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(C) 2015 LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 2 CINEMA - WILD BUNCH - RHONE ALPES CINEMA - PICTANOVO

WEB SNIPER Cinema Review!!
第68回カンヌ国際映画祭オープニング作品
親の愛を知らず、心に傷を負った少年マロニー。彼のために心を砕く一人の判事フローランスとの出会いが、彼の運命を変えていく――。カトリーヌ・ドヌーヴ待望の主演作となる感動のヒューマンドラマ。

8月6日よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
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カトリーヌ・ドヌーヴ演ずる少年担当判事と、非行少年マロニー(ロッド・パラド)の10年にわたる付き合いを描いた作品。監督はエマニュエル・ベルコ。少年の更生ものなのだが、もうチラシを見ただけで「どうせ更生するんでしょ?」と思ってしまう気持ちを、2時間ずっと成長しない非行少年マロニーがガッカリさせっぱなしにしてくれるのが新しい。彼の目つきのキツさ、よくニューウェーブの歌手が目尻にシャドウを入れていたりしたが、マロニー役のロッド・バラドは素のままでそのメイクが入っているように見える。
そして、彼がグレてしまったのはなるほどこの母親のせいなんだなと見た瞬間に伝わってくる、ヒステリックなヤク中マザーを、ジャック・ドワイヨン監督の『ラブバトル』で壮絶な取っ組み合いセックスを演じていたサラ・フォレスティエが熱演している。

(C) 2015 LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 2 CINEMA - WILD BUNCH - RHONE ALPES CINEMA - PICTANOVO

主人公はその後、悪事を働くたびにドヌーヴの部屋に連れてこられる。校長室のような部屋で簡易裁判のようなものが開かれ、母親は泣きわめき、弁護士は「多感な少年にどうか寛大な処置を!」と繰り出し、検事が「甘やかすのはかえってよくない、刑務所へ!」とやり返して、指導員は渋い顔をして横に座っている、そんな光景がくりかえされる。各人の話をひと通り聞いたあと、判事ドヌーヴは判決を下す。少年は路上で暴行したり、車を盗んだりしている割には、かなり寛大な処置を受けているのだが、全然更生しない。ちょっとでもメンタルに負荷がかかった状態になると、絶叫するか、泣き出すか、暴れ出すか、頭を抱えて激しく震えだす。そんな主人公の行動を見ていると「これアメリカなら処方薬コースなのでは......」と思うのだが、化学治療ではなくあくまで教育で立ち直らせようとして行くのが、フランスのフランスたる所以なのだろうか。
彼はやがて矯正施設におくられて共同生活をすることになる。そこにはちょっかいを出さずにはいられない少年たちと、ちょっかいを出されたら殴りかからずにはいられない少年たちが集まっていた。となれば当然喧嘩が続発するが、女教師(エリザベート・マゼヴ)も慣れたもので、そのたびに男のスタッフを呼んでいる。矯正施設で読み書きを教える教師の粘り強さは強靭で、癇癪を起こし机の上をなぎ払って庭に逃げ出した主人公を「マローン、マローン、マーローンー」とあくまで穏やかに追い続け、また机へと誘導していく。周囲には高原っぽい風景が広がりのどかな場所なのだが、ここがダメなら次に待っているのは刑務所だ。
この矯正施設で、黒人の入居者がiPhoneを聴いていない時、イヤホンを耳の上にひっかけて運んでいたのが印象的だった。あれは吸う前のタバコを耳の上に置いておくスタイルが、イヤホンに進化したものだろうか。さすが札付きの不良の手にかかれば、軟弱なITガジェットも一転ワイルドな雰囲気を演出するアイテムになるのだなと、早速真似したくなった。

映画が進むうち、手に負えない主人公の奥には、母親への愛の渇望があることが浮かび上がってくる。そんな彼がたまに許される電話、そこでも、サラ・フォレスティエは「弟には(あなたと違って)ちゃんと育って欲しいのよ」とか、「男ができたから、(あなたには)電話してこないでほしいの」とかひどいことばっか言っている。彼は愛の得られぬ辛さに苛立つが、やがて一人の女の子(ディアーヌ・ルーセル)と出会い、はたしてと映画は進んでいく。
主人公が何度目かのチャンスを台無しにしてしまった、その夜にクラブに行くシーンがいい。そこでダイ・アントワードがかかっているのだ。終始、ドヌーヴの菩薩テンポで進む本作にあって、久々のヤングカルチャー。早めのテンポとRAVEシンセにのって踊り狂う主人公に、やっと自分の居場所を見つけたみたいだ!きっと激しい音楽が彼を浄化するに違いない!と心躍ったのだが、そのあと車盗んでたしやっぱり全然ダメだったな。

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そんなマロニーの普段の面倒をみる指導員(ブノワ・マジメル)も、どうやらドヌーヴによって立ち直らされた元・非行少年だったような気配がある。しかしあまりに更生しないマロニーを前に、あるときついに「もう俺には無理だ。更生させることはできない」と泣き出してしまう。そんな彼を「大丈夫よ、できるわよ」と励ますドヌーヴ。そのとき、その腕にそっとドヌーヴの手が触れているではないか! その後、主人公にも「最も辛い時は、手を繋ぐのよ」とシェイクハンドをかますシーンがあり、本作はドヌーヴ菩薩が男たちに触れむせび泣かせる、母性爆発映画になっているのである。
もし触れられたならば、太陽のぬくもりのように熱いであろうドヌーヴ菩薩の体温。しかし、くりかえされる非行少年の絶叫と、母性のサンドイッチ攻撃には、ぐったりしてくるのも正直なところ......。そしてエンディングで再びダイ・アントワードの楽曲が流れたとき、この吹き突きつけるようなビートこそは、本作の北風だったと気付いたのだった。北風ビートで心のコートを脱げなければ、最後には腕タッチ菩薩で心のコートを脱ぐしかない。果たしてどちらが幸せなのか、本作をみてじっくり考えてみてほしい。

文=ターHELL穴トミヤ

愛とは手を差しのべ続けること――
女性判事と指導員によって、心に傷を抱えた少年が愛と出会うまでの物語


『太陽のめざめ』
8月6日よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開!

(C) 2015 LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 2 CINEMA - WILD BUNCH - RHONE ALPES CINEMA - PICTANOVO

原題=LA TETE HAUTE/STANDING TALL
監督=エマニュエル・ベルコ
出演=カトリーヌ・ドヌーブ、ロッド・パラド、ブノワ・マジメル、サラ・フォレスティエ、ディアーヌ・ルーセル

配給=アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル

フランス│2015年│119分

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映画『太陽のめざめ』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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