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(C)2015 A&E Television Networks, LLC

WEB SNIPER Cinema Review!!
2016年アカデミー「長編ドキュメンタリー部門」ノミネート
メキシコ・ミチョアカン州。麻薬カルテル「テンプル騎士団」による抗争や犯罪が横行するこの地では、一般市民を巻き込んだ殺戮が繰り返されていた。そんな過酷な状況に抗すべく、町の医師ホセ・ミレレスはついに銃を手に取り、市民たちと自警団を結成する。一方、アメリカ・アリゾナ州のコカイン通りとして知られるアルター・バレーでは、アメリカの退役軍人のティム・"ネイラー"・フォーリーが、「アリゾナ国境自警団」と呼ばれる小さな準軍事的グループを結成。2つの組織は勢力を拡大していくが......。メキシコ麻薬戦争の真実に迫るドキュメンタリー。

シアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開中!
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正義のはずが悪になっている。組織も、自分も、いつの間にか善だったはずが悪になっている。メキシコのミチョアカン州で麻薬カルテルと戦う自警団を追ったドキュメンタリー。「俺が誰だかわかっているのか!」とある自警団員はいい、泣き叫ぶ子供から父親を引き離し、「お前はカルテルの一員だろう!」と脅しながら、自分たちで作った取り調べ倉庫のような場所に連れて行く。そこでは拷問されている人々の泣き声が響いている。ドキュメンタリーだから、そこでは本当に人々が拷問されている!
山中で麻薬を密造する一団が出てくる。薬品をトラックで運び、顔をフードで隠したまま調合する。周囲をでかい銃を持った人間が警戒している。「良心の声に耳をかたむけたら全部台無しになる」と言うので、悪いことをしている自覚があるんだと驚く。「俺たちは貧しい。金さえできれば、普通に仕事をしたり、世界中を旅したりできる。あんたのように」と言う。

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プロデューサーはイラク戦争を描いた『ハート・ロッカー』や、オサマ・ビンラディン暗殺作戦を描いた『ゼロ・ダーク・サーティ』の監督キャスリン・ビグロー。監督は、マシュー・ハイネマン。
映画は、赤子も含め一族を皆殺しにされた人々の葬式から始まる。10代の少年も、6歳の子供も、赤子も殺された。夫を眼の前で生きたまま焼き殺されたという妻が出てくる。夫のあとに4人が手や足や首をバラバラにされて殺され、「お前は見たことをずっと忘れないのが拷問だ」といって、解放されたという。ミチヨアカン州は麻薬カルテルに支配され、彼らの要求を拒んだり、または拒んだ人間の関係者であるだけで殺される。警察は捜査せず、政府も気にかけない。
やがて一人の男が立ち上がる。彼は「このまま待つのか、銃をとって戦うのか、あなたならどうする」と問いかける。彼の演説は感動的ですばらしい。町から町へ移動し、路上で市民に立ち向かうことを呼びかける。その姿を見ていると、人類は太古の昔からこうやって、世界を新しくしてきたのだという気がする。彼らは勢力を増し、町を一つづつ捜索し、カルテルから解放していく。軍に水を差されても、教会の鐘を打ちならし、住民たちに呼びかけて追い返してしまう。そんな自警団がついに、警察が放置する最悪のマフィア・メンバーを追い詰めるシーンでは、カメラのまわりを銃弾が飛び交う。戦慄、恐怖、興奮!そしてついに正義が実現する! しかし、この自警団がなぜマフィア化していくのか。

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自警団のひとりが、「車に乗れと言って、ごちゃごちゃ言うやつには、スタンガンで動けなくして乗せるんだ」と言う。自警団が落ちた罠は、楽をすること、手続きへの軽視だろうか。人類が発明した「法治国家」という方法は、警察も軍隊も、政府も全員が法律という手続きに従って行動するというものだった。それはしばしば官僚主義に陥るけれど、軽視すると暴虐者を生む。それでも人はものごとをサッサと済ませたくなるのが自然だし、そしてやっぱり失敗する。
山中で悪を自覚しながら麻薬を合成していた人間たちが陥っている罠は、金さえあれば問題が解決すると思っていることだろうか。彼が「金さえあれば」すべてがよくなっていくと信じているのは、彼が「自分に金がない」ということ以外何もわかっていないからではないのか。「金さえあれば」と別の問題をすり替え続けて、納得する。それが彼の落ちている罠、どうだろうか。
このドキュメンタリーには、アメリカ国境側の自警団というのも出てくる。「国家が侵食されるのを防がなければ!」と言って、暗視スコープをかぶり、軍服に国旗と自分の名前を縫い付けて、でかい銃で自主的にパトロールする。ちょっと激しく運動するとぜいぜい息があがり、「逃げられた!これで3回目だ」とか言っている彼らは、ごっこ遊びをしているように見える。父親に虐待されていたが、それを意志の力で克服したという、主催者の身の上話は感動的だ。しかし彼は、抽象的な悪を不法移民に仮託して戦っていないだろうか。孤軍奮闘する彼の元にやがて「愛国者」を名乗る仲間たちが集まってくる。みな不法移民と戦うために協力を申し出るのだが、不法という悪の周りはそれぞれの持つ抽象的な悪(たとえば人種が違うという悪)がまとわりついている。彼らは、バラバラの悪の概念を持ち寄って、存在しない敵を相手に戦うドンキホーテのように見えてくる。
 それともこれはもっと単純に、理想や高邁さが「一発ヤりたい」とか「弱い奴いじめるの楽しい」という生々しい欲求の前で崩れていくという話なのか。

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などと分析してみたくなるのは、そうしないと、苦しくなるほどの不条理がこの映画のなかに充満しているからだ。まるで分析すればこの悪が霧散するかのような気持ちでいるが、実際は観たことを忘れるためのおまじないにすぎない。パンフレットの山本昭代さんの解説を読むと、そもそもこの自警団自体が、敵対するカルテルから援助を受けており、その裏で糸を引いていたのは、コロンビアから来た政府の軍事顧問だったという説があるらしい。カルテル(とその傀儡)同士を戦わせて消耗させる作戦で、自警団は最初から使い捨てにするつもりだったのだ。そこにはより大きな罠がある。また、中南米のドラッグマフィアがそもそもCIAの「資金源」だという陰謀説もある(こないだそんなストーリーの映画が公開されたばかりだ)。
合わせ鏡のように、いくつものストーリーがあって、結局何もわからなくなっていく。ところが吊るされた身体や、射殺体、生首といった人間の死や、そこに付随する悲しみ怒り悲鳴は本物だ。それはどこから生まれてくるのか。この映画で地に足をつけているのは、ほとんど映らない、マフィアと、政治家だけに見える。それはなぜなのか。答えはCIAの機密キャビネットの中にあるのか、人類学者の論文の先にあるのか、しかしこのドキュメンタリーの中には疑問だけがある。それは本作が最も現場に近い場所から、メキシコをあおぎみているから。ミチョアカンの人々に見えている世界を、映しているからなのだ。そこには疑問だけしかなかった。

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文=ターHELL穴トミヤ

『ハート・ロッカー』の監督キャスリン・ヒグロー制作総指揮、
"命がけ"でメキシコ麻薬戦争の真実に迫る、最も危険なドキュメンタリー!


『カルテル・ランド』
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(C)2015 A&E Television Networks, LLC
原題=『CARTEL LAND』
監督・撮影=マシュー・ハイネマン
製作総指揮= キャスリン・ビグロー
配給=トランスフォーマー

2015年│メキシコ・アメリカ│100分

関連リンク

映画『カルテル・ランド』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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