web sniper's book review
グラフィックデザイナー・原研哉と
武蔵野美術大学ゼミ生のアッと驚く研究報告
世界の新鮮なリアリティに触れるために、いったん「情報」をEx-formation/未知化してみよう! 無印良品の広告キャンペーン等で知られるグラフィックデザイナー・原研哉と武蔵野美術大学ゼミ生が、「はだか」をテーマにして斬新な視点を提示する、ユニークな知的探求の記録。武蔵野美術大学ゼミ生のアッと驚く研究報告
本書は原と武蔵美ゼミ生らの共同研究をまとめたもので、書名になっている2008年度の研究テーマ「はだか」についてのゼミ生の11の研究発表が収録されている。ここでなぜ美大のゼミ研究テーマに「はだか」が選ばれているのか、疑問に思ったほうがいいだろう。同じく書名の「Ex-formation」は「いかに知らないかを分からせる」といった意味で、簡単に言えば「はだか」とは何か、「はだか」という状態が普段の私達のモノを見る目にどんな効果を及ぼしているのかを、具体的に言語化・視覚化していくのがこの本である。
例として本書の中から二つ取り上げよう。なぜ私達は裸になるのが恥ずかしいのか。それは「他人と自分の裸が違うから」である。偏差が露になるのを嫌がっていると考えれば、衣服を着ることは平均化であり、ファッションとは平均値上の差異化なのだと判る。研究発表「裸の人形」では、その偏差を平均化し理想的な体系であるはずの人形のはだかに、肥満やO脚などあえて偏差を持ち込むことで、無意識に押し込めていた「はだか」をリアライズする。
もう一つ、研究「はだかの少女漫画」は、少女漫画の登場人物の衣服を脱がすと、衣服自体が持っている情報(性格、社会的地位、他)を剥ぎ取ることになる。その結果、内面的同調を誘う背景がなくなってしまい、「はだか」ばかりが目に付き、共感は生まれず、作品は破綻する。少年少女の「心のはだか」ともいえる個性や性格の自立性は、実際に「はだか」になってしまうと決して得られない。はだかが衣服に包まれているからこそ、内面というものが成立することを、この研究は示している。
テクスチャを入れ替えてはだかは成立するか、パンツをはかせることで帯びる身体性とは、見せるためではない素のはだかを見た場合の私達の心境、など、他にも興味深いテーマ設定が多い。一連の発表を通して、「はだか」という状態が持つ効果や、それが視線に表れた時の意味などが浮かび上がってくる。つまりここで取り上げられている「はだか」は、性的な視点を誘発する「ヌード(Nude)」ではなく、そのままの状態が在る「ネイキッド(Naked)」である。後者を知ることで、多くの人が単純に連想する前者と違う効果を得られたら、それは面白い。デザイナーは、たとえばこういう風に物事を見ている。それが非デザイナーにもよく判る一冊である。
文=ばるぼら
『Ex-formation はだか』(平凡社)
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ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』(共に翔泳社)『NYLON 100%』(アスペクト)など。『アイデア』不定期連載中。
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