WEB SNIPER Cinema Review!!
実際に起こった〈ユーバーリンゲン空中衝突事故〉を映像化
建設現場の現場監督として働くローマン(アーノルド・シュワルツェネッガー)は妻と娘が帰宅するのを心待ちにしていた。しかし彼女たちが乗った飛行機AX112便は誰一人として空港へ運んでこなかった。なぜなら空中で2機の飛行機が激突する事故が起きたからだ。鳴り響く警告音、重なったミス、口を閉ざす航空管制会社。ローマンは真相を追及せずにはいられなかった――。9月16日(土)より、シネマート新宿ほか全国順次公開
航空会社との面談に臨むシュワちゃんの、正装しているんだけど、安物なんだろうなと一目で分かる、ダサいネクタイがいい。組み合わせ自由!2本で$19.99みたいなやつよりは奮発したんだろうけど、でも近所で買ったんだろうなという感じのダサいネクタイ。鎮魂碑の集まりでも、シュワちゃんはダサいネクタイをしている。そして演説が終わってみんなが拍手するとき、ひときわ生真面目に、力を込めて拍手しているシュワちゃんがいい。本作のシュワルツェネッガーを見ていると、その弱さに肩入れしていきたくなる。シュワちゃんを無言で抱きしめてあげたくなるその弱さは、力の弱さじゃなくて、世知の弱さなのだ。『ハドソン川の奇跡』(クリント・イーストウッド監督)とも、『フライト』(ロバート・ゼメキス監督)とも違う、しかし実話を基にした航空機事故映画である本作には、奇跡もなく、ヒーローもいない。ただ普通の人間ばかりが登場して、大きな喪失を前に苦悶する。
本作のシュワルツェネッガーは現場監督をしている。彼は妻と一緒に戻ってくる娘を出迎えに、いつもより早く仕事を上がり空港に向かう。ところが到着するはずの便がdelayになっている。受付に向かうと、彼はなぜかビルの奥へと案内され、その便が他の航空機と空中衝突した、という衝撃的な事実を知らされる。
事故のあと、シュワちゃんは心を閉ざす。それは、「遺族ではない」と偽って、機体墜落現場に向かい、遺品や遺体回収のボランティアをするところから始まる。全てが終わってからも、シュワちゃんは遺族の中で一人だけ、航空会社からの賠償金の支払いを拒み続ける。社会が用意したシステムを信用せず、自分だけで解決すべしと思う。それは組織からはみ出た一匹オオカミのヒーロー、解決法を一人だけ知っている自信満々な男、不屈の精神を持って諦めない最強のパパ、シュワちゃんがいままで演じて来た役に通じる行動様式だ。
全ところが彼は家にこもりきりになってしまう。心配して訪ねてきた同僚が「大丈夫か?」と声をかけると、「大丈夫じゃない......」と返す、フラミンゴ柄セーターのシュワちゃん。自身がプロデューサーを務め、父親役として出演したゾンビ映画『マギー/MAGGIE』(ヘンリー・ホブソン監督)に続く、「事態を解決できない男」としての新生シュワちゃんがそこにいる。他人といても、一人でいても落ち着けない。彼は妻と娘がいる場所を見つけるまで自分のミッションは終わらないと考えていて、ところがそれはもうこの世のどこにも存在しないのだ。心を閉ざし、いつまでも社会との繋がりを取り戻せないシュワちゃんを見ていると、大規模災害で生き残った人や、家族を失った人がしばしば陥る、魂を死者の側へと引き寄せられていく感覚(いわゆるサバイバーズ・ギルト)が、わかるような気がする。
本作がユニークなのは、その事故を引き起こした張本人である管制官が、もう一人の主人公として登場してくるところだ。演じるのはスクート・マクネイリー(『FRANK-フランク-』『ゴーン・ガール』)。彼が管制室で一人になった時、いつもとは少しだけ違う状況がさりげなく積み重なっていく、その事故の罠感がすごい。彼は酒も飲んでいないし、居眠りしていたわけでもない。ところが静かな部屋の中で何となく事態は進み、怒鳴り声も、爆発も、けたたましいサイレンもなく、ただ控えめなブザー音がなって、すっと取り返しのつかないことが起こってしまう。
彼は世間から事故の当事者として責められる。また自身もその結果の重大さに耐えられず、抜け殻のようになっていく。シュワちゃんとマクネイリーが交互に登場しながら描かれていくのは、不条理を消化するために社会が用意するベルトコンベヤーと、そこで掬い取れない個人の苦しみだ。シュワちゃんはそれを拒否して閉じこもり、マクネイリーはそれに乗って運ばれていく。解決できない男シュワちゃんが、その先でなんとか掴もうとした「解決」、その結果はどうなるのか。
さて、新生シュワちゃんの演技はどうなのかというところだが、呆然と過ごしている時、近所の手伝いみたいな仕事として、塀を作っているシーン。相当適当に1回づつ下から上に3箇所叩いてるだけだったけど、それで板付くの!?それでいいの!?もしやシュワちゃんDIYしたことないの?!疑惑が一瞬湧き上がった。なにか朴訥としたシュワちゃん。衣装のチョイス始め、そんな彼を活かす、本作エリオット・レスター監督の演出こそが光っていたといえるかもしれない。登場人物の誰もが、車を降りるときに鍵をかけないのも気になったが、それはジェイソン・ステイサムのバディもの(『ブリッツ』)などを撮ってきた、レスター監督のアクションマナーなのだろうか......。
観ていて辛い話ではあるが、それほど重苦しくならなかったのは、舞台となるオハイオ州コロンバスの寒そうな景色に、頭が冴えざえとするからに違いない。「今年も、ビーチでギャルとのエッチなハプニング起きなかったな......」。例えばあなたがこの夏に盛大な未練を持っているなら(これを読んでいる全員がそうだと私は信じている)、冷房がうんと効いた映画館で凍えながら本作を観て、シュワちゃんと一緒に悲しみの秋へと一人歩き出してみてはいかがだろうか。
文=ターHELL穴トミヤ
シュワルツェネッガーが追い詰める! 飛行機衝突事故の衝撃の結末とは。
『アフターマス』
9月16日(土)より、シネマート新宿ほか全国順次公開
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映画『アフターマス』公式サイト
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