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「ロック史上もっとも見事な変質者」GGアリンと遺された家族
「ジーザス・クライスト・アリン」というイエス・キリストと同名の出生名で誕生、その後究極の破滅型ヴォーカリストとしてその名を全世界に轟かせたGGアリン。本作はGGのバンド、THE MURDER JUNKIESのメンバーでもあった兄のマール・アリンが、93年にこの世を去ったGGの遺志を受け継いで活動にいそしんでいる様子と、そんな子供らを支える母親アリータの強い生き様を描いたドキュメンタリー。シアター・イメージフォーラムにて公開中!
The Whoのピート・タウンゼントは、ある日感情がたかぶり演奏の最後にギターを振り下ろし破壊した。それを見た観客たちは熱狂的に盛り上がり、以後「ギター破壊」はピート・タウンゼントのトレードマークとなった。それから幾年月、彼は老人になった今でもギターを破壊している。だが、もしThe Whoがその歴史的な瞬間、ギターを振り下ろす代わりに、ドラムスティックを肛門に挿入していたとしたら......? 想像したくもない仮定だが、恐るべきことにこの肛門版The Whoは実在する。それが本作に登場するThe Murder Junkiesだ。
ワセリンを塗りつけたスティックを、観客の中から選ばれたうら若きパンクス乙女に手渡し、「数インチだぞ、優しくしてくれ」と告げる全裸の男。その頭は白髪(とそれを染めた髪)に覆われている。彼はいったいどれだけの年月、肛門にドラムスティックを突っ込み続けてきたのか......。それは何かの刑罰なのか......。何代目かのボーカル青年はこう語る、「このバンドでツアーするのはタフだ。普通とは違うからな」。たしかにタフ......。しかしThe Murder Junkies初代ボーカルのタフさは、こんなものではなかった。今では墓の下に眠っている、GGアリンのトーレドマークは流血、脱糞。この男こそは、神がもたらした史上最悪のスカトロ・ハードコア・ロッカーだったのだ。
GGアリンの父親は狂っていた。DVを繰り返し、お金を浪費し、なにより息子に本名としてジーザス・クライストという名前をつけた。ある日、庭に穴を掘り「お前と息子たちを埋めるんだ」と言い出した夫を前にして、母親は二人の息子を連れ逃げ出すことを決意する。それ以来、二度と子供たちが父親に会うことはなかった。逃げだした母親は裁判所に申請し、息子の名前をジーザス・クライストからケヴィンへと変更した。
やがて子供たちは、NYドールズやラモーンズに出会う。兄弟ともにバンドを始め、特にケヴィンにはカリスマ性があった。彼のライブは年代ごとに過激さを増し、それはショーというよりカオスになっていった。マイクを自分に叩きつけ血だらけになるのはもちろん、ライブ前に下剤を飲んで脱糞し、それを全身に塗りたくり、それをつかんで客席に投げつけ、客に殴りかかり、殴り返され、乱闘になる。自殺を宣言し、やっぱり延期し、「早く死ね!」とヤジを飛ばした女を壇上に呼んで殴り、麻薬をやり、逮捕され、全裸のままライブハウスから飛び出し、叫びながら街をのし歩く。その悪名は世界中に轟き、私も高校生のころ先輩から「世界一短いハードコアはナパームデスの1.3秒しかない曲」だとか、「北欧には教会に放火したブラック・メタバンドがいる」だとか、そんな世界びっくりロック伝説のひとつとして、「毎回ステージで全裸になりウンコを投げるパンクバンドがいる」という話を聞かされた。しかもライブビデオを見た先輩によると、GGアリンのチンポは小さいのだという。「小さくても気にせずチンポを出してしまうんだ......」という衝撃は世界中の思春期の脳内シナプスを刺激し、ロック理解の一助となったはずだ。
しかし本作で監督のサミ・サイフが追うのはGGアリン亡きあとの、兄や母の現在の姿。兄は自宅をGGアリン・ミュージアムにしており、弟の遺品やグッズを売っている。ドラムのメンバーに「お前もスティックを売れよ、サインを入れれば俺が売ってやる」ともちかけ、自身がツアー中身につけているスニーカーから衣装まで、その一式もツアー終了とともに売っている。さながらロックスター版ブルセラだ。
GGアリンの母親は、クッキーやりんごをくれる大家さんみたいな見た目をしている。監督は、狂った男の母親が、あまりに普通であることに驚いたという。そんな母親を車に乗せ「新曲だ、聴いてくれ」とCDを流し始める兄。「人生はハード 俺の股間もハード 金曜日には彼女のプッシーを舐めまくる」みたいな歌詞が流れ始め、「どうだ、いいだろう」と悦に入る兄の横で、年老いた母親は呆れている。本作に漂う安心感というのは、『ボウリング・フォー・コロンバイン』(マイケル・ムーア監督)でマリリン・マンソンが一番知的で冷静なコメントをしていたのを観たような驚きに近い。それは一見ネガティヴな表現が、やはり知性や愛情の中から生まれているのだという安堵感なのだ。
GGアリンはなぜ、母親がつけたケヴィンではなく、父親のつけたGG(ジーザス・クライストをまだ幼かった兄がうまく言えずこう発音していた)を名乗っていたのか。GGアリンはなぜ、人間は憎しみや恐怖を知るべきだと歌ったのか。母親と一緒に逃げ出して以降、アリン一家に父親はいない。そして36歳で急逝したGGアリンは、過去映像としてしか本作に出てこない。しかしこの二つの不在によって、そこにある、暗黒の絆が浮かんでくる。GGアリンは、呪われていたのではなく、優しさ故に、悪魔である父親すら家族として手放さなかったのではないか。人は父親もチンコの大きさも、選べずに生まれてくる。だが彼はそのすべてを消し去ることなく晒し続けた、それを可能にする力こそが芸術の魔法なのだ。
文=ターHELL穴トミヤ
夭逝したロック史上最大の破壊者、GGアリン。遺された家族の、信頼と絆の物語。
『ジ・アリンズ / 愛すべき最高の家族』
シアター・イメージフォーラムにて公開中!
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