WEB SNIPER Cinema Review!!
僕たちの恋は音楽で終わり、音楽で始まった――。
デジタル化した音楽を嫌い、昔ながらの「アナログ感」のあるCD・レコードを大切にしているミュージシャンのリアムは、レコード店で「blur」のアルバムを選んでいる際に出会ったナタリーと恋に落ちる。一緒に暮らし始めた2人は多くの思い出を作るが、次第にすれ違いが生じてそれぞれの道を行くことに......。11月9日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
なにが、~ロンドンの泣き虫ギタリスト~だ、ふざけるな!と思って観始めると、これはさすがに泣いてよし! イケメンがとことん凹まされる展開に笑ってしまったわけです。英国の恋愛映画はヒネクレていていい! なにしろ、映画が始まった時点でジョシュ・ホワイトハウス(『ノーザン・ソウル』エレイン・コンスタンティン監督)演じるバンドマンの主人公と、フレイア・メーバー(『サンシャイン 歌声が響く街』デクスター・フレッチャー監督、『セザンヌと過ごした時間』ダニエル・トンプソン監督)演じる広告代理店勤務の彼女の仲は、もう破綻している。となれば、やがて回想シーンへと入り、甘い恋愛が始まり、眼前にイチャ・ラブ・ヤングなやりとりが繰り広げられても、「マァ最後には、世間の厳しさを前に、ちゃんと二人の仲は破綻してくれるのだから!」とイラつきもせず、余裕の構えでいられるじゃないですか。
二人の出会いはレコードショップのブラー・コーナーだった。ベスト盤を買おうとしている女の子に、主人公は突然話しかけ「まずあれを買え次にこれを買え、そもそもCDじゃなくてレコードのほうがずっと音が豊かで云々」とウンチクを語り出す。一昔前なら、オタクのあるあるファンタジー演出だけれども、今やポリティカルコレクトネス的にあり得ない。それ、マンスプレイニングですから!!こんなアホなカッコつけが許されてしまう映画なの!?と思っていると、そこから脚本にしてわずか5行くらいのやりとりで、完璧に女の子からカウンターを食らってしまう。その華麗なマンスプレイニング返しに、ああこれは時代の変化をキャッチできている、今の恋愛映画なのだと期待感が高まります(監督・脚本は本作が長編デビュー作となるダニエル・ギル)。
そして仲良くなった彼らが部屋で音楽を聴くときの、コンポがSONYのMD付き一体型! なんだろう、この胸かきむしられる感じ......、思春期の頃、みんなこういうMDコンポで音楽を聴いていた......。本作の思い出シーンは90年代に設定されていて、劇中にはレディオ・ヘッド、スピリチュアライズド、ザ・リバティーンズ、ステレオフォニックスなど、あの頃のUKロックがふんだんにかかる。レコ屋で出会い、MDコンポの前でS・E・X......、ウンウンこういう青春あった!(実際はなかった)と完全に架空の青春メモリーズに没入しきったところで、とつぜん画面はバシッと、フレイア・メーバーによって閉じられるダンボールの奥へと消えてしまう。映画はふたたび、破綻した二人が別居のために荷物を整理している現在に戻ってきて、この容赦ない編集がいいんですね。まさかのダンボール繋ぎに比べ、ライブの思い出から半券をそっと財布へとしまうカットへと繋がるジョシュ・ホワイトハウスの回想には、編集からも未練が漂ってくる。
別居の作業をする間にも痴話喧嘩が始まり、「私はCDなんか大嫌い、傷ついたらすぐ音飛びするし!」「人々は多国籍企業によって個性を押し付けられている、iPhoneはクソだ!」となぜか新旧テクノロジー対決にまで飛び火する。CDやレコードを愛し、「現代社会はゴミだ!」とばかりにiPhoneやネット社会を拒絶する主人公。とはいえ、家賃も払わないジョシュくんへの愛はもはやフレイアちゃんに残っていなかった。二人は別々の道を歩み始め、そこから監督によるすばらしいジョシュくんいじめが始まります。
昔はイケイケだったが、90年代は遥か遠く、今や実家に戻り、バンドも鳴かず飛ばず。元カノは、羽振りのよさそうな会社の同僚とイイ感じになっているし、なじみのタワレコは閉店しているし、それでも『ファイト・クラブ』のブラピがIKEAを爆破するかのごとく、ブレない熱意でiPhoneに代表される現代社会に中指を突きつけるロックなジョシュくん! 例えばそこに、バンドメンバーから「Tinder(出会い系アプリ)をやれ」とアドバイスが飛んできちゃうのが爆笑なわけです。本作はUKモッズ・ムービーの傑作『さらば青春の光』(フランシー・ロダム監督)で、ベスパにのって疾走するラストに匹敵するやるせなさを、iPhoneの箱を開けるシーンで再現する。レトロ十字軍の本人からしたら背神にも等しいアイデンティティ・クライシスと、裏腹な絵面の間抜けさ。やっぱりね!ラブラブ・シーンより、そういうのが観たい! 前半で突っ張っていたジョシュくんの伏線は次々と回収されていき、しかしその挫折こそがイギリス青春映画の伝統と通底しつつ、本作に説得力を与えている。
その後、主人公はなじみのロックおじさんの紹介によって、一癖ありそうな伝説の音楽プロデューサーと出会う。はたして、バンドはどうなるのか?恋はどうなるのか? そんなメインストーリーの裏で、音楽の本質とはなんなのか?それがiPhone と主人公の衝突から浮かび上がってくる。レコード、CD、データと移り変わっても、大事なのは容れ物じゃない!音楽と共に過ごす時間なのだ!と感激しながら、私はTinderをダウンロード いたしました。
文=ターHELL穴トミヤ
いつも、音楽が一緒だった。終わりも。始まりも。
ロンドン発、泣き虫ギタリストが起こす、小さな奇跡――。
『モダンライフ・イズ・ラビッシュ ~ロンドンの泣き虫ギタリスト~』
11月9日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
関連リンク
映画『モダンライフ・イズ・ラビッシュ ~ロンドンの泣き虫ギタリスト~』公式サイト
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