web sniper's book review
広大なエディット・ワールドからダンス・ミュージックに
フォーカスした世界初のディスク・ガイド・ブック
映画、文学、音楽、絵画、ファッションなど様々なカルチャーで用いられるアートフォーム「エディット」の詳細を音楽にフォーカスして紹介するガイド・ブック。時系列に沿ったエディットの歴史、150枚以上のレコード・ディスク・ガイド、オリジナル・エディターへのロング・インタビューを収録。フォーカスした世界初のディスク・ガイド・ブック
本の冒頭で触れられているとおり、「エディット」を取り上げたガイドはこの本が初ではない。海外『Big Daddy Magazine』の2003年の特集「History of Cut'n'Paste」が元ネタである。この特集の影響で、日本では『collider』2号が同様の特集を組み(『Big〜』誌の翻訳も載った)、また『spectator』誌でA.K.I.氏がエディットのディスク紹介を行なうなど、局地的な注目は集めていた。そして、それらの記憶が忘却された2009年末に、突如一冊にまとめられたのが『ザ・エディット』、という流れのはずである。
この本で得られる情報自体は非常に満足度が高かったが、しかし反面、本の構成には再考の余地があると思う。エディットの黄金時代と定義されている80年代の話題が異様に多いのだ。始まりにこだわりすぎるあまり、同じ話(ラテン・ラスカルズ他の影響など)が何度もくり返され、歴史全体を見通すには少しバランスが悪い。80年代までとそれ以降(ポスト・エディットと称されている)が分断しているとして、本文中に「エディットを聴かれるきっかけになればいいですよね」とあるように、もし本当に今のリスナーに届けたいなら、最後の章のニコニコ動画周辺の音楽にもっとページを割かれているべきだろうし(ノンセクトラジカルズのインタビューから十分繋げられるはず)、逆に80年代をやりたいならそこだけを徹底的にやればいいと思う。つまり書名と内容にズレが生じているように感じた。このタイトルでやってほしかったのは「エディット=二次創作音楽」と割り切った定義による全方位的音楽ガイドである。ターンテーブルの上であらゆる音楽が平等だとすれば。
文=ばるぼら
『ザ・エディット/エディット・ミュージック・ディスク・ガイド(株式会社ブルース・インターアクションズ)』
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ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』(共に翔泳社)『NYLON 100%』(アスペクト)など。『アイデア』不定期連載中。
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