<< 前回の記事を読む
しかし結果から言えば、JICC出版局(今の宝島社)から出る予定だった『ホラー・フィルムズ』は原稿を引き伸ばしすぎたため企画が消滅。変態エロ本『フィリアック』は紆余曲折を経て2冊で終刊。悪趣味雑誌『サバト』も創刊号だけで終わってしまった。
一つずつ見ていくと、『ホラー・フィルムズ』は「フレッシュ・ペーパー」でもよく書いていたホラー映画についてまとめた書籍になる予定で、当時のビデオ・ブーム、カルトムービー・ブームとも噛み合った期待できるものだった。青山は中学3年生の時に「悪魔の植物人間」を観て以来、グロテスクなものへ興味を持つようになったという特殊映画マニアでもあり、本書をまとめていれば、その後の評価も変わっていたに違いない。
1985年春に出た『フィリアック』は、日本で初めて肛門を表紙に載せたという、凄いのか凄くないのか判らないエロ本で(しかし実は裏表紙の方がモロ!)、初めて青山正明が編集長を務めた雑誌でもある。先行する変態マガジン『Billy』が『Billyボーイ』へ名前を変え、当局の指導を受けていた頃に、スカトロ、獣姦、Dカップ、ロリコン、犯罪、アートと幅広く取り揃えた総合変態雑誌として、一部で注目を浴びたようだ。高杉弾や秋田昌美も寄稿している。
この『フィリアック』は版元とトラブルが起き、2号は『ビッチ』と名前を変え、1986年初夏にホープ出版から発売された。表紙には大きく「ウンコ特集号」とある。この時期、小さな出版社がスカトロ専門誌を次々と発刊しており、青山正明も『スカトピア』『スカトロスペシャル』『コプロラビア』『フィーメール』『MASPET』などに原稿を書いていた。その流行を考えた上で、スカトロに焦点を当てたのだと思われる。『ビッチ』も民間除霊術、肉体的欠陥、動物虐待など、サブカルからグロテスクまで幅広く、書いているライターは『月光』と被っており、裏『月光』といえる内容になっているようだ。
『サバト』は1985年11月15日発行の変態&アングラ雑誌。スカトロ、奇形、妖怪、黒魔術、SM、獣姦、ホラービデオ、死体など、バラエティ豊かなのは『フィリアック』と変わらないが、少しカルチャー色を匂わせている所が特徴で、挙げた中では一番、のちの『危ない1号』に通じる路線といえる。編集後記には「ところで、私は、サバトのお兄さんに当たる『フィリアック』なる隔月誌を編集している。これは、公称1万部だからして、その読者は、神のような感性を有する者か、はたまた脳梅ザルに等しき人の何れかであろう」とある。
『別冊宝島 このビデオを見ろ!』左=1号/右=4号/共にJICC出版局
1988年9月1日1号発行。/JICC出版局。昔ながらの名画座がつぶれはじめ、テレビでのB級映画放映も減っていく。そんな時代に映画好きが飛びついたのはレンタル・ビデオだったが、しかし情報が十分に流通していないせいで、借りられることのないまま消えていく無数の名作達。これを救い上げようと編集されたのがこのレンタル・ビデオ・ガイド本シリーズ。総合的内容の1集、アクション編の2集、青春映画編の3集、ファンタジー・SF・ホラー編の4集。青山は1集で『悪魔の植物人間』、4集で「現実と幻想の交錯」と題して6本の映画を勧めている。現在ある『映画秘宝』は、『このビデオを見ろ!』と『映画宝島』が出発点だった。
『Indies』2号
1996年4月12日発行/リットーミュージック
1996年4月12日発行。リットーミュージック。90年代半ばに創刊されたインディーズ情報雑誌だが、コーパス・グラインダーズというバンドのボーカル、ゼロのコラムページに青山正明の名前が出てくる。引用しよう。「突然変異。今をときめく青山さん。ドラッグ、差別、エロ、いろいろありました。そのあと青山正明編集「フィリアック」という本もありました。当時感動したあまりTELし、デザインやりたいと伝えたところ、既に版下はできていて、内容がまずすぎて(爆弾製造etc…)結局出なかったのかな? 肉しんぶんもよく読んでました。青山、このまま突っ走れ!! もっとメチャクチャに行けー!! オレもメチャクチャに行くぞー!!」
関連記事
新宿アンダーグラウンドの残影 〜モダンアートのある60年代〜
【プロローグ】 【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】 【本文註釈・参考文献】
ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。
「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/ |
08.06.08更新 |
WEBスナイパー
>
天災編集者! 青山正明の世界