WEB SNIPER's book review
女性アイドル専門のディスクガイド
2010年から始まった「アイドル戦国時代」ブームを鑑みて、女性アイドルの歴史をディスクガイド本という形式で振り返るために制作されたの本書『アイドル楽曲ディスクガイド』。女性アイドルという概念が成立したとされる1971年の南沙織デビューから、本書出版の直近年である2013年まで、43年間の歴史を主要シングル850枚+アルバム100枚=計950タイトル、ジャケット付きで全てレビュー!!というわけで、今まさに旬の音楽ジャンルである「アイドル」に絞ったディスクガイド本である本書も速攻購入、まる1日かけて950タイトルのディスクレビューを付箋バシバシ貼りながら今まさに全文読み切ったところだ。
本書は「山口百恵」、「ピンクレディー」から「AKB48」、「ももいろクローバーZ」まで、時代を代表するアイドル達の主にシングル曲が、基本5年区切り(ただしプレアイドル時代の「~1969」と、リリースの多い「2010~2012」と「2013」は別項)の経年別に分類され取り上げられている。
レビューの物量についてはまったく文句ない。とにかく1枚でも多くのディスクレビューを読みたいとは思っているものの、950タイトルはなかなかにボリューミーだった。ハロヲタ界隈では知らぬ人はいない主筆のピロスエ氏はもちろん、筋金入りの現場派ライター宗像明将氏、アニソン界の権威でもある坂本寛氏、80年代アイドルに造詣の深い栗原裕一郎氏、本サイトでも活躍中のさやわか氏など、音楽はもちろん周辺カルチャーも含め膨大な知見を持つライター陣によるレビュー群は、1枚ごとの文字量はそれほど多くないが、あまり主観を混じえず情報をシンプルに伝えることに重きを置いた文章(もちろん例外はあるが)が多く、読んでいるだけで濃厚な知識がバンバン増えていく快感が味わえる。
盤のセレクトもいい。こういった企画は作り手の意識が暴走し、ともすれば「これはさすがに知らないでしょ」的な知識ひけらかし大会になり読者が置いてきぼりになることも多いのだが、本書は誰もが知っている有名曲はほとんど漏らさずに押さえているので、「あ、この曲は知ってる」、「なるほど、こういう聞き方もあるのか」という発見もでき、さらに「これ曲名は知ってるけど聞いたことないなあ、今更だけど聞いてみようかな」というパターンも多くなる。もちろん海千山千のライター陣なので「え? そう来るか」という隠し球を探すのも楽しい。
そうは言っても以前だとレビューを読んで気になった曲をメモしてCD屋(もしくは中古盤屋)に買いに行かなければならなかったのだが、今はYouTubeで検索すればたいていの曲はその場で聞くことができる。是非は別としてまったくすごい時代になったもんだよ。
リリース量から言っても、ここ数年の「アイドル戦国時代」に絞るという選択肢もあったのだろうが、ピロスエ氏は徹底的に「網羅」にこだわったようだ。そのおかげで有名曲のレビューを読みながら「キャンディーズ解散は小3か......」、「おニャン子は富川だった!」、「Cha-DANCE Party 行ったなあ」など、自分のアイドル遍歴を俯瞰しノスタルジーに浸りつつ、「BELLRING少女ハート」、「Cheeky Parade」、「lyrical school」など未チェックだった最近のアイドルの重要盤情報も入手できとても有意義な読書体験になった。
ディスクレビュー以外にもAKB48関連楽曲を多作する井上ヨシマサ、ハロプロに愛情を注ぐエレクトロ系クリエイターtofubeatsのインタビューや、アイドル戦国時代のトピックスを俯瞰できる年表など周辺コンテンツも充実。
「昔好きだった思い出の曲をもう一度聞いてみたい」、「最近のアイドルに興味はあるがなにから聞いていいのかわからない」といった人におすすめしたい良書だ。
なお、本書のライター陣によるトークショーが今週末新宿で開催されるという。オレも行ってみるつもりだ。
文=田口こくまろ
『アイドル楽曲ディスクガイド』出版記念トークイベント情報
開催日時=2014年3月15日(土)
11:30開場/12:00開演/16:00終演
司会=ピロスエ、岡島紳士
ゲスト=栗原裕一郎、坂本寛、さやわか、鈴木妄想、田口俊輔、DJフクタケ、原田和典、宗像明将 他(予定)
会場・問い合わせ先=新宿ロフトプラスワン
『アイドル楽曲ディスクガイド』(アスペクト)
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