WEB SNIPER Cinema Review!!
『ふゆの獣』『おだやかな日常』が注目を浴びた内田伸輝監督、最新作品!
のどかな村にふらりとやってきた都会の女キヨミ(山崎真美)は、ひょんなことから村の老婆キヌ(森康子)の家で暮らすことになり、キヌが孫のように接しているマサルと共同生活をすることになる。マサルが毎晩作る手料理に癒されるキヨミだったが、彼女の存在はマサルや村の青年たちをのぼせ上がらせる結果となって......。2013年2月2日(土)よりロードショー!
渋谷ユーロスペース 、大阪シネ・ヌーヴォ、名古屋シネマスコーレ 引続き、京都シネマ、神戸アートビレッジセンター 他順次全国
バスの後部座席に座り、窓の外を眺める女。周囲に乗客の姿は見当たらなくて、外には晴れた山の風景が続く。いかにも何かが始まりそうでワクワクする冒頭、次にくるのは「おにぎり食べる?」という展開だ。女は手前にすわっていた唯一の別の乗客、地元のおばあちゃんらしき人からおにぎりを一つ分けてもらう。映画館には、そのとき一緒にもらった「おこうこ」を噛む、コリコリという音が響く。
都会暮らしに疲れ、人生における方向性を失った女が、田舎で最も確からしいものを見つけて再生する。この映画が提示するその、最も確からしいもの、それは食事なんですねー!ってこれは、『食べて、祈って、恋をして』か! それとも『かもめ食堂』か! もっと『さまよう獣』をやってくれよー!と怒りたくなったのは、ちょっとオチにムカムカしてしまったからなんですが、前半の「セックスが、村にやってきた!」みたいな感じはおもしろい。
本作は、『ふゆの獣』が東京フィルメックスで最優秀作品賞を受賞した、内田伸輝監督の本格商業デビュー作。冒頭でおにぎりを貰った女(山崎真実)は、やがて停留所で老婆キヌを追うようにバスを降り、そのあとをついていく。この女の目的は何なのか。題名もこわいし、なにか詐欺犯とか?! それとも快楽殺人!? 誰が獣なんだろう、いやどう考えてもこの女だろ......。とぼそぼそ想像しているうちに、女はなんとキヌの家の前まで来てしまう。そしてそれをキヌも招き入れ、わけも聞かずにそのまま居候させてしまうんですね。
幼い頃に両親をなくし、キヌの家に出入りしている寡黙なマサル(波岡一喜)をはじめ、押し出しの強いトマト栽培農家のタツヤ(渋川清彦)や、文学オタクの酪農家シンジ(山岸門人)、村の若い男たちの下半身はざわつき始める。
しかし男たちに比べ、彼女はどうやら、自分のなかの「女」の部分を封印したいらしい。それにしては、止めどなく溢れ出すエロ......。なにしろ越してきた当日にもう、マサルに目撃されてしまう生着替え、その下着はパットが赤に紐部分が黒のブラジャーなんだから! ちなみに彼女の下着はその後、上下そろいの青、上下そろいの黒、そして......と変遷していくんですが、下着以外でも縁側に山崎真実が座ってるだけで、裏モモぎりぎりラインが見えそうで見えなくてエロかったり、トマトを食いはじめた瞬間からもう口元がエロかったり、乳首の見えない入浴シーンがもどかしかったり。「獣」、それはこの女のなかにひそむセックスだったのだー!ということが明らかになる。ここまでは面白いわけですよ! ここまでは!
やがて山崎真実争奪戦が勃発し、いやがおうでも巻き込まれていく彼女はどうするのか......。と思っていたら、この女が恋愛ターミネーターみたいな動きを始めます。その反応はいちいちプログラミングされたマシーンっぽい。彼女は肥大しすぎたコミュニケーション能力に人格まで乗っ取られていて、振り回され、結局自分がどうしたいのかも分からない。さらには過去に抱える苦しみもあり、もはや自分でも自分を止めることのできない暴走プッシー超特急だったのだ! 果たして、平和な村はどうなってしまうのか!?と盛り上がってきたところで「いただきます」+守ってくれる疑似家族でいやされて、そのままセックス、The ENDです(ありがとうございます! いただきます!)。 傷ついた女性にご飯を食べさせて、「きみはそのままでいいんだよ」と言うと、いきなり鍵穴に鍵をいれてひねったかのようにセックス! そして一見落着です!(ありがとうございます! いただきます!)
柳美里や瀬戸内寂聴の本を読み直せば、彼女の、男への関係性がそんなに簡単に変わっていくとも思えない。この映画はそもそも、エンディングの鍵穴セックスシーンからこそ「獣」が始まっていくはずで、ここから津山30人殺しみたいな展開になっていくはずなのに、なぜそこで終わるのか! ゴダールは『未知との遭遇』を評して、ストーリーがこれから始まるというところで終わってしまう映画といっていたが、本作もそうではないか! この終わりまでを開始15分ですませて、そこから村に巻き起こる大騒動を見せてくれよ! そして村が全滅するごとに移動を繰り返し、ところがある日たどりついた村は全員ゲイで......。とか、それでこそ『さまよう獣』じゃないのか!
しかしその中にあって、森康子演じるキヌだけはひたすらにいいですね。森康子の声には、日本人が聞いているだけで落ち着く音、優しさと、あきらめと、それから命令が入っている。そんな、ひたすら受け入れる母性、観音のようなおばあちゃんの、しかし本作で唯一チクッとくる台詞。それが、「今日は、おこうこ、残っちゃったねえ」なんですが、それも未来の嫁姑バトルの萌芽を感じさせるじゃないの! ここから観音母性vs暴走プッシー超特急のスーパーバトルが始まれば面白いのに「そのままでいいんだよ」「いただきます」「ありがとう」でThe ENDってそれで納得できると思っているのか! これはありがとう、いただきますカルトだ!(ありがとうございます! いただきます!)弱ったときのありがとう、いただきますカルトにだまされるな! おばあちゃんのおにぎりを土足で踏みつぶせ! この主人公が救われる場所は男が誰もいない荒野、そこしかない! そこで暴走プッシー超特急というパンクバンドを組んでロシアのプッシー・ライオットと対バンする未来をこそ望む!
この記事に賛同した女性の方は合コンをしたいので顔写真添付の上メールをください。
文=ターHELL穴トミヤ
男と男と男と男と、女。起こることは、ひとつだけ――。
『さまよう獣』
2013年2月2日(土)よりロードショー!
渋谷ユーロスペース 、大阪シネ・ヌーヴォ、名古屋シネマスコーレ 引続き、京都シネマ、神戸アートビレッジセンター 他順次全国
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映画『さまよう獣』公式サイト
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