web sniper's book review 大衆を挑発するお茶の間襲撃マガジン 『PLANETS vol.5(第二次惑星開発委員会)』 文=井上文 宇野常寛主催の企画ユニット「第二次惑星開発委員会」が贈る、全国津々浦々のboys&girlsにcoolでpopなカルチャー情報を紹介するサブ・カルチャー総合誌『PLANETS』最新刊! |
政治、文芸、テレビ、漫画、アニメetc.、多ジャンルをボーダーレスに横断して批評する雑誌『PLANETS』を読んだことがありますか? ミニコミ誌でありながら「評論総合誌としては、商業誌の実売数に匹敵する発行部数」を誇る、昨今稀有な媒体です。
編集長の宇野常寛氏は、もともとはインターネットで表現活動を展開していた人ですが、なぜ今、雑誌というメディアに着目したかというと、「誤配の可能性」に賭けたのだと言っています(『CINRA MAGAZINE vol.17』のインタビューより)。
「誤配」というのは、こんな意味だそうです。インターネットでは、キーワード検索一発で読みたい記事に辿り着ける分、同じサイト内でも他の記事は読まれないことが多い。けれど雑誌というパッケージならば、たとえ興味のない記事でも間違えて読んでしまう場合があるだろうと。
読み手のニーズを窺うことで確実な売上を狙う商業誌にはない発想です。
批評でさえも各ジャンル内に閉じこもり、「タコツボ」化している状況を打破したいという氏は、自著や記事の中で常々、異文化交流の中から普遍的なものを見出したいと語っています。ですので「誤配」という発想は希望を超えて必然性のある着眼ですし、結果、『PLANETS』において多数の読者を獲得したことは、雑誌そのものの「可能性」すら示唆することになりました。2005年12月に第1号、今年の8月に第5号が発売されたのですが、今、同誌において「誤配」はすでに、当然期待される一貫した編集方針として受け取られていると思います。
扱われている話題のすべてに詳しい読者はそういないでしょう。言葉も時に難しいですし、書かれている主張が正しいかどうかも別の話です。が、『PLANETS』においては、時々ムカッとさせるくらいに挑発的な書き手の姿勢が最低限の面白さを支えています。しかも扱われているのが「普遍的な」問題だとすれば、誰も無関係ではいられないのですから興味が縦横に走ります。
言葉の意味なんかよく分からなくても面白い、そういう読書、子どもの頃に経験したきりだったんじゃないかと胸が躍りました。「タコツボ」と言えばSMの世界もそうですが(こう言われると、言われたジャンルの愛好家はムカッときますよね)、賛否が巻き起こるのは当然にしても、いずれは俎上にのる日がくるかも知れません。
ちなみに、第5号の中でWEBスナイパー読者にオススメなのは、山本寛と更科修一郎の対談。武梨りえの漫画『かんなぎ』のアニメ化にあたり、山本氏がこだわっているのが「ふともも」だというくだりで、フェティシズムと萌えの中間を狙うという話があります。
「ボール1個分外す」匙加減や、女性作家が描きだした「女の脚萌え」を最前線のクリエイターがどう処理するかなんて、興味ありませんか? たとえ貴方がアニメファンじゃなくとも、分かるところからアニメ制作の世界を知り、さらにそこから……というこの雑誌独特の面白さを味わってもらえるんじゃないかと思います。
一見、敷居の高そうな雑誌ですが、あらゆる先端は自分の身の周りにあって、いつも触れているものだと気付かせてくれる本です。どんな入口からでも「誤配」によってアクティブな思考のスイッチが入る、入ってしまう、その楽しさは、激しいぶつかり合いを含むコミュニケーションのストレスを超えて新鮮です。
文=井上文
『PLANETS vol.5(第二次惑星開発委員会)』
発行人:宇野常寛
編集人:宇野常寛
印刷:株式会社コムフレックス
企画・編集:第二次惑星開発委員会 wakusei2nd@yahoo.co.jp
A5版:308P/1,500円(税抜き)
発行元サイトで作品の詳細を確認する>>>こちら
関連記事
『不可能性の時代(岩波書店)』著者=大澤真幸
井上文 1971年生まれ。SM雑誌編集部に勤務後、フリー編集・ライターに。猥褻物を専門に、書籍・雑誌の裏方を務める。発明団体『BENRI編集室』顧問。 |