WEB SNIPER's book review
ともだちになる難しさ、ともだちでいる難しさが描かれるBLコミック
同級生から「マネキンくん」と呼ばれている無表情で無口な那智眞尋と、女子に絶大な人気を誇る人気者・真里谷梓。2人はお互いが一番大切で、一番の友達。けれど、真里谷には那智に言えない想いがあって――。 少年同士の不器用なコミュニケーションにBL的萌え要素が詰まった、ファン垂涎の注目BLコミック!!特に、男女問わず好きな人や気になる人が相手だと、関係性の目盛りを好きか嫌いかの2つだけに設定したくなっちゃうんですよね。好きを受け入れてもらえなかったら嫌いになるしかない、みたいな、不器用を飛び越えて、もはや破滅衝動に近かったような。
中間地点もそりゃああるんだけど、しかしそこはものすごく居心地が悪くて、早くどっちかに振りきってしまいたくてたまらない。でも、そんなことを考えながらも、「嫌い」のほうに振りきって、何もかも終わってしまうのもすごく怖くて、薄氷を踏むようなコミュニケーションを多少いらつきながら繰り返す。でありながら、それがすごくつらいとかイヤだというわけでもなくて......ただの友達よりも濃い、濃くなりたい関係って、そんな「でも」とか「だけど」が繰り返される矛盾の上に成り立っていたような気がします。
特に中学生ぐらいの、ほかに逃げ場のない小さくて閉じた世界にいたときは、その傾向が強かったような。
無口で無表情、かつ無愛想な中学2年生の那智は、クラスメイトの真理谷のある言動を偶然目にし、彼に「はじめて友達になりたいと思った」とストレートに伝えます。真理谷と「ともだち」になった那智は、真理谷に対しての独占欲を隠そうとしません。真理谷いわく、「ちょっとズレている」子です。
一方の真理谷は、学年の人気者という点を除いては、比較的「普通の人」の立ち位置に近く、最初は那智の表現に面食らいます。しかし、そのうちに面食らわせる部分にこそ惹かれていくようになり、同時に、惹かれることに対して葛藤を抱くようになります。
えぇ、なんたって男同士ですから。
真理谷は「傷つきたくないから、相手を先に傷つけてしまえ」という理屈で、那智に辛辣な態度をとりますが、これは好き・嫌いしか目盛りを作れない人の発想なんじゃないかな。本来なら自分のほうからそっと離れて、中間地点で感情の暴風雨が止むのを待てば済む話ですから。
好きになってはいけないけど、嫌いになれない。だから傷つける。つきはなす。自分のことを嫌いにさせる。なんという自分勝手で不器用なやり方。
いえ、真理谷はたぶんもともとは、たいていの人と適度な距離を置いて仲良くできるし、好きな人に対しても、居心地が悪いと感じつつも好き・嫌いの中間地点にいることのできる人間なんだと思います。じゃなきゃ「学年の人気者」なんて牧歌的なポジションは務まりませんよ。
それが、「俺はどこもへんじゃない。おかしいのは君のほうだ」という台詞に表われているような男同士であることの焦りが、理性を剥がし取ってしまった。
私はこういう、同性に対しての感情に苦しんで悩んで壊れていく少年にたいへんドキドキするので、この作品はまずここでグっときました。
さらに、那智に好意を抱く女子が登場。真理谷は女子も那智も徹底的に傷つけた結果、それまでの価値観を一変させる、とても大事なことに気がつきます。
女子を踏み台や媒介にして、男子同士が異端の愛情を確認し合う。女子が登場するBLを嫌う向きもありますが、私は女子を噛ませ犬にすることで、異端の妖しさや甘やかさがより一層引き立つように感じるので、むしろ大歓迎です。
この作品は、実際には高校2年の那智と真理谷が過去を振り返りながら、二人が「ともだち」であり続ける選択をする様子を描いています。
真理谷は「気づき」で救われたわけでもなく、3年の時が経過しても相変わらず那智への思いに悩み、苛立ち、那智のストレートさに翻弄されています。
真理谷にとって、那智と「ともだち」でいることは、あらゆる感情や、その感情のために那智、そして他の誰かをも傷つけてしまうかもしれない覚悟を背負うことでもあります。
大人になるというのは、それぞれが抱える不器用さや、どうしようもできないこととの共生方法を手探りで知っていくことなのかもしれません。
人間が自分の汚い部分や短所についてさんざん葛藤した末、捨てられないのならと受け入れる姿は私の大好物です。嫌いになれるところのない人間は、好きになれないんです。特に思春期の少年(これは少女も)が心の闇と向き合って、最後にそれを受け入れるというのはたまらないものがあります。大人の階段は泥まみれの足で駆け上がれ!
この巻(第1期)は目に見えるわかりやすい惚れた腫れたアクションはなかったものの、感情や状況、情景がとても丁寧に描写されていたので、物足りなさはありませんでした。
しかし何はともあれ、こんな二人がいつまでも単なる「ともだち」でいられるわけがなく、次期はもうちょっといろいろあるようで、たいへん楽しみです。
文=早川舞
『若葉の -少年期-』(大洋図書)
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