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『ヘイ!バディ』終刊と前後して、青山正明の原稿はホラー/カルト・ムービー関連にシフトしていった。幸い、当時はちょうどビデオ・ブームで、映画のビデオ・ソフトが大量に発売されたことで情報誌が乱立し、媒体には困らなかった。80年代後半に青山正明の映画原稿が載った雑誌・書籍は、確認できるだけでも、『アビック』『ビデオヤング』『ビデオプレイ』『メタル・キッズ』『血まみれスプラッタムービー大特集』『ビデオファン』『ベストビデオ』『月刊ビデオでーた』『VZONE』『別冊宝島 このビデオを見ろ!』『こんなビデオが面白い・ファンタスティック映画編』『CITY ROAD』など多数ある。
しかしそういったライター業はあくまでサブとして、メインはあくまで編集業を考えていたようで、1986年には大正屋出版という小さな出版社に入社し、単行本の編集を行なっている。大正屋の出版物のメインは同人誌出身の漫画家の単行本で特筆すべきものはないが、青山正明らしさを感じさせる数少ない本が二冊ある。『カリスマ』と『阿修羅』である。
1987年3月13日発行の『カリスマ』は「ホラーを越えた覚醒コミック」と題して、当時盛り上がっていたホラーコミックにエロ要素を足した、怪奇エロ漫画中心のアンソロジー本。裸の女の子で抜こうと思うと、次のページにはグチャグチャのゾンビが出てくるような、エログロという言葉がピッタリの、なんとも中途半端なエロ漫画誌だが、一番後ろの情報コーナーには、『Fool's Mate』誌の初代編集長である故・北村昌士のインタビュー、マイナー怪奇漫画の紹介コーナー「発掘漫画紀行」、ゲーム・ブックやカルト・ムービーの紹介などが載り、少ないページながら濃い。竹熊健太郎のマンガも掲載。
1987年9月13日発行の『阿修羅』も同路線で、冒頭にカルト・ムービーの紹介、真ん中に「ゆきゆきて神軍」などの紹介、後ろにメルツバウの秋田昌美インタビュー、カードゲームレビューなどが載っている(編集スタッフには力武靖の名前も)。編集後記では「年末発行予定の季刊『ヘッド・ショップ』は、過剰の果てを見据えた空前絶後のギャグ・ブックだ」と新雑誌創刊の予定に触れられているものの、大正屋はその後倒産し、未刊となったままである。ちなみに、1986年9月にも『エストレーモ』というサブカルチャー雑誌を立ち上げる予定だったそうだが、それも未刊。
想像が許されるならば、『ヘッド・ショップ』も『エストレーモ』も、たとえこの時点で出ていたとしても、大きな流れは生まず、カルト雑誌の一つとして後年発掘されるに留まっていただろう。カルト、鬼畜、グロテスクなどが脚光を浴びるのは、80年代後半から始まったバブルが崩壊した後の、1993年頃からだからだ。
『ビデオファン』創刊2号
白夜書房から出ていた新作ビデオ情報誌。1986年11月21日発売の第2号(87年1月号)はデイヴィッド・クローネンバーグを特集しており、青山は松村光生と共にクローネンバーグへのインタビューと作品解説を担当している。作品への深い造詣を感じさせつつ、それらしい会話も。「彼女の『グリーンドア』はごらんになっていたのですか?」「いや、実は僕はポルノ映画を見たことがないんだ。その作品はいいと聞いたことはあるな、あなたは見たの?」「ええ」「日本国内で?」「ええ。日本ではもちろんハードコア・ポルノは禁止されていますけど、地下市場では結構簡単に手に入るものなのです(笑)」「そうだったのか(笑)」
『CITY ROAD』/株式会社エコー企画
株式会社エコー企画。『ぴあ』の対抗誌的存在だった映画・音楽などのスケジュール情報誌。『ぴあ』が網羅的にすべての情報をフラットに掲載していたのに対し、『シティ・ロード』は情報を編集して掲載するタイプだった。『ぴあ』よりもサブカルチャー関連に強く、若者層には支持されていたが、のち休刊した。青山は1989年頃から「せっかくディスク、だったらディスク」と題したLDのレビュー連載を行っていた。取りあげた作品は『キンクス・ストーリー1964-1984』『イレ・アイエ/デビッド・バーン』『栄光のグラム・ロック』『世界の車窓から(2)』『インモラル物語2(未)』『バロン』『ナタリーの朝』など。
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ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。
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08.06.15更新 |
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