Hujio Hama presents Fantastic Prison Novel. あぶらいふ的『S&Mスナイパー』アーカイブ! 1993年7月号掲載 常識ある大人のための肉筆紙芝居 監禁シミュレーション・ノベル 「女囚くみ子」第一回 文・画=浜不二夫 Illustration & Text by Hujio Hama |
管理化された現代社会に於いて、刑務所へ入る可能性は日常のすぐ隣にあるのかもしれない。一組の男女の会話から仮想されるこの物語が、辱しめられるくみ子の気持ちを実話以上に伝えてくるのは何故なのだろう……。潤沢な妄想からつむぎ出される、くみ子の辛く虐げられた日々が、いよいよ始まろうとしています。
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ある日、突然
刑務所へ行く破目に
「いろんな人の女囚体験を見てきたが、総まとめに、くみ子に女囚になって刑務所に入ってもらおう」
「工ーッ、そんな……。だって私が刑務所へ入るような悪いことするわけないもの」
「確かに、くみ子が泥棒や詐欺をやることはあり得ないだろう。だけど、こう世のなかが複雑になってくると“刑務所へ行くのは悪い女”という単純な図式にあてはまらない場合かあちこちに出てきて、ごく普通の女性がある日突然刑務所に行く破目におちいるケースがいくらでもあるんだ」
「本当?」
「一番多いのが交通事故だろう。くみ子も運転するんだろう?」
「免許証は持ってるけど……」
「今、酒気帯び運転で人身事故を起こしたら、まちがいなく手錠をはめられて留置所へ入れられ、刑事被告人として法廷に引きだされる。情状か悪ければ執行猶予がつかなくて、本当に刑務所へ行かなければならなくなる場合だって充分ありうる。まあせいぜい六カ月から一年だろうね」
「そんな……刑務所なんて一日だって厭よ、一年もだなんて……」
「そのほか脱税、贈賄、選挙違反なんて、あまり本人が罪だと思っていない場合が多いんじゃないかな」
「脱税なんか、お店やってる人は誰でもやってるんじゃない?」
「皆がやっていたって罪は罪だ。それと今普通の主婦に密かに浸透していると言われる覚醒剤、大麻、そして売春。麻薬類は持っているだけて犯罪になるんだから、人にもらって何の気なしに持っていただけで使わなかったといっても逮捕される」
「あら、知らなかったわ」
「話の都合上、こういう設定にしよう。くみ子は新車を買ったので、彼を誘ってドライフに出た。最初は、もちろん彼が運転してたんだが、行った先で彼と喧嘩をしてしまい、カッとなった彼は独りで電車で帰ってしまった。仕方なく、くみ子は、自分て運転して帰ろうとする。そんなつもりじゃなかったから、かなりお酒を飲んでいたけれど、車を置いて帰るわけにもいかない。そこへ雨が降ってくる。慣れない雨の夜道、ムシャクシャしているからついスピードも出していた。突然、横から自転車が飛ひだしてきた! 必死にハンドルにしがみついてブレーキを踏んだが鈍いショック! スローモーションの画面のように、自転車がはねとばされて倒れてゆくのがライトの中に……慌てて外へ出ようとして、くみ子は自分がお酒を飲んでいることを思いだした。“酔っぱらい運転で事故を!”と思った途端、頭がカーツとして夢中で車をスタートさせてその場から逃げだし、気がついたら自分の部屋に濡れたコートも脱がずに座っていた……。というのはどうだい? 絶対そんなこと起こらないって言えるかな」
「ソレハナイデショウ……って言いたいけど……。事故を起こしたときには、車どうし、こすった程度の事故でも本当に頭がカーツとなってしまうものね……もしそんな状況になったら夢中で逃げ出しちゃうってことも絶対ないとは言えないわね」
▼逮捕・手錠(告白)
女囚くみ子の体験
どうして逃げたのかって、取り調べのあいだじゅう刑事さんや検事さんに問いつめられましたが、その時の白分の頭の中は、もう何が何だかわからなくなっていて……。その晩は、畳に座ったまま一睡もせずに夜を明かしました。せめて自首していれば、と弁護士さんにも言われましたが、警察に届けなければならないと思っても、体がすくんでしまっていて……。
夜が明けて、外で物音がしてドアのチャイムが鳴ったときには、私はもう、半分気が遠くなっていました。ドアを開けると刑事さんが二人……。目撃者がいて、私の車のナンバーを見ていて、警察に連絡したのだそうです。
何か白い紙を見せられましたが、目がくらんで何も判りませんでした。
「丸矢くみ子だね? ゆうべ事故を起したろう。ひき逃げで逮捕する! 当分帰れないだろうから、下着の替えなどを持って、一緒に来なさい」
ふらつく足を踏みしめながら奥の部屋へ入る私の後から、刑事さんの一人がついてきます。
「アノ……着替えをしたいんですが……」
「着替えはかまわんが、気の毒だが、一人にさせるわけにはいかんのだ。留置所へ入れば、しょっちゅう人前で裸にならなきゃならんのだ。慣れるほかないな。まあ、わきを向いててやるから着替えな」
そう言われても、そのときは男の人の見ている前で服を脱ぐなんで、とってもできませんでした。結局、その刑事さんに言われた通り、警察で身体検査されたときには、みんなが見ている前でマッパダカにならなければならなかったのですが、そのときは、タンスの引き出しから、パンティやスリップを出すところを見られるのさえ、恥ずかしく腹立たしかったものです。
下着類を入れた小さなバッグを持って私が立ちあがると、刑事さんが、サッと手を伸ばして私の右手を握りました。アッと手を引こうとした途端、ガチャッという音と一緒に、手首に冷たく固い金属の感触が! 続いて同じショックが左の手首にも……慌ててひっこめようとした両手首を短く鎖がつないでいました。
(アッ、手錠! 手錠をはめられたのだ)
あれから毎日……今では哀しく慣れてしまった手錠ですが、最初のときの、あの恐怖と屈辱に打ちひしがれた手錠のおぞましい感触は、今もはっきりと覚えています。そして、その手錠姿で明るい戸外へ曳き出されたときの惨めさ。物音を聞きつけた隣近所の人たちが、遠まきにして見ています。小声でささやき交わしながら浴びせる好奇と軽蔑の眼差し。立ち止まれば鎖を引かれ、ますます惨めに手錠のはまった両手を突き出す格好になってしまう。私は、哀れな姿を大勢の人目に晒しながら、死ぬ思いでパトカーまで歩かされたのでした。
警察の取調室は、太い鉄格子の扉をくぐった中の一角にありました。そこへ入れられてからも、なかなか手錠をはずしてもらえませんでした。最初、徹底的に手錠の味を身にしみさせて、反抗心を消しとばすためだそうです。私は、固い椅子に身を縮めて泣いていました。顔を伏せると ひざの上の両手に冷たく光る手錠がはまっているのが否心なしに目に入って……。とんでもないことになってしまったと、胸がふさがる思いでした。
ガタン、と扉が開いて数人の刑事さんが入ってきました。私は身を固くしました。若い刑事さんが怖い声で、
「丸谷くみ子! お前はとんでもない奴だ。事故を起こしたってのに被害者の救助も、警察への連路もしないで逃げ出すなんて。おかげで手数が何倍にもなる。さあ今から現場検証だ。立て!」
立ち上がって、うなだれている私の手錠に長い縄がつけられ、そしてその縄が私の腰に……手錠腰縄という格好でした。腰を一巻きした縄の前後に結び目がつくられ、前の結び目から伸びた縄に短く手錠を繋がれ、後ろの結び目からは、長く尻尾みたいに縄が伸びていて、その縄尻を刑事さんに握られて……。この日から裁判の間中、毎日のようにこの格好をさせられましたが、この、腰に縄をつけられるのだけは、何回経験しても慣れることができず、そのたびに涙がでるほどの屈辱の思いに唇をかみ、身を悶えたものでした。
「こんな格好で現場検証に連れていかれるのだわ。こんな姿で皆が見ている中へ引き出されて……」
現場には、警察の入のほかに新聞記者や雑誌のカメラマシ、大勢の野次馬まで集まっていました。私を乗せたパトカーは、その大勢の人が見ているなか……。
「さぁ出ろ!」
手錠も腰縄もはずしてはもらえませんでした。縄尻と腕をつかまれて引き立てられ、私は、その屈辱の姿を皆の視線に晒すほかありませんでした。カメラのフラッシュが光り 夢中で顔を手でかくそうとして 腰縄に繋がれた手錠が残酷に両手をひき戻す情け無さに、私は身をもんですすり泣きました。
「あれが犯人よ。まあ、女だわ」
「まだ若いのに……。かわいそうに手錠ををはめられちゃって……」
「でも ひき逃げ犯人なんだもの。当然よ。被害者は重体だって」
そんな声が耳に入ってきて、本当に死ぬ思いでした。腰縄を押握られたままあちこち引きまわされ、手錠のはまった手で、最初に白転車を発見した位置を指ささせられ、何時間ものあいだ私は、”悪いことをして手錠をかけられた女”の姿を大勢の人目に晒すほかありませんでした。
「結局、くみ子も手錠かけられちゃったのね、かわいそうに……。テレビドラマで見ても、女の人でも逮捕されたら容赦なく手錠をかけられてるからしかたないのよね。それにしても、手錠も冷たくて残酷な感じだけど、その上に、腰に縄をつけられたあの格好! まるで猿まわしのお猿さんみたいで、見るからに惨めー!って格好ね。あんな格好で外を歩かせるなんて、それだけで残酷な刑罰だと思うわ。哀れな格好で、皆にジロジロ顔を見られ、写真まで撮られて……」
「逮捕された直後は、男でも女でも自首してきた者でも例外なしに手錠をはめられる。理由を聞けば、逃亡を防ぐためとか何とか言うんだろうけど、本音は、お上の権威を身にしみて悟らせて、恐れ入りましたと神妙にお裁きを受けさせるのが目的だろう」
「手錠って、縄で縛られたときみたいにしびれて痛くなってこないのはいいんだけど、その代わり、絶対に自然にゆるんだリすることがないし、鍵を持っている人以外には絶対にはずせないし……、縄で縛られるのは、“あの人”に縛られたんだって気分になるけど、手錠をかけられたまま一人でいると、鉄の金具と鎖っていう道具に自由を奪われちゃって、何か人間じゃない動物になっちゃったみたいな情け無い気分にさせられちゃうのよね」
「なるほど、それはおもしろい感覚だね。さすが手錠も縄もタップリと体で味わったくみ子でなけりゃわからない感覚だな」
「また人を馬鹿にしてるのね」
「手錠という道具は、大変合理的にできているが、それだけにかえって、“人間の自由を奪うために人間の体を徹底的に研究してつくった道具”という極めて非人間的な冷たい器具になっているというわけだね。言いかえれば、人間なら道具を自分の意志で自由に扱うはずなのに、逆に、道具に体を支配され惨めな格好を強制されるという点に、残酷さ非情さがあるということだね」
「人間じゃない、道具以下の“物”にされちゃうってことなのね」
「さて、逮捕されたくみ子は、どんな目にあっているかな」
(続く)
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浜不二夫プロフィール 異端の作家。インテリジェンス+イマジネーション+ユーモアで描く羞美の世界は甘く、厳しく、エロティック。 「 悪者に捕らわれた女性は、白馬の騎士に助けてもらえますが、罪を償う女囚は誰にも助けてもらえません。刑罰として自由を奪われ、羞恥心が許されない女性の絶望と屈辱を描きたかったのです。死刑の代わりに奴隷刑を採用した社会も書いてみたいのですが」 |
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