WEB SNIPER Cinema Review!!
新鋭・横川康次監督の長編映画デビュー作
教員を勤めてきたを吉田忠志(渡辺裕之)が定年退職の時を迎え、息子の智也とその婚約者・亜貴によってサプライズパーティが催された。会場に集まったのはかつての生徒や同僚たち。忠志が内心でパーティの開催自体を迷惑に思っている中、元教え子たちが忠志の教師時代にあったよからぬ噂話をし始めて......池袋シネマロサにてレイトショー公開中!!
私が渡辺裕之を初めて知ったのは、中学時代にテレビでやっていた『愛の嵐』という昼ドラだった。
エミリー・ブロンテの『嵐が丘』をモチーフにした、高木美保演じるじゃじゃ馬お嬢さんと使用人の恋愛大河物語。一途な激しさゆえに愛し合いながらも傷つけあう二人。鍛え上げられた小麦色のリポビタンDボディとバタ臭い二枚目顔を見て、幼いながらにポワーンとしたものだ。
なぜいきなりこんなことを言うのかというと、本作はその渡辺裕之あってこその映画だからだ。
物語の語り部であるヒロインは別にいるのだが、渡辺裕之なしでこの映画は成り立たない。彼の二枚目キャラとベテランならではの存在感は、空回りしがちな新人監督のシリアスドラマを奇妙な味わいのコメディに変えてしまった。
映画はまず、着物姿の女の子とその父親らしい渡辺裕之が中睦まじく美しい日本庭園を散歩しているシーンから始まる。
「おお、京都が舞台の日本情緒溢れる話か?」と思うとそうではなく、タイトルロール後、舞台は渡辺裕之演じる初老の元教師・吉田の定年退職パーティーへと移行する。。
このサプライズパーティーを企画したのは、クラブを経営している吉田の息子・智也(坂元健児)と、クラブホステスでその婚約者の亜貴(柴田かよこ)。パーティーには吉田のこれまでの教え子たちが招待されているのだが、奇妙なことに全員が仮面舞踏会のようなアイマスクをつけている。
息子の気遣いに喜んでいいはずなのになぜか浮かない顔で「このパーティーを企画したのは誰だ?」と詰め寄る吉田。顔を隠している安心感で、昔のぶっちゃけ話をしだす生徒たち。酒の勢いや集団心理も手伝って、パーティー会場は徐々に狂気じみた様相を呈していく――。
パーティーと並行して亜貴の生い立ちが回想され、実は彼女は吉田の隠し子だということが判明してくる。そう、冒頭に出てきた着物姿の女の子が亜貴だったというわけだ。
彼女は自分と母を捨てた男に復讐するために、娘であることを隠して吉田に近づく。さらに言うと、亜貴のお腹の中にはすでに智也の子供が......。
えー! それじゃ近親相姦じゃん!!と思うのだが、彼女はそんなことはものともしない。悲しき復讐の鬼と化しているのである。
じゃあ、彼女をそんな復讐の鬼にしてしまうほどの吉田の衝撃の過去とはどんなものなのか。
パーティー会場にいた教え子たちのぶっちゃけ話を聞いていくうちにそれはわかってくるのだが、これをバラしてしまうのは本作のオチを言ってしまうようなものなので、控えたいと思う。
しかし、それが判明したとき私は思わず「ええ!?」とつぶやいてしまった。
「あのさわやかリポビタン俳優がそんなことを?」という意味の「ええ!?」と、「多少ならともかく、それはちょっとやりすぎじゃないの?」という意味の「ええ!?」である。
そして渡辺裕之の衝撃的な悪事が暴かれた後も、観ている者の「ええ!?」は終わらない。
父親の真の姿を知ってショックを受け、誰もいなくなったパーティー会場(学校の教室)に力なく座り込む智也。錯乱したのか、そんな彼の前でなぜか黒板に『論語』を書きつけ、教師時代に戻って授業を始める吉田。
2人とも演技がうまくて存在感がある。映像もキレイでいわゆるインディーズ映画とは一線を画している。でも、だからこそなんとも言えないおかしみが出てきてしまう。
果たしてこれは本気なのか。それとも確信犯なのか。
特に「コントかよ!」と突っ込みたくなるほどの吉田のやつれ顔は見逃さないでほしい。個人的には、この映画で一番の見どころだと思う。
本作を観て、一つわかったことがある。
それはどんなことも、やりすぎるとギャグになるということだ。100万くすねたら責められるけど1兆円くすねれば笑いになる。黒ギャルに眉をしかめる大人も、ヤマンバギャルを見れば笑ってしまうだろう。
だから、何かするときは過剰なくらいに思い切りやったほうがいい。
本作を観終えてなんだか清々しい気持ちになったのは、きっとそういうことだと思う。
文=遠藤遊佐
主演の渡辺裕之が魅せる、サスペンスフルな人間ドラマ――
『紅破れ』
池袋シネマロサにてレイトショー公開中!!
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映画『紅破れ』公式サイト
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