私のやおい熱はとどまるところを知らず、次々と他の作品まで侵食していきました。
ちなみにキャプテン翼で好きなカップリングは(日向)小次郎×若島津(健)でした(聞いてねぇ)。
前回からの続きです。>>>前回の記事を読む
なぜ私はこうもあっさりと、同人だのやおいだのにハマったのでしょう。
第1回にも書きましたが、その頃、私は2つの世界の狭間に生きていました。ひとつはアニメや漫画などの、私が決して足を踏み入れることのできない夢と理想の世界。そこでは目にも眩しい美少年たちが、自分たちの命をかけて必殺技を出し合ったり、ひとつのボールを奪い合ったり、新天地を目指して張り切っていたり、古代の遺産を守るために銃撃戦を繰り広げたりしていました。そしてもうひとつは現実の世界です。
現実の世界には面白いことも美しいものもないのですが、だからと言って理想の世界に逃げ出したくてもそれは物理的に無理。片方を拒否し、片方には拒否され、だから私は狭間にいました。足は現実につき、頭は理想に向かって掲げながら。
ところがこのやおいというシステムを使うと、現実までは無理だとしても、狭間にまでなら何とか理想の世界を持ってくることができるのです。空想や妄想ひとつで、美少年たちは私の意のままに動くのです。
それがあえて普通の漫画ではなく、セックスを扱ったやおいだったことは、私の小さな希望であり、現実へのかすかな未練だったと言ってもいいかもしれません。私がまだ知らない行為。おそらくずっと先にならないと致すことのないであろう行為。でも、それができるぐらいに大人になったときには、現実が劇的に変わっていて、私は彼らみたいな美少年たちと本当にイチャつけるようになっているかもしれない。そりゃホントは彼らそのものがいいけど、それはさすがに無理だから、百歩譲って似ていればそれでもいいや! そんなはかない、叶う可能性の極めて低い希望です。……ていうか、頭悪すぎる。
やおい本に女性が登場しないことを不思議がる人がいますが、あれは多分この部分に理由があるのだと思います。女性という「自分と同じ人間」が登場した途端に、私たちは自分がやっぱり「こちら側」の人間で、「あちら側」には決して行けないのだということに気が付いてしまうのです。漫画の女性はあちら側で楽しそうに振舞っている、しかし同じ人間であるはずの私たちは、こちら側でどうすることもできずにいる。同じなのに、なぜ? それは、あちら側なんて存在しないものだから。そのことに気が付いて、やるせなくなってしまうのです。えぇ、私は二次元コンプレックスでした。二次元のキャラにマジ惚れしてました。痛いよぉぉぉ。
あちら側なんてないんだ、ということから目をそらすために、私たちはあえて自分たちとは違う種類の人間である「男の子」ばかりを登場させるのです。
それから10年ちょっと経った後、私は当時の私ととてもよく似ている人種に出会いました。SMクラブを訪れる女装子さんたちです。彼女?たちの多くは女性になることを望んでいつつ、相手には男性ではなく女性を求めていました。本物の男性は言うに及ばず、私たちが男「役」になることさえ嫌がりました。つまり、レズプレイです。
元々が男性なのですから、男同士のホモプレイに生理的な嫌悪感があるということが、まずはその第一の理由として挙げられるでしょう。しかし、私はそれと同時に、自分たちのファンタジーを守ろうとする防衛本能のようなものも感じました。やおいに走る腐女子と、レズプレイに走る女装子は、ファンタジーの構築・死守という点において、同じアプローチをしているのです。私が女装子とのプレイが好きなのは、もしかしたら彼女?たちの気持ちが痛いほどよく理解できるからかもしれません。
狭間の空間において、やおいという究極の武器の存在を知った私が、自分もその武器を手にとってみるのに、そう時間はかかりませんでした。私は買ってきたノートに見よう見まねでコマ割をし、やおい漫画を描き始め、まもなく暇さえあれば描いているようになりました。
↑昔よくこんな感じの絵を描いていました。色の塗り方とか何となく手が覚えていたんでびっくりしました。「三つ子の魂百まで」をこんなことで実感……。恥ずかしくて字が歪みました。新たな羞恥プレイか。
こういう状態にある女子のことを“腐っている”と表現した人は、天才だと思います。足は現実、頭は理想。つまり目の前のことが何も見えず、自分が本当にこの世界に生きているのかどうかもわからない状態。
そのうち、お風呂に入らなくなりました。現実の私が臭いかどうかということがだんだん自分から遠のいていき、狭間の世界を私の思うままに駆け巡ってくれる男の子たちのほうがよりリアルなものとして感じられ始めたのです。現実の男子にどう思われるかなんてこともどうでもよく、いつも頭はぼさぼさのままでした。なんというか、典型的でした。
ちなみに私は今でも風呂嫌いですが、それはおそらくこのときにお風呂に入らない習慣がついてしまったからだと思います。あ、でも臭くなる前には入ります、念のため。
ところで私は日本のSMもさることながら、西洋のSMにも大変興味を持っており、それはとりもなおさず西洋人のM男とプレイするということに繋がるのですが、おそらくそこに心躍らされる理由は、この時期に“氷河受け”の漫画ばかり描いていたからではないかと踏んでいます。氷河というのは『聖闘士星矢』の登場人物で、ロシア人と日本人のハーフの、金髪碧眼の少年です(その組み合わせだったら普通金髪にはならないのではないかというツッコミはさておき)。師匠がフランス人という設定なこともあり、私の中では西洋人=氷河みたいな、もう救うに救えない図式が出来上がってしまったようなのです。大人になった今、目のパッチリした柔らかな薄い色の髪の西洋人をシバいていて感じるときめきは、あの頃、氷河受けの漫画を描いていたときのときめきと同じもののような気がします。
←『聖闘士星矢 聖闘士聖衣神話 キグナス氷河(最終青銅聖衣)』 発売日:2006年3月下旬
価格:3,990円(税込)
対象年齢:15才以上
販売元:株式会社バンダイ
(c)車田正美/集英社・東映アニメーション
(c) BANDAI CO. , LTD. 2007 ALL RIGHTS RESERVED.
↑約15年後、西洋SMに走った私の根底にはこの人の存在があったのかもしれません。
早川舞 世界、特にヨーロッパのフェティッシュ・カルチャー関係者との交流も深い、元SM女王様フリーライター。だが取材&執筆はエロはもとよりサブカルからお笑い、健康関係まで幅広く?こなす。SMの女王様で構成されたフェミ系女権ラウドロックバンド「SEXLESS」ではボーカルとパフォーマンスを担当。
Reverse Dead Run |
07.10.21更新 |
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