WEB SNIPER Cinema Review!!
2009年『アンチクライスト』、2011年『メランコリア』に続くトリアー「鬱三部作」の最終作
冬の夕暮れ、年配の独身男セリグマンは裏路地で倒れていた女ジョーを見つける。自宅に連れ帰って彼女を介抱した彼は、ジョーが語る色情にまみれた数奇な半生の物語を聞く――。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『メランコリア』などの鬼才、ラース・フォン・トリアーがセックスをテーマにして描いたニ部作のドラマ。「第一巻」では若いジョーをステイシー・マーティンが、「第二巻」では後半生をシャルロット・ゲンズブールが演じる。全国順次公開中
もはや世界を代表するウツ監督となった、ラース・フォン・トリアー。『アンチクライスト』では、僕がウツだったから皆さんもウツになってくださいとばかりにウツ気分の布教につとめ、『メランコリア』では、ウツはつらいですよね?つらいですよね?と前半ウツのつらさアトラクションで散々苦しめたあと、最低で壮大な解放を用意してウツのつらさから逃げたい観客を共犯関係にし、そして今回『ニンフォマニアック Vol.1』はなんですかこれは。ウツとかウケるよねという、余裕のでてきたラース・フォン・トリアーによるギャグ劇場みたいな感じになっている。
話は、道に倒れている女(シャルロット・ゲンズブール)を、老いた一人の男(ステラン・スカルスガルド)が自宅に招き入れるところから始まる。女は今までの自分の一代セックス放浪記を語りだし、男はその聞き手に回る。幼少期からはじまり、なぜ道に打ち棄てられた現在にまでいたったのか。女が経験を語り、都度、男が解釈する。この解釈がアホで、なんというかメタルの世界観なのだ。
たとえばゲンズブールが処女を捨てるため、男に頼みにいくエピソードがある。彼女は、そこですごい適当にヤられてしまう。マンコで3回。アナルで5回。スクリーンに「3」「+」「5」と大書きされ、それを聞いた男が解釈する、「フィボナッチ定数だ!」このアホさ。やがて若きゲンズブールが入会する愛を否定するカルト集団、その集会で彼女たちが弾くピアノの和音。それを聞いた男が叫ぶ「B+F......、悪魔の和音だ!」。この妙な学識。これぞメタルの世界観ではないか! それは冒頭から宣言されていて、映画は暗闇の中、水の音や金属の音だけが響く、空間をフルに使ったすばらしい音響シーンから始まる。そしてなにやら重厚な長まわしを経て、すべてを台無しにする、アホそうなメタルへとつながっていくのだ。メタルで台無し! 『ニンフォマニアック Vol.1 / Vol.2』はそういう映画である。
性器の快感だけに注目すると、それは人を物質化することになる。この映画には物質化されたセックスがたくさんあって、それがおもしろい。思春期の主人公の性の目覚めは、股間をすりつけられて揺れる、ヒモの先っぽで示される。愛する男に去られたあとは、電車に乗って乗客を眺め、元の男に似ている部分だけを目で採取していく。そしてそのパーツを使って、頭の中に元カレを再構築し、オナニーをするのだ。そのときの、人型にむけ摂取されたパーツが並べられていく、説明図のアホさ。興奮する部位に注目する時の、ズーム。とんでもないとこにズームするだけで、ゲンズブールの注目がギャグになる。
若きゲンズブールは、友だちと組んで列車で何人の男とヤれるかを競ったり、すべての男と一回しか寝ない誓いを立てたりする。一方で樹が好きな父親との会話はなかなかにいい。冬の樹は、葉を持たないからこそ純粋に樹の魂を表わしているといえる......。それは彼女の虚飾ない生き方に反映されているのだろうか。
妻子ある男と別れ損ねた時の修羅場は見物で、嫉妬に狂ったユナ・サーマンが彼女の家に押し掛けてくる。家に上がり込み、「このベッドをおぼえておきなさい!ここで全て始まったのね、ここでね」と戦争資料館を紹介する学芸員よろしく、子どもたちを連れ回す。そこに次に約束していた別の愛人、善良さだけが取り柄の、つまりバカそうな青年まで加わり、映画はドタバタへとなだれこむ。このあいだのうわーやべーと無表情になりつつ、すべてを観察している若きセルジュ役、ステイシー・マーティンの顔がいい。彼女は何を考えていたのか? 修羅場すら若さの前では、ポジティブなものに見える。若いころのセックス・トラブルは笑い話になる余地を抱えているのだ。
Vol.1のコミカルさに比べ、Vol.2では不愉快なラース・フォン・トリアーの本領が発揮される。結婚し、歳を重ねてからのセックス中毒は痛々しい。黒人と3Pをし、秘密のSMクラブに通い(この映画にはアジア人はまったく出て来ない。この責め師はアジア人にしてみてほしかった)、セックスを武器とするナゾの犯罪集団にも加わる。恋人愛、親子愛、宗教心。すべてが破壊されていき、そして忘れた頃にあの「3+5」がまた登場するとは。「3+5」で、ここまで人を不愉快にできるとは。Vol.2ではこのアホな設定がまさに彼女の特別性、生の一回性を否定する為に使われるのだ。そして4時間もかけて『ニンフォマニアック Vol.1 / vol.2』をみたあげく、オチのひとことはそれかよという。まったくもって、トリアーさん今回も不快な気分にさせてくれてありがとう、という作品になっているのである。
本作、観に行く前にオナニーしてから行くべきか、しないで行くべきか。俺はVol.1は抜かずに、vol.2は抜いてから観に行くことをお勧めする! 1度に2つ続けて観るという人は合間に、映画館のトイレでオナニーすればいいだろう。『ニンフォマニックVol.1』を観たあとでは、そんなことポップコーンを買うより簡単にできるはずだし、Vol.1を観た直後の異性との幸せな出会いがあるかもしれない。ただVol.2を観たあとの異性との間には永遠の断絶しか残らないので、上映時間はよく調べておいたほうがいい。
文=ターHELL穴トミヤ
自らを色情狂と認める女性ジョー
8つの章で綴られる、詩的で滑稽な「性」の旅路
『ニンフォマニアック Vol.1』
全国順次公開中
『ニンフォマニアックVol.2』
全国順次公開中
関連リンク
関連記事
診断書がある!(手を伸ばして決然と拒絶するジェスチャー)という決めゼリフが愛おしくて抱きしめたくなる 映画『FRANK -フランク-』公開中!!