『ビデオ・ザ・ワールド』1988年8月号 発行=白夜書房
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「ビデオ・ザ・ワールド」における青山正明(5)
引き続き『ビデオ・ザ・ワールド』誌のビデオ・レビューを中心に追っていく。1988年に何か大きなトピックはなく、わりとそのまますぎてしまった年であるように見える。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年1月号
オーストラリア映画『ハーレクィン』、フェリーニ『女の都』、『コカコーラ・キッド』の3本のビデオを推薦。今号はこれまでのビデオ紹介記事とは別の、AV紹介記事で「デカパイたちの饗宴」を執筆。Dカップ・ハードコアのポルノAVを6本紹介し、「正直申すと、私はDカップ・フェチではなく、デブ・フェチなのである。『ビデオ・ザ・ワールド』某女性編集者が、あと20kg太ってくれれば……。と、5年も待っている私であった」と妙な告白が。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年2月号
ロッセリーニ、ゴダール、パゾリーニ、グレゴレッティの4監督のオムニバス・ビデオ『ロゴパク』のビデオ・パッケージについて「パッケージ表、裏、そして背表紙の3ヶ所に、「映画評論家 品田雄吉 推薦作品」と印刷されている。こんなの初めて見たぜ。中々面白いよね、これ。色んな意味でさ。書くと長くなっちゃうから、書かないけど」と含みのある言い方。『呪われた森』の紹介では「あっ、そう言えば、小学校3年生の時、小児リウマチを患っていた女の子の脚を蹴って、びっこにしちまった事があったなァ。2年間の通院で治ったからよかったけど、一生びっこだったら大変だったなァ……」と映画と全然関係ない露悪的告白があるのが嫌な感じ。『ビデオタイムマシーン』のあらすじ紹介が普通に見える。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年3月号
珍しく素直に「私は泣きました」と推薦しているのが『ミリィ/少年は空を飛んだ』。『オードリー・ローズ』は77年9月の高校2年生の時になんとなく渋谷パンテオンに入り観たのがこの作品だったという思い出のテキストと共に紹介。「映画にまつわる私的思い出というのは、あまり読む気がしない。書いている本人は楽しくとも、読まされている方は退屈なのである。しかし、書いている本人は楽しいので、私は書くぞ。退屈な文章を」。『マンマ・ローマ』レビューでは前号の『ロゴパク』の修正があるのだが「おいっ、この野郎!先月号の『ロゴパク』のレヴューで、俺は、「伊映画界が誇る4巨匠」と書いた。しかし、ゴダールは仏人だろうが。何で、誰も間違いを指摘して来ないんだよ、馬鹿野郎。このコーナーの編集はザルか、えっ、おい、こらっ」とひどい逆ギレ。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年4月号
この号のレビューはある種の本領発揮である。『鮮血の美学』や『ザ・ショックスIV』の紹介はまあまあ普通なのだが、ピーター・グリーナウェイ監督『ZOO』について「何なの、コレ? IQ150の私には、何が何やらサッパリ判りませんでした」と語り、それなりの環境を整えて再挑戦をすることに。「養命酒をオンザロックであおりつつ、『夜想』とか『WAVE』とか『月光』とか『ブルータス』のライターのような、映画の“え”の字も判らん、いけすかないキザ野郎になり切って、映像と音に身を委ねた。/俺は、武邑光裕だ。俺は、伊藤俊治だ。テメエの冴えないツラのことは忘れて、都市の畸形性、人間の脱肉体化に思いを馳せなくては……」と各方面に喧嘩を売りまくり、しかもその後は「面倒臭いので、チラシの文章をそのまんま引用する」と文字数埋めが行なわれる始末。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年5月号
『プリック・アップ』『ギャング』『ジャーマン・ビート』の3本紹介。『ギャング』は半分以上が全然本題と関係ない『ロボコップ』の話題になっており、『ジャーマン・ビート』も「劇場未公開作を観る方法」にほとんど尽くされ、だんだんビデオについて語ること自体が飽きてきているようにも読める。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年6月号
『クリスチーヌの性愛記』『スレッジハンマー ピーター・ガブリエル・ベスト』『ビアー』の3本紹介。『クリスチーヌ〜』の原題が「Grasshopper(バッタ)」であることと絡めて、パッケージとタイトルがいかに重要かを語っている文章が全体の2/3を占めている。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年7月号
第2次オカルト映画ブームの傑作『サンタリア 魔界怨霊』を紹介する中で全然関係ないが面白いエピソード。「夏とくれば、ホラーのシーズン……か、軽いなァ……『東スポ』とか『SPA!』とかの原稿書くと、どうしてもノリがメジャー誌してしまうなァ。/余談だけど、好き勝手に原稿書いて『SPA!』に持って行ったら、編集担当に言われちゃったもんなァ。「こういうマイナーな原稿は困るんですよね。読んでて、ドンドン落ち込んでっちゃうでしょ。『写真時代』や『ビデオ・ザ・ワールド』じゃあないんですから、ウチは」」。その他『危険な愛』と『ダーク・サークル』を紹介。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年8月号
この号のレビューは『ナーズの復讐II──ナーズ・イン・パラダイス』の1本だけ担当。しかもよく読むと別に推薦していない。次号で「エジプトに行って来ました」とあるので、旅行で忙しかったと見られる。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年9月号
『漂流者 2人だけの島』と『ジュリア ジュリア』『ビビアンの旅立ち』を紹介。『漂流者』の原稿は半分がエジプト旅行記。原稿がノリノリなのは『ビビアンの旅立ち』で、「観てびっくりのレズビアン映画。/勃起しまくりましたね、私は」。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年10月号
この号は9月8日発売なのだが、原稿中「もう、8月29日だもんな、ヤバイよな、実際」との記述があり、全国発売10日前に原稿を書いている青山のダラダラぶりは流石、と言ったほうがいいのだろうか。『絶倫パオロのアノ手コノ手』『ザ・キュアー ライブ・イン・オランジュ』の2本を紹介。どちらも紹介自体は普通である。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年11月号
『ジャンク・イン・ザ・ダーク』『ビッグ・イージー』の2本紹介。関係ない話題を枕に持ってくる原稿スタイルが定着しており、今回はオリンピックの話題。「ベン・ジョンソンが、ドーピング発覚で金メダル剥奪さる! あっ、もう古いか、こんなこと……。でもさ、薬物使用が何だってんだよな、ったく。いっそのこと、製薬メーカーをスポンサーにして、“ドラッグ漬けオリンピック”でもやればいいんだよ。俺だったら正規の五輪より、そっちの方を絶対観ちゃうね」。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年12月号
『ラブINニューヨーク』『ノーマッズ』の2本紹介。前者は「B級映画監督には2種類いる」話、後者は「第2次オカルト映画ブームに共通する恐怖とは」話が挿入され、短いがなかなか面白い。
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「ビデオ・ザ・ワールド」における青山正明(5)
引き続き『ビデオ・ザ・ワールド』誌のビデオ・レビューを中心に追っていく。1988年に何か大きなトピックはなく、わりとそのまますぎてしまった年であるように見える。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年1月号/白夜書房 |
オーストラリア映画『ハーレクィン』、フェリーニ『女の都』、『コカコーラ・キッド』の3本のビデオを推薦。今号はこれまでのビデオ紹介記事とは別の、AV紹介記事で「デカパイたちの饗宴」を執筆。Dカップ・ハードコアのポルノAVを6本紹介し、「正直申すと、私はDカップ・フェチではなく、デブ・フェチなのである。『ビデオ・ザ・ワールド』某女性編集者が、あと20kg太ってくれれば……。と、5年も待っている私であった」と妙な告白が。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年2月号/白夜書房 |
ロッセリーニ、ゴダール、パゾリーニ、グレゴレッティの4監督のオムニバス・ビデオ『ロゴパク』のビデオ・パッケージについて「パッケージ表、裏、そして背表紙の3ヶ所に、「映画評論家 品田雄吉 推薦作品」と印刷されている。こんなの初めて見たぜ。中々面白いよね、これ。色んな意味でさ。書くと長くなっちゃうから、書かないけど」と含みのある言い方。『呪われた森』の紹介では「あっ、そう言えば、小学校3年生の時、小児リウマチを患っていた女の子の脚を蹴って、びっこにしちまった事があったなァ。2年間の通院で治ったからよかったけど、一生びっこだったら大変だったなァ……」と映画と全然関係ない露悪的告白があるのが嫌な感じ。『ビデオタイムマシーン』のあらすじ紹介が普通に見える。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年3月号/白夜書房 |
珍しく素直に「私は泣きました」と推薦しているのが『ミリィ/少年は空を飛んだ』。『オードリー・ローズ』は77年9月の高校2年生の時になんとなく渋谷パンテオンに入り観たのがこの作品だったという思い出のテキストと共に紹介。「映画にまつわる私的思い出というのは、あまり読む気がしない。書いている本人は楽しくとも、読まされている方は退屈なのである。しかし、書いている本人は楽しいので、私は書くぞ。退屈な文章を」。『マンマ・ローマ』レビューでは前号の『ロゴパク』の修正があるのだが「おいっ、この野郎!先月号の『ロゴパク』のレヴューで、俺は、「伊映画界が誇る4巨匠」と書いた。しかし、ゴダールは仏人だろうが。何で、誰も間違いを指摘して来ないんだよ、馬鹿野郎。このコーナーの編集はザルか、えっ、おい、こらっ」とひどい逆ギレ。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年4月号/白夜書房 |
この号のレビューはある種の本領発揮である。『鮮血の美学』や『ザ・ショックスIV』の紹介はまあまあ普通なのだが、ピーター・グリーナウェイ監督『ZOO』について「何なの、コレ? IQ150の私には、何が何やらサッパリ判りませんでした」と語り、それなりの環境を整えて再挑戦をすることに。「養命酒をオンザロックであおりつつ、『夜想』とか『WAVE』とか『月光』とか『ブルータス』のライターのような、映画の“え”の字も判らん、いけすかないキザ野郎になり切って、映像と音に身を委ねた。/俺は、武邑光裕だ。俺は、伊藤俊治だ。テメエの冴えないツラのことは忘れて、都市の畸形性、人間の脱肉体化に思いを馳せなくては……」と各方面に喧嘩を売りまくり、しかもその後は「面倒臭いので、チラシの文章をそのまんま引用する」と文字数埋めが行なわれる始末。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年5月号/白夜書房 |
『プリック・アップ』『ギャング』『ジャーマン・ビート』の3本紹介。『ギャング』は半分以上が全然本題と関係ない『ロボコップ』の話題になっており、『ジャーマン・ビート』も「劇場未公開作を観る方法」にほとんど尽くされ、だんだんビデオについて語ること自体が飽きてきているようにも読める。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年6月号/白夜書房 |
『クリスチーヌの性愛記』『スレッジハンマー ピーター・ガブリエル・ベスト』『ビアー』の3本紹介。『クリスチーヌ〜』の原題が「Grasshopper(バッタ)」であることと絡めて、パッケージとタイトルがいかに重要かを語っている文章が全体の2/3を占めている。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年7月号/白夜書房 |
第2次オカルト映画ブームの傑作『サンタリア 魔界怨霊』を紹介する中で全然関係ないが面白いエピソード。「夏とくれば、ホラーのシーズン……か、軽いなァ……『東スポ』とか『SPA!』とかの原稿書くと、どうしてもノリがメジャー誌してしまうなァ。/余談だけど、好き勝手に原稿書いて『SPA!』に持って行ったら、編集担当に言われちゃったもんなァ。「こういうマイナーな原稿は困るんですよね。読んでて、ドンドン落ち込んでっちゃうでしょ。『写真時代』や『ビデオ・ザ・ワールド』じゃあないんですから、ウチは」」。その他『危険な愛』と『ダーク・サークル』を紹介。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年8月号
この号のレビューは『ナーズの復讐II──ナーズ・イン・パラダイス』の1本だけ担当。しかもよく読むと別に推薦していない。次号で「エジプトに行って来ました」とあるので、旅行で忙しかったと見られる。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年9月号/白夜書房 |
『漂流者 2人だけの島』と『ジュリア ジュリア』『ビビアンの旅立ち』を紹介。『漂流者』の原稿は半分がエジプト旅行記。原稿がノリノリなのは『ビビアンの旅立ち』で、「観てびっくりのレズビアン映画。/勃起しまくりましたね、私は」。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年10月号/白夜書房 |
この号は9月8日発売なのだが、原稿中「もう、8月29日だもんな、ヤバイよな、実際」との記述があり、全国発売10日前に原稿を書いている青山のダラダラぶりは流石、と言ったほうがいいのだろうか。『絶倫パオロのアノ手コノ手』『ザ・キュアー ライブ・イン・オランジュ』の2本を紹介。どちらも紹介自体は普通である。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年11月号/白夜書房 |
『ジャンク・イン・ザ・ダーク』『ビッグ・イージー』の2本紹介。関係ない話題を枕に持ってくる原稿スタイルが定着しており、今回はオリンピックの話題。「ベン・ジョンソンが、ドーピング発覚で金メダル剥奪さる! あっ、もう古いか、こんなこと……。でもさ、薬物使用が何だってんだよな、ったく。いっそのこと、製薬メーカーをスポンサーにして、“ドラッグ漬けオリンピック”でもやればいいんだよ。俺だったら正規の五輪より、そっちの方を絶対観ちゃうね」。
『ビデオ・ザ・ワールド』1988年12月号/白夜書房 |
『ラブINニューヨーク』『ノーマッズ』の2本紹介。前者は「B級映画監督には2種類いる」話、後者は「第2次オカルト映画ブームに共通する恐怖とは」話が挿入され、短いがなかなか面白い。
(続く)
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新宿アンダーグラウンドの残影 〜モダンアートのある60年代〜
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ばるぼら ネッ
トワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ
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