(『一日5ドルと10ドルの日本』)に「Shinjuku-Fugethu」として掲載されていたことで、外国人が多く訪れるようになり、日本内外から文化的なものを愛する若者が集まる情報交換の場になっていったのだ。1973年8月に閉店するまで、数多くの文化人・若者がこの店を通り過ぎていった、伝説の場である。
無論フーゲツ以外にもスポットは沢山ある。喫茶店ウィーン、ピットイン、ジャズ・ヴィレッジ、DIG、プレイメイト、イルミナシオン、フラワーパワー、ドンガバチョ、アングラ・ポップ、LSD、ぼろん亭……。こうした60年代の新宿の若者文化については「電脳・風月堂」が詳しい。電脳・風月堂は、風月堂に出入りしていたという管理人・フーゲツのJUNが、当時の空気をウェブ上に再現したアーカイヴサイトで、モダンアートの説明も少しある。いわく「アングラ芝居の専門小屋だったが、いつしかストリップ小屋と区別がつかなくなっていた。フーテン出身のダンサーが多数いて、いいアルバイト先を提供してくれていた」とのこと。70年代のストリップ全盛時代にも手っ取り早くお金が必要な劇団員達がモダンアートに集まっていたというが、当時からアングラに魅せられた若者達を経済的に支えていたようだ。
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構成・文=ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。 |
07.03.16更新 |
WEBスナイパー
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