web sniper's book review 少女まんが界に輝く、超人気大河ロマン!! 『ガラスの仮面 /43(白泉社)』 著者=美内すずえ 文=さやわか
演劇にすべてを賭ける少女・北島マヤ。その激しく一途な生き方が、熱い感動を呼び続ける! |
『ガラスの仮面』の最新刊が4年ぶりに発売された。ずいぶん待たされたという印象はない。なにしろその前は6年も待たされているのである。既にファンにとっては、無事にこの物語が続いているだけで、完結する見込みがあるだけで、ほっと胸をなで下ろせる。
そういう長期連載ではしばしば、もう物語がどうなってもいいから、とにかくさっさと完結してくれ、その方が続きを待つ方としては楽だ、という気分になることもある。『ガラスの仮面』だって、どうせ最終的には北島マヤが紅天女を演じて速水真澄と結ばれるというのは間違いないことなのだから、さっさと大団円になってしまえよという気分になってもいいはずなのである。しかしそうはいかない。最新刊を読むと、えらくハラハラする。うわ、何だこれ、続きはどうなるの!という気分になる。この物語はちょっとヤバい。物語の見せ方が上手すぎる。最新刊だって、200ページにも満たないページ数の中に読者を驚愕させる展開があまりにもどっかりと盛り込まれている。盛り込まれ過ぎである。桜小路と舞の破局!「紫のバラ」の秘密に迫っていく真澄!ネイチャー信仰的なヤバさがプンプンするマヤの稽古シーン!例によって世間から下されるマヤに対するダメ出し!しかし亜弓さんと月影先生だけはマヤの実力に気づいているという、ベタでありながらも読者に胸のすく思いをさせるに十分な展開!そしてラストは真澄への思いに揺れているマヤの稽古を月影先生が見に来るという気まずいヒキで以下続巻となるのである。これはすごい。見せ場の連続だ。連続しすぎる。ただただ、こんな面白い漫画を読ませてくれることがありがたくなってしまう。
しかし、これだけ面白いものを読まされてなお、お腹いっぱいにならないのが『ガラスの仮面』の恐ろしいところである。さらに続きを、すぐに読ませてくれという気持ちになる。と思ったら、『別冊花とゆめ』(白泉社)3月号からの連載で43巻の続きから読めるらしく、うっかり買ってしまいそうになる。どこまでも読みたくなる。これはまずい。危険な本だ。この43巻の面白さを分かっていただくためには、まず42巻までの膨大なページ数を読破していただくしかないが、しかし決して損はしない読み物である。本当に読んだことがない人には説明がしがたいが、これはもちろんただの少女漫画ではないし、終わるのをダラダラと待ち続けながら惰性で読むようなただの長寿漫画でもない。というか、もはやただの漫画であるとはいえないような、ヤバい魔力を持った物語なのである。
文=さやわか
『ガラスの仮面 /43(白泉社)』
著者=美内すずえ
価格:420円(税込)
判型/頁:新書判/192頁
ISBN:9784592170037
発売日:2009/01/26
出版社:白泉社
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さやわか ライター/編集。『ユリイカ』(青土社)、『Quick Japan』(太田出版)等に寄稿。10月発売の『パンドラ Vol.2』(講談社BOX)に「東浩紀のゼロアカ道場」のレポート記事を掲載予定。
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