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WEB SNIPER Cinema Review!!
台湾アカデミー賞「金馬奨」最優秀ドキュメンタリー作品ノミネート
敗戦により台湾を離れて日本に引き揚げてきた、日本統治下の台湾で生まれた日本人=「湾生」たち。戦後70年、彼らが抱く望郷の念とは――。

岩波ホールにて絶賛公開中
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生まれてから物心着くまでの記憶っていうのは、この映画を観ると本当にでかいようだ。出てくるのは、太平洋戦争中、日本領だった台湾で育ち、または生まれ、敗戦とともに日本に帰国してきた日本人たち。彼らが台湾で過ごしていたのは、人生のごく最初の一部にすぎないんだけど、誰もが自分のいるべき場所を日本以外のどこかに感じつつ、暮らして来たような話をする。そんな、彼らのことを「湾生」と呼ぶらしい。

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登場する人たちが台湾に渡った理由はそれぞれ違って、ある人は、父親が失恋して家出してやがて流れ着いたのが台湾だったという。そこで結婚して、彼が生まれたのだ。ある人は父親が台湾総統府に勤める役人だった。ある人は、地元の川がいつも氾濫するから、両親と一緒に集団疎開で台湾に移っていった。
眼鏡の男性が出てきて、子供の頃、台湾で水牛に乗った話をする。水牛に乗っかって歩いて行くと、向かいから野良水牛がやってきて、喧嘩になる。負け知らずの自分の牛がある日、ついに負けてしまったのが悔しかったとか、なんとなく水木しげるのようなのんびり感が漂う話だ。日本に帰国してからは、どこの小学校にいっても通信簿に「ぼーっとしている」「のんびりしすぎ」と、書かれたらしい。「それも、台湾の影響があるやろねぇ」とか言っていて、のんびりforever~と思う。

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一方で台湾に残った人もいる。現地で台湾家族に養子に出され、台湾人と結婚し、今ではひ孫がいる人。寝たきりで、しゃべれなくなっているんだけど、自分を養子に出した母親の話をすると今でも泣き出してしまう。彼女には気がかりがあった、なんで母親は自分を養子に出したのか、自分は愛されていなかったのか。
娘や孫たちが彼女に代わって、祖母の足跡を訪ねて日本に向かう。暮らしていた場所を探したり、墓を探したり、このとき、娘のおばさんが面白いんだよな。明るくて、菩薩をすごい勢いで拝んでて、冗談を言っては、家族で爆笑している。墓を前にすれば、墓に向かってどんどん話しかける。墓石に人格を見出すというような、当然そこに死者がいるかのような、話し方をする。それで帰ってからは、母親に「おばあちゃんに会ってきたよ」と言う。あれはなつかしい感じもして、いい感じもする。俺の親戚にもこういうおばさんがいました。
台湾から帰ってきて、闇米販売からヤクザを経て、代用教員になったとかいう人もすごい。日本語の発音が変だと言われて、源氏物語を暗唱したという。すぐに感極まって泣いてしまう人で、女好き。日本にもどってからは、村で最初に鉄筋の家を建てた、というエピソードに、彼の意地や寂しさが見える。家族の写真を紐解けば、当然のように戦死という過去が出てくる。

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そしてみんな戸籍っていうのを気にするっていうか、こだわるっていうか、探すんだよなあ。台湾の人たちは日本に、おばあさんの戸籍があるのを見つけて喜んで、日本の人たちは台湾に、自分が生まれた時の戸籍を見つけて喜ぶ。この気持ちってなんだろうか。
子供の頃に自分を取り囲んでいた景色のニュアンスや、空気の匂いや、周りに暮らす人々の雰囲気は、自分の中にたしかに残っている。ある人は「今でも台湾で、川や空を眺めると涙が出ますよ」という。それは身体中に染み込んでいて、でも確固たるモノとして取り出すことはできない。それは記憶や、気質なんかと呼ばれる。
戸籍は自分が生まれた時に作成される物理的なものだ。そこには時間も宿っている。誕生(届け)と同時に作成されたあと、人と同じ時間を過ごしながら、ずっと役場の奥底に保管されている。戸籍っていうのはいわば、モノになった分身、双子の兄弟だろうか。自分の記憶や気質というあやふやなものを、確固たるモノにして裏付けてくれる、証拠みたいなもの。だから実際目の前にして見ると、感動があるのだろうか。

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台湾人も出てくる。日本に住んでいる湾生の人が、自分の故郷を訪ねて行く。当時の話をすると、日本人と台湾人では見ていた風景が、微妙に違っていたことがわかる。いい面も悪い面もあったと語り出す台湾のおっさんは、悪い面については、あまり語らない。というか急に主語が大きくなって(主語は「あの戦争」)、ああ気を使ってくれているなというのが伝わってくる。
台湾に渡った理由はそれぞれ違うけれど、大元は全部一緒で、戦争だ。その戦争は70年前に終わり、今では自分の物語を取り戻そうとする人たちが、双方の地を行き来している。そんな現在が嬉しい。台湾行きたい。LCCで今すぐ、台湾行きたい!!九份で小籠包食べたいです!!!!

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文=ターHELL穴トミヤ

わが故郷、わが台湾――
敗戦後、この日本に戻っても、いつも心は台湾にあった......


『湾生回家』
岩波ホールにて絶賛公開中

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原題=『湾生回家(Wansei Back Home)』
監督=ホァン・ミンチェン(黄銘正)
出演= 富永勝、家倉多恵子、清水一也、松本洽盛、竹中信子、片山清子 他
配給=太秦

2015年│台湾│DCP│ドキュメンタリー│111分

関連リンク

映画『湾生回家』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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