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「あぶらいふ」厳選連載! アブノーマルな性を生きるすべての人へ
縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
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私に手紙を下さったこの女性の場合は、
「縛」の一字から、どのような具体的なイメージを抱かれるのだろうか。
あるいは「縛」の字から、
自分自身が縄で縛られるという被虐的なイメージを
思い浮かべるのだろうか。

前回に書いた緊縛写真集ができた。
いや、まだ「写真集」とまではいかない。
心をゆるした同志たちと協力して、写真集にするための写真を、取り終えた段階である。
私が理想とする、情緒情感のある、いい緊縛写真がいっぱい撮れた。
カメラマンは山之内幸。もちろん仲間の一人である。

その新しい私たちのグループの名は「ともしび」という。
「ともしび」とは、なんとまあ、平凡な、さりげない、静かなネーミングであろう。
私たちは全員が、このグループ名を気に入っている。

従来の、あのみるからにおどろおどろしい、しかしいまはすっかり類型通俗に堕してしまった、こけおどしの、商業主義にまみれた「責め」とか「拷問」とか「耽美」などという言葉を使うことを、無意識のうちに避けた。
ああいうアクロバット的な、股間展開見世物とは違う写真や映像を、私たちはめざすのだ。

私たち「ともしび」が制作した写真集に、「夕日の部屋」というタイトルをつけようと、いま思っている。

どんよりと夕日がさしこむ静かな和室の中に、後手に縛られた女性が一人、声もなく息づいている写真の、なんと情緒的であることよ。
そしてまた、この写真の一枚一枚に、なんとエロティックな妄想を抱かせる情念がひそんでいることよ。

縛られている女性は早乙女宏美であり「ともしび」のメンバーである。
早乙女は質素なワンピース姿で、終始、その着衣のままで縛られている。
最後まで、服を脱がない。つまり、裸にならない。
下着姿にもならない。
服の裾をまくりあげて、太腿や尻を出すようなこともしない。
あくまでも「縛り」にこだわったシーンの連続である。

いや、とくに縛りにもこだわっていない。
縄をやたらに多く使ってモデルの体を飾り、縛り手が自分の緊縛術を自慢して見せびらかすような写真は、一枚もない。

私たち「ともしび」がめざしたのは、あくまでも縛れた女体の、全身からにじみだす情念の姿であり、不安とおののきの情感であり、身辺にせまりくる恐怖がかもしだすエロティシズムであった。

なので、私はいつもの商業SMの撮影の場合は二十数本用意する縄を、三、四本しか持っていかなかった。
それで十分だった。縄はすくなく効果的にかけるほうが情緒がでるのだ。ごてごて多くかけて残酷さを強調しようとすると、逆効果になる。

今回の山之内幸カメラマンによる撮影で、私の縄は、縄本来の魅力を発揮し得た、と私は思った。
いかにも商業主義にまみれた撮影とはいえ、過去の私は、縄をもてあそびすぎた。
いたずらに縄に媚び、もてあそびすぎると、女体のエロティシズムは希薄になる。



ここで私は、話を「縛」という一字に思いを寄せた少年時代の記憶に、もどさなければならない。
私のこの「猥褻快楽遺書」を読んでくださった女性の方から、つい最近、つぎのようなお手紙をいただいた。
(前略)
濡木さんの感覚や感性が文章となって私に伝わってきて、読んでいるだけでとてもドキドキします。
(中略)縛りやらのSMプレイ?の経験は一度もありません。ただの憧れと妄想の世界です。
だからこそ、濡木さんの文章を読むのがとても楽しいのです。(中略)何度も読み返して、最初はわからなかった漢字も覚えたり、私の気持ちそのものが広がっていくようで、勉強にもなります。
私も「縛」の文字にはとても惹かれます。
(後略)
以上、要点だけを引用させていただいた。原文はもうすこし長い。
女性の方から(それも多分若い方だろうと思う)このように「縛」の一字に惹かれる、という感想文をいただいたのは、私も初めてであり、意外であった。この女性も、私たちの同志だ、と思った。



私は先日も或るAV監督から、こういうことを言われたのだ。

「……いまの世の中はですね、緊縛されるだけの女を見たって、空想とか妄想とか、そんなエロティックなイメージに浸るような人間なんていませんよ。いまは女を縛ったらすぐにマタをひろげて何かを突っこんだりして、とにかく残酷に痛めつけるような、そういうリアルな映像を見せないと、SMマニアは買ってくれませんよ」

私は、違う、と思ったが、この監督はそういう「SM」を信じているので、何を言ってもわからないだろうと思い、黙っていた。

しかし「縛」の一時に心を惹かれるという私の文章を読むだけで、憧れと妄想の世界に浸ることのできる女性もいる。
私に手紙を下さったこの女性の場合は、「縛」の一字から、どのような具体的なイメージを抱かれるのだろうか。

あるいは「縛」の字から、自分自身が縄で縛られるという被虐的なイメージを思い浮かべるのだろうか。

少年時代の私は、「縛」の一字に、なにか得体の知れない魅力を感じていたが、その具象的な行為としては「縛ったり」「縛られたり」の両方であった。

『少年倶楽部』のような雑誌に掲載されている小説とか物語の文章に添えられている挿絵の中に、その具体的なシーンはあった。
つまり、まったく架空の物語の中にだけしか、「縛」のイメージにつながるものはなかった。

そして少年時代の私の場合は「縛る」という能動的な行為よりも、じつは、「縛られる」という受動的なイメージを好む心のほうが強かったように思う。

(続く)

『濡木痴夢男の秘蔵緊縛コレクション1「悲願」(不二企画)


品番:KC-01
発売:2010年06月24日
収録時間:91分
販売元:不二企画

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※当欄で使用していのイメージ写真は本作のキャプチャ画像です

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濡木痴夢男 1930年、東京都生まれ。SM雑誌『裏窓』『サスペンス・マガジン』の編集長を務めるかたわら、『奇譚クラブ』他三十数誌に小説を発表。1985年に「緊縛美研究会」を発足し、ビデオ製作や『日本緊縛写真史』(自由国民社)の監修にあたる。著書多数。近著に『緊縛☆命あるかぎり』(河出文庫)。
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