『ビデオドローム』/ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
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ホラー/カルト映画における青山正明(2)
青山正明がカルト/ホラー映画をどのように紹介してきたのか。青山の映画関係の連載は『ビデオ・ザ・ワールド』誌が外せないが、まずは『Hey!Buddy』誌での連載「Flesh Paper」から見ていきたい。この連載でそうした映画を取り上げたのは、1983年7月号が最初である(別の3Dムービー紹介は小さくある)。雑誌には既に映画紹介コラムのページがあり若干遠慮していたようで、必然的にそこに載らない作品の紹介となった。載らない作品とはつまりキワモノである。青山がつけたコーナーのタイトルは「グログロ映画評」。「ホラー」や「スプラッター」という言葉よりも直接的かつ即物的な印象を受けるがいかがだろう。
では7月号の記事を見てみよう。記念すべき第1本目は「クリープ・ショウ」。最近ハリウッドではグロテスク・メイクが大流行!として、「遊星からの物体X(The Thing)」で特殊メイクを担当した当時24才のロブ・ボッティン、「エクソシスト」のディック・スミス、TV・SK・ホラー番組で活躍するエド・フレンチ、TV・映画・舞台などで異彩を放つジョン・カッリオーネ、奇怪な動物作りではピカ一のビル・ムンス、「ゴアの魔法使い」のハーシェル・ゴードン・ルイスら6名の名前を挙げている。そして「さらにこれら6人の上に位置する」存在として、奇才トム・サビーニを紹介。そのサビーニが担当した“汚物の祭典”映画として「クリープ・ショウ」を推薦しているのだが、脚本をスティーヴン・キング、監督がジョージ・ロメロという点もプッシュ理由の一つだったようである。
「グログロ映画評」第2回は1984年1月号。「スパズムズ」を取り上げている。もともと『SFX映画の世界』(中子真治/講談社)で「デス・バイト」というタイトルで紹介されていた作品だが、タイトルが変更されたようだ、とある。やはりメイクアップ・アーティストに着目し、担当した前出ディック・スミスの偉大さを讃えている。青山がこうした特殊なB級映画に惹かれる理由らしき文面があるので引用しよう。
このように、あくまで「縁の下の力持ち」を強いられる特殊メイクのアーティスト。そんなことから、三流製作者に使われたりすると、「ローズマリー」等のような四流作品の仲間入りを無理矢理させられてしまう事も多い。しかし、B級作品では、有名な特殊メイク・アーティストともなると、監督と力関係も等しく、日頃の不満を解消すべく、おもいっきりグロテスクな作品に仕上げる事が出来る場合もある。/一流作品に関わると規制が厳しく、思う存分才能を発揮出来ず、B級作品でのみ、その力を十二分に表出し得る特殊メイクアップ・アーティストたち。(『Hey!Buddy』1984年1月号)
つまり青山がこうした映画に見ているのは、表面的な物語よりも、技術・表現を含めた総体としての映画の本質にある。B級映画という存在でしか才能を発揮できないアーティスト達への親近感もあったかもしれない。といっても別に啓蒙的な立場ではなく「グッチャグッチャSFX大好きのあなた!」というとても判りやすいスタンスによるものであるが。
そして1984年4月号から「グログロビデオ評」とタイトルを改めて、毎月SFX・ホラー・残酷ビデオを取り上げる連載となった。日本未公開の作品が多いため「映画」というよりも「ビデオ」の方がやりやすいというわけだろう。第1回は「パラサイト(寄生虫)」。スプラッター・ムービーの古典「フィルムゴア」のプロデューサーとして知られるチャールズ・バンドが監督した本作については、「フィルム編集は下手だし、SFX自体たいしたことないけど(略)物語は非常によく出来ている」と監督より脚本を褒めている。
少し流して書くと、5月号では「ドラゴン・スレイヤー」のSFXを担当したクリス・ウェイラス考案による撮影方法ゴー・モーション(コマ撮りなのに残像が残る)に注目。6月号ではフランク・ヘネンロッター監督「バスケット・ケース」を取り上げ、この作品をシリアスに考えるな、監督が畸形に対する問題提起なんて考えてるわけがない、単に娯楽として楽しめば良い、と、グロテスクなものをすぐ問題提起と考える人々への警告をしている。7月号ではゲイリーAシャーマン監督「ゾンゲリア」。エリック・サティのような音楽をまず気に入り、次いで物語とスタン・ウィンストンのSFX技術も特筆すべきとしている。
8月号ではデビッド・クローネンバーグの「ビデオドローム」。青山のクローネンバーグに対する特別な思い入れについては次回以降で触れるが、青山が引用しているクローネンバーグの発言は印象深い。「私はビデオドロームがETほどポピュラーにならないであろうという事実において自分を諦めさせた。私はETほどポピュラーなものは決して作らないだろう。実際、私はどんな場所に投げ込まれても、そこで起こる事に追い付いて行ける『オールラウンドに強い』監督でない事を誇りにしている」。あらゆる出来事に器用に対応できる才能はないという事実を受け止め、しかしだからこそ自分の才能を一番発揮できる舞台を知っている、という宣言であり、ダメな部分を開き直るのではなく、ダメな部分をダメと認める姿勢である。この号では他にルチオ・フルチの「ゲイツ・オブ・ヘル」のエグさを称賛。
9月号の「グログロビデオ評」は“エクソシスト+アルタード・ステー”と評したフィリップ・モーラ「ビースト・ウィズィン」。今号では他に「DATA OF CULT MOVIE」「CULT MOVIE FOR CULTISTS」というカルト映画解説コーナーがあり、古典「ピンク・フラミンゴ」の紹介と、カルト・ムービーの歴史をおさらいしている。青山は「このままの状態で言葉のみ氾濫する暁には、カルト・ムービー=B級ホラー&B級SF&ミッドナイト・ムービーという最悪の事態になりかねない」と言葉の精確な使用を求めている。
10月号ではライナス・ゲイター監督「スター・ヴァージン」に爆笑し、11月号ではサム・ライミ監督「イーブル・デッド」に驚嘆。12月号では「ストレンジ・インベーダーズ」のSFX担当、ジェームズ・カミンズについて紹介し、本作の二重顔面剥ぎ取りシーンと「悪魔の棲む家II」のSFXの類似を指摘している。この辺りの記事のいくつかは、『危ない1号 4巻 青山正明全仕事』に収録されているので、記憶にある方も多いだろう。
※長くなってしまったので『Hey!Buddy』誌での「グログロビデオ評」については引き続き次回で触れたい。なおこの他に、1983年10月号にて「新着FX映画紹介」というドン・カーモディ「スペース・ハンター」紹介、1984年3月号でのスピルバーグ総指揮「トワイライトゾーン」のストーリー紹介などの記事がある。
『Hey!Buddy』1984年4月号P92
白夜書房
「グログロビデオ評」第1回
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ホラー/カルト映画における青山正明(2)
青山正明がカルト/ホラー映画をどのように紹介してきたのか。青山の映画関係の連載は『ビデオ・ザ・ワールド』誌が外せないが、まずは『Hey!Buddy』誌での連載「Flesh Paper」から見ていきたい。この連載でそうした映画を取り上げたのは、1983年7月号が最初である(別の3Dムービー紹介は小さくある)。雑誌には既に映画紹介コラムのページがあり若干遠慮していたようで、必然的にそこに載らない作品の紹介となった。載らない作品とはつまりキワモノである。青山がつけたコーナーのタイトルは「グログロ映画評」。「ホラー」や「スプラッター」という言葉よりも直接的かつ即物的な印象を受けるがいかがだろう。
では7月号の記事を見てみよう。記念すべき第1本目は「クリープ・ショウ」。最近ハリウッドではグロテスク・メイクが大流行!として、「遊星からの物体X(The Thing)」で特殊メイクを担当した当時24才のロブ・ボッティン、「エクソシスト」のディック・スミス、TV・SK・ホラー番組で活躍するエド・フレンチ、TV・映画・舞台などで異彩を放つジョン・カッリオーネ、奇怪な動物作りではピカ一のビル・ムンス、「ゴアの魔法使い」のハーシェル・ゴードン・ルイスら6名の名前を挙げている。そして「さらにこれら6人の上に位置する」存在として、奇才トム・サビーニを紹介。そのサビーニが担当した“汚物の祭典”映画として「クリープ・ショウ」を推薦しているのだが、脚本をスティーヴン・キング、監督がジョージ・ロメロという点もプッシュ理由の一つだったようである。
「グログロ映画評」第2回は1984年1月号。「スパズムズ」を取り上げている。もともと『SFX映画の世界』(中子真治/講談社)で「デス・バイト」というタイトルで紹介されていた作品だが、タイトルが変更されたようだ、とある。やはりメイクアップ・アーティストに着目し、担当した前出ディック・スミスの偉大さを讃えている。青山がこうした特殊なB級映画に惹かれる理由らしき文面があるので引用しよう。
このように、あくまで「縁の下の力持ち」を強いられる特殊メイクのアーティスト。そんなことから、三流製作者に使われたりすると、「ローズマリー」等のような四流作品の仲間入りを無理矢理させられてしまう事も多い。しかし、B級作品では、有名な特殊メイク・アーティストともなると、監督と力関係も等しく、日頃の不満を解消すべく、おもいっきりグロテスクな作品に仕上げる事が出来る場合もある。/一流作品に関わると規制が厳しく、思う存分才能を発揮出来ず、B級作品でのみ、その力を十二分に表出し得る特殊メイクアップ・アーティストたち。(『Hey!Buddy』1984年1月号)
つまり青山がこうした映画に見ているのは、表面的な物語よりも、技術・表現を含めた総体としての映画の本質にある。B級映画という存在でしか才能を発揮できないアーティスト達への親近感もあったかもしれない。といっても別に啓蒙的な立場ではなく「グッチャグッチャSFX大好きのあなた!」というとても判りやすいスタンスによるものであるが。
そして1984年4月号から「グログロビデオ評」とタイトルを改めて、毎月SFX・ホラー・残酷ビデオを取り上げる連載となった。日本未公開の作品が多いため「映画」というよりも「ビデオ」の方がやりやすいというわけだろう。第1回は「パラサイト(寄生虫)」。スプラッター・ムービーの古典「フィルムゴア」のプロデューサーとして知られるチャールズ・バンドが監督した本作については、「フィルム編集は下手だし、SFX自体たいしたことないけど(略)物語は非常によく出来ている」と監督より脚本を褒めている。
少し流して書くと、5月号では「ドラゴン・スレイヤー」のSFXを担当したクリス・ウェイラス考案による撮影方法ゴー・モーション(コマ撮りなのに残像が残る)に注目。6月号ではフランク・ヘネンロッター監督「バスケット・ケース」を取り上げ、この作品をシリアスに考えるな、監督が畸形に対する問題提起なんて考えてるわけがない、単に娯楽として楽しめば良い、と、グロテスクなものをすぐ問題提起と考える人々への警告をしている。7月号ではゲイリーAシャーマン監督「ゾンゲリア」。エリック・サティのような音楽をまず気に入り、次いで物語とスタン・ウィンストンのSFX技術も特筆すべきとしている。
8月号ではデビッド・クローネンバーグの「ビデオドローム」。青山のクローネンバーグに対する特別な思い入れについては次回以降で触れるが、青山が引用しているクローネンバーグの発言は印象深い。「私はビデオドロームがETほどポピュラーにならないであろうという事実において自分を諦めさせた。私はETほどポピュラーなものは決して作らないだろう。実際、私はどんな場所に投げ込まれても、そこで起こる事に追い付いて行ける『オールラウンドに強い』監督でない事を誇りにしている」。あらゆる出来事に器用に対応できる才能はないという事実を受け止め、しかしだからこそ自分の才能を一番発揮できる舞台を知っている、という宣言であり、ダメな部分を開き直るのではなく、ダメな部分をダメと認める姿勢である。この号では他にルチオ・フルチの「ゲイツ・オブ・ヘル」のエグさを称賛。
9月号の「グログロビデオ評」は“エクソシスト+アルタード・ステー”と評したフィリップ・モーラ「ビースト・ウィズィン」。今号では他に「DATA OF CULT MOVIE」「CULT MOVIE FOR CULTISTS」というカルト映画解説コーナーがあり、古典「ピンク・フラミンゴ」の紹介と、カルト・ムービーの歴史をおさらいしている。青山は「このままの状態で言葉のみ氾濫する暁には、カルト・ムービー=B級ホラー&B級SF&ミッドナイト・ムービーという最悪の事態になりかねない」と言葉の精確な使用を求めている。
10月号ではライナス・ゲイター監督「スター・ヴァージン」に爆笑し、11月号ではサム・ライミ監督「イーブル・デッド」に驚嘆。12月号では「ストレンジ・インベーダーズ」のSFX担当、ジェームズ・カミンズについて紹介し、本作の二重顔面剥ぎ取りシーンと「悪魔の棲む家II」のSFXの類似を指摘している。この辺りの記事のいくつかは、『危ない1号 4巻 青山正明全仕事』に収録されているので、記憶にある方も多いだろう。
※長くなってしまったので『Hey!Buddy』誌での「グログロビデオ評」については引き続き次回で触れたい。なおこの他に、1983年10月号にて「新着FX映画紹介」というドン・カーモディ「スペース・ハンター」紹介、1984年3月号でのスピルバーグ総指揮「トワイライトゾーン」のストーリー紹介などの記事がある。
※2009年1月4日(日)の掲載はお休みさせていただきます。
次回掲載は2009年1月11日(日)の予定です。
『Hey!Buddy』1984年4月号P92
白夜書房
「グログロビデオ評」第1回
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ばるぼら ネッ
トワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ
ンターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミ
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08.12.28更新 |
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