WEB SNIPER Cinema Review!!
第23回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 ファンタスティック・オフシアター部門
グランプリ&シネガー・アワードW受賞
軽い気持ちで障害者専門のデリヘル嬢になった沙織(小泉麻耶)は、出勤初日から衝撃を受ける。全身にタトゥーの入った進行性筋ジストロフィー患者、己の障害をネタに本番を迫る客、バイク事故の果て殻に閉じこもった少年......。彼らとの交流は、やがて沙織の中にある何かを揺さぶり始める。グランプリ&シネガー・アワードW受賞
渋谷ユーロスペースにて公開中(他全国順次公開)
ぼくはバカで明るい映画が大好きなんだ! というわけで、今日紹介するのは、『暗闇から手を伸ばせ』。これは、障害者専門のデリヘルにつとめることになった女の子の物語。デリヘル嬢をグラビアアイドルの小泉麻耶が、その店長を津田寛治が演じてるんだ。彼女と一緒に、障害者専門風俗の世界をのぞいていく67分......、これはチョット重そうだよね! 題名からして『暗闇から手をのばせ』だし、もう暗くて、キツくて、出口なしって感じがする!
でもこれがそんなに悪くない。監督はNHKでディレクターとして働く戸田幸宏。本作は自主製作で、初の長編劇場公開映画なんだけど、今年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭ではオフシアター・コンペティション部門とシネガー・アワードでグランプリも受賞した。この映画、まず画質がいいのに驚いたよ。
車内に太陽光が満ちていて、そこから主人公の女の子が降り際にカバンをつかんで降りる瞬間。シャッタースピードも速い感じで、光の中を通過していく手とカバンの美しさ! 道を歩くシーンで一瞬、陽があたってるところを通過するときの髪の輝き。その奥に映る、青空。
空のシーンはたびたび出てくるんだけど、それがもう観てるだけでそのまま気持ちいい! 話だけなら暗くなりそうなところ、登場人物が外に出るたびに画面が光で満たされる。これがこの映画の全体を支えてるんだね。最近観た、どの自主映画や、日本の商業映画よりも、きれいな住宅街だったよ。
そして、主人公の女の子が訪ねていく障害者の中に、たけし軍団のホーキング青山がいるんだ。話がうまいよホーキングは、出てきた瞬間もう顔が笑ってる。こんなんじゃ「ちんぽ立たなくなっちゃうよ!」ってギャグ、ウケたなー。ところがこいつが最悪の客で、まさかの説教プレイ。風俗を自分で頼んでおきながら、まず説教から入るっていうね。「障害者はかわいそうだと思う?」とか聞かれちゃって、そりゃ女の子も困るでしょ! 「君のほうがかわいそうじゃない? こんな仕事するの、誰も止めてくれないんだよね?」とか言ってやな客だよ! 結論はもちろん「障害者も健常者も平等だよ! ふつうだよ!」そして流れるように本番強要。ここでやっと、ははあ、この映画は風俗を通して障害者を知る映画かと思ってたら、実は障害者を通して風俗嬢を知る映画なんだ、と思い始めたんだ。これはおもしろいじゃないか! ところがそうでもなかったから、ずっともやもやが続くんだけどね。
このホーキング青山は何を話していても、そのままなだらかに本番強要につながっていくのが面白かったな。
画面が美しいこと、ホーキング青山がおもしろいこと、それ以上にこの映画に幸せをもたらしてるのは、これは主演の小泉麻耶のかわいさだよね。彼女のデリヘルプレイを観てたらふつうに勃起だよ。体をペロペロなめてくれちゃうんやで! そんな中、サービスされながら「ぼくは、脊髄を損傷してもう2度と勃起しないんだ」という、事故で下半身不随になった青年が登場する。この役を演じる森山晶之は、なんと勃起しない演技をしなきゃいけない! あんなかわいい娘に股間をすりつけられて、勃起しないなんて、よっぽどの訓練をつんでいなきゃできないよ! 思わずそのシーンではずっと森山くんのパンツを凝視しちゃったね。勃起してたと思うな。膨らんでたよあれ。いや、責めてなんかいないけどね。
この映画で印象的なのは、どんなときでも身体障害者は1人きりや、またはデリヘル嬢と2人きりだけで物事をすすめられないこと。どうしても、体を移動させるときとかにもう1人誰かの補助が必要になっちゃう。コッソリとなにかをできないっていうのは、すごくつまんないことだ。でもだからかわいそうなんて言うと、またホーキング青山に怒られちゃうんだろうな! 「かわいそうとか言ってないで、さっさと手伝って、セッティングがすんだら消えてくれよ!」って、「ちんぽ立たなくなっちゃうよ!」って。
後半、小泉麻耶がストーカー(モロ師岡)に襲われる。でもそのストーカーに「あたし、もう怖くないよ」と伝えるところで「あー、『千と千尋の神隠し』実写版じゃないの」と思ったね。ストーカーにも、相手のすべてを冷静に見渡して平等に接することができるデリヘル嬢、彼女は「カオナシ」に動じない千と一緒の存在だ! もうこれはまず間違いないと思うし、実際、本作の監督にも直接「これって『千と千尋の神隠し』ですよね?」と確認したら、「いや、『千と千尋の神隠し』観たことないんですよね」と言っていたから間違いない。
ドストエフスキーの『罪と罰』でも、娼婦は主人公を救済してくれる。これって自分がどうなっても受け入れてもらえる女性がどこかにいてほしいっていう、男性の集合的無意識なんだろうか。
でも、『千と千尋』の千だって、『罪と罰』の娼婦だって、彼女たちは地に足がついて、しっかりした内面があった。でも障害者たちの葛藤や、生い立ちが少しずつ明らかになってくる中、この映画のデリヘル嬢の内面だけが最後までよく分からない。
この主人公は、「君のほうがかわいそうだよね」とか「気持ち悪い」とか散々言われた上に、ストーカーに殺されかけまでしちゃう。相当ヒドいめにあってるんだけど、仕事への熱意はすごくて、仕事以外の頼みも引き受けるし、「障害者と健常者の間に違いなんてないよ」と、かなり優等生的なことも言っている。ずいぶん偉くて強いけど、彼女はなんでデリヘル嬢をやってて、どこで癒されているのか分からない! 1人の時間はなにが楽しみで、過去がどんなで、家族がどこなのかも分からない! 最初から最後まで男を癒して、なにもかも受け入れ続ける彼女のモチベーションが「男の人ってかわいいよ」だけじゃ、どうにもぼくは発射できなかったな。
最後、主人公は男と海辺に行く。女と男、海辺で乗り物とくれば自転車2人乗りの日活ロマンポルノ『恋人たちは濡れた』(神代辰巳監督)を思い出しちゃうけど、こちらは車イス! ぼくは『恋人たちは濡れた』の衝撃的なエンディングのほうがすきだけど、この映画の終わりもそんなに悪くない。それに音楽もよかったしね。
文=ターHELL穴トミヤ
これは、かつて祝福されて生まれて来た君と、私の物語。
『暗闇から手をのばせ』
渋谷ユーロスペースにて公開中(他全国順次公開)
【トークショー開催決定!!】
■4月5日(金)上映終了後
ゲスト:吉田大八監督(『桐島、部活やめるってよ』)
■4月8日(月)上映後 トーク
ゲスト:小泉麻耶さん、転校生(音楽)、吉田豪さん(プロインタビュアー)
関連リンク
映画『暗闇から手をのばせ』公式サイト
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