WEB SNIPER's book review
生きづらい女の道をいかにポジティブに乗り切るか
AV監督であり、劇団「ブス会*」を主宰するペヤンヌマキが、エロの現場で働く自らの経験をもとにコンプレックス活用法を探る、半自伝的エッセイ。装画は元AV女優の漫画家・峰なゆか、帯コメントを寄せるのは、AVライター業にとどまらずさまざまな分野で活躍中のフリーライター・雨宮まみ! コンプレックスを武器に変えてポジティブに乗り越えていく、その生きざまに勇気づけられる一冊です。しかし彼女の活動範囲はAVのみにとどまらず、「女」をテーマにした演劇ユニット「ブス会*」を立ち上げ、全作品の脚本・演出を手がけるなど、幅広い分野で活躍中。
そういう人生を歩んできた女性の半自伝的エッセイということで、帯コメントを寄せている雨宮まみの半生記『女子をこじらせて』と似たような雰囲気になるのかな?と予想して読んだのですが、その予想は大ハズレでした。
自らのナマナマしいコンプレックスをとことんさらけ出し、それを最後の最後に昇華してみせる雨宮まみの文章に比べて、ペヤンヌマキの筆致はとても軽やか。
過去に抱いていたコンプレックスを羅列しつつも、即座にそれがどのように解消されていったかをひとつひとつ丁寧に語ってくれるので、サクサク読めてしまうんですよね。
たとえば彼女のコンプレックスのひとつに「存在感が薄い」ということがあったのですが、そのことが「素人ナンパもののAV撮影でカメラマンをやるうえでは、被写体の女の子にカメラの存在を意識されることなく自然な画を撮れるので、逆に強みになった」というように、解消事例が非常に具体的でわかりやすい。
また彼女がAV業界に入った理由も、「AVが好きだから」「性欲をもて余して」とかではなく、「当時交際していた彼氏がこっそり風俗に通っていることが辛くて、AV業界に飛び込めばそういうことも平気になれるのでは」というもので、結果としての行動はちょっとぶっ飛んでるけど、動機はふつうの健気な女の子なんですよねぇ。
その彼氏との関係も、「大学1年生で出会って両想いになり4年以上交際したけれど、男女の恋愛から家族愛的なものに移り変わっていくうちに、だんだんセックスレスになる」というもので、幸せとも言い切れないけど不幸とも言い切れない。
というか恋愛弱者の私からすると、たかだか20代前半で好きな人とそんなに深い段階まで恋愛を進められたっていうのは、正直羨ましいです。
このあたりが、性欲をこじらせ、処女をこじらせ、恋愛をこじらせた半生を描いた『女子をこじらせて』とは決定的に違う点で、共感できる度合いで言うと私は『女子をこじらせて』のほうが断然上なのですが、あちらは共感しすぎるあまりに読むたびに心をえぐられるというか、古傷をかきむしられるような気持ちになるんですよね。
それに比べて『たたかえ!ブス魂』には悲壮感は全然なくて、どちらかというと「女の生きづらさ」に対するグチ、というかんじ。
散々グチってスッキリしたから、明日からまた元気にやっていこう!という、軽快で前向きなパワーがあるんですよ。
そしてそんな彼女のパワーの原点は「ブス会」にあるんだと思います。
彼女が立ち上げた劇団名にもなっている「ブス会」は、元々はAV業界の女性だけで集まって散々グチを言ってストレスを発散させる女子会を、周りの男性から揶揄された言葉だったのですが、それを言われた本人たちが面白がって自称するようになったのでした。
昔は「ブス」がコンプレックスで、その言葉を言われることを心底恐れていたペヤンヌマキが、むしろ「ブス」という言葉を面白がって自ら名乗るという、軽やかさ、力強さ。
ネガティブな気持ちを乗り越えて、それを強みに変えていく軽やかでポジティブなエネルギーが、この本には一貫して感じられます。
本作を読んで私も、自分の中のブスを断罪し封じ込めるのではなく、前向きに考え直して解放してあげよう、と思えるようになりました。
文=まな
『たたかえ!ブス魂 ~コンプレックスとかエロとか三十路とか~』(ベストセラーズ)
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