WEB SNIPER's book review
細いうなじ、隠れたホクロ、繊細な手指の所作
高校生の津田は、ある日、席替えで無口で無表情な遠藤と席が前後になった。ささいなきっかけから交流が生まれ、今までまったく知らなかった遠藤が見えてくる。ほくろ、首、髪、ちょっとした表情の変化。けれど、もともと他人への関心が薄かった津田は、徐々に近づく遠藤との距離に焦燥感を覚え......。フェティッシュな視点が悩ましいBLコミック!! のっけから突っ走った自己主張をしてしまいました。すいません、ちょっとずつ説明します。
まずBLというのは、今さら説明するまでもないかもしれませんが、男性同士で恋愛することです。ボーイズ・ラブです。恋愛だけでなく肉体関係にまで発展してしまうこともありますが、というか最近はそっちのほうがメインになっているようですが、とにかくイチャイチャすることだと思っていただければ大体合ってます。
あまり「昔はよかった」みたいなことは言いたくないのですが、最近はBL人気が出すぎたためなのか(といってもごく一部でですが)、とっとといちゃいちゃさせるためにキャラを設定している作品が多すぎる! これが行き過ぎるとどうなるかというと、性別は男でも「これ、女じゃん」というキャラが乱立するんですね。そりゃあ目的が恋愛させることだったら、男女のほうが合理的かつ迅速に達成できますからね。
でも私は、それじゃせっかく「ボーイズ」の名を冠している意味がないと思うんですよ。たとえ受け(ヤラレる側)だったとしても、男とか少年の要素は残しておいてほしいし、それゆえに物語が進行する、あるいはしない作品が好きです。BLに関してはオリジナルからすでにBLの作品よりも、アニメなどの二次創作のほうがどちらかというと好みなのですが、それはこういう理由からです。
前置きが長くなりましたが、今回ご紹介する『えんどうくんの観察日記』は、少年独特(と、私は思っている)の繊細な依怙地さとでもいうものが進行の核となっているところが、じつによろしい。身長191センチ、強面で喧嘩ばかりしているわりには他人への関心が薄いせいか日常生活では比較的大人しく、そう問題児扱いされているわけでもない主人公の津田は、席替えで、無口で無表情な遠藤と前後の席になります。自分同様、周囲への興味が皆無に見えた遠藤ですが、やはり席が前後ともなると些細ではあるにしろ交流が生まれてきまして、少しずつ近づく距離に葛藤と焦燥を覚えるようになります。
これは程度の差こそあれ、どちらか一方がひたすら押せ押せで、もう一方が「いやよいやよでも好き」でなし崩し的に受け入れるパターンが多いBLの中では珍しい設定といえましょう。でも両者のこの精神的ひきこもり具合はすごくリアルだし、感情移入できる。
思春期の頃、とにかく何でも拒絶したり、無関心になることでしか日々を乗り切れない一時期ってありませんでしたか? 拒絶することが、自分が何者かである証みたいにぼんやり思っていた時期が。これって多分、女の子より男の子のほうが強く感じていたことなんじゃないかと私は勝手に推測しているので、そこを以てして少年らしいと主張しておるのですが、まぁとにかく、今振り返ると何をそんなに依怙地になっていたのかと甘じょっぱい気分になるソレが恋愛、それも「同性のクラスメイトへのトキメキという、まったく未知の領域」と結合すると、もう、こんなにも切なくなるのかと。しかもトキメキのきっかけには細い首筋だとか、髪の生え際のほくろだとかいうフェティシズムが満載なところがまたすばらしい。フェティシズムで切なくなった漫画を読んだのは、喜国雅彦さんの『月光の囁き』以来です。あっ、『えんどうくん〜』はフェティシズムがメインではありませんが。
それとこの漫画にはBLには珍しく、サブキャラではありますがわりと重要な立ち位置で女の子が出てきます。「女は基本、空気」みたいな、変な男尊女卑傾向のあるBL界ですが、女の子の恋愛感情もちゃんと描くことで、男同士の恋愛の繊細さ、あやうさがより浮き彫りになっています。
レビューを書くときにはあまり褒めすぎないようにしようと心がけている私ですが、この作品に関してはもうぶっちぎりで褒めたいです。あと個人的に、神崎くんは狂言回しで終わらせるには勿体ない役だと思ったので、次回作で幸せになってほしいです。でも好きなのは千葉ちゃんです。
文=早川舞
『えんどうくんの観察日記』(大洋図書)
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