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自己肯定感を持てない人は、男女問わず生きていくのは大変だと思う。自己肯定感というのは、子供の頃に親から無条件に愛されたり褒められたり大事にされた経験から無意識にはぐくまれるもので、それらを幼児期に得られないと、どんなに容姿端麗でも勉強ができても自己評価が低く、自分を大事にしない大人に育つものだと思う。

そういう人はどこかで自分の歪んだ人格形成に気づいて治さないと、いつまでたっても不幸を繰り返すし、トラウマを上塗りさせていくのだろうけど、人格の根本を変えるというのは、そうそう簡単に出来るものではない。

さて本書は、AVライター雨宮まみの、タイトル通り女をこじらせた半生について語った自伝である。

なぜAVライターになるほどAVにハマったか、という理由を述べる形で、いかに自分が女をこじらせてきたか、中学時代から現在に至るまでを順々に語っているのだが、どうも「女」をこじらせたというより、自己肯定感を持てない人間が、その理由をことごとく「女」であることに結びつけて悩んできた内容のように思える。いや、むしろ「女」という一点に絞っているところが、本書の最大の特徴であり、雨宮まみの業の深さというべきか。

彼女の「こじらせ」人生は、誰もが体験するであろうスクールカースト、すなわち「中学に入るや否や外から『美人判定』『カワイイ判定』『ブス判定』をされるようになった」という、一見シンプルな悩みからスタートし、 「貧乳、肌はにきびだらけ、スタイルよくない。自分に勃起する男なんていない、むしろ萎えるだろう」と確信したことで、急激に加速させていく。

コンプレックスの歪みから不思議ちゃんを演じるようになり、ランドセルをしょって高校へ通い、どうせモテないからと坊主頭にして、一日8回オナニーしては虚しさに泣き、やっと「女」を受け入れてスカートを履いたところ、無事に初体験を済ませられるが、その初体験というのがまた奇妙な思考回路の中で行なわれているのだ。

「とてつもない開放感に襲われました。自分の意思で、初めて男の人と触れ合った。そのことがとても嬉しかったのです」という感動すべき初体験の相手は友達の彼氏で、しかも男はあきらかに遊び。それでも、「やっと、やっと人と触れ合えた、誰にも触れられずに死んでいく人生にならずに済んだ」と喜んでしまう極端なまでの自尊心の低さ。

さらに初体験の男に入れ込んでしまい、忘れるためにセフレを作ってみるものの、結局辿り着いたのは、「イイ女とはセックスできなくても会ってるだけで楽しいとうっとり語る彼の姿を見て、私はこの世の無情を思いました」である。そこまでどつぼにハマらなくても!と突っ込まずにはいられない、踏んだりけったりのオンパレードだ。

また、そうした数々の痛い思春期を経て就職し、フリーライターとしてデビューしてからは、自然な流れのようにフェミニズムに傾倒していくため、後半からは悩みの質も大きく変貌する。

「せっかく顔のにきびが治って女としてのコンプレックスが和らいだと思ったら、逆にそのことを『美人だからトクしてる』『女だからトクしてる』と攻撃されるようになる」
「地獄だと思いました。今から元のように汚い肌になって、化粧もせず、汚い服装をしていれば『実力がある』と認めてくれるのか、と何度も思いました」

ブスだから恋愛できない、セックスできない、本命になれない、という悩みから、今度は周りが勝手につけた「美人ライター」という呼び名により差別されて悩むのだ。しかし、ならば一方で救われたのかといえばそうではなく、相変わらず恋愛では手ひどい目にあい、被害者意識を増幅させているところが、「女」コンプレックスの根深いところだ。

とはいえ、可哀想な女の自伝かと言われれば、これがまったく逆に感じるのも事実。結局、こじらせてる女って、そもそもバイタリティがあって野心家で大胆で好奇心旺盛なのだ。空回りするのは行動があるからこそだし、過剰な劣等感は向上心の源。なんだかんだいって、人生楽しそうじゃん!と思わずにいられない。

今まさにこじらせている女子たちは、本書を読んで恥ずかしいという気持ちから特権意識に変わり、堂々とカミングアウトできるようになるのではなかろうか。そんな気がする。 「女って大変だよね」という気持ちは女だから共感できるものだし、仲間がいれば人は強くなれるものなのだ。

と結論付けそうになったところで、またもやガラリと気持ちを変えられるのがこの本の恐ろしさだ。 本書の最後にある、特別対談では本文とはまったく別の「こじらせ」の病が展開されている。対談相手は「モテキ」の著者である女流漫画家・久保ミツロウ。 今まで一度も恋愛経験がないままで三十路に達した久保ミツロウのこじらせ道は、雨宮まみとはまったくベクトルが違うのだ。

「マンガを描いてるから男とつきあった経験がなくても受け入れてもらえてるだけで、普通の人が普通に受け入れられてるのとは違うってことをわきまえなきゃいけない、ってずっと思ってる」 というまどろっこしい卑下に、コンプレックスが集約されているように感じるが、「モテキ」を大ヒットさせた社会的成功者でも、恋愛ではまるで自信がないというのはちょっと衝撃だ。

また、「自分のこと天才じゃないかと思ってる。絶対に男女の関係にならないっていう天才」と断言する久保ミツロウと比較すると、失恋も恋愛もセックスも経験している雨宮まみが、急激にこじらせ女の勝ち組に見えてくるのも妙である。結局、女の悩みは十人十色。こじらせ方も様々ということか。

このように本書は、最初から最後まで個人的体験と、その気持ちを語っただけの本だ。特別何かを結論づけるわけでも、答えがあるわけでもない。しかし、女をとりまく状況と問題を、かなり深く掘り下げ、示しているのは間違いない。読んだ女は各々に考え、自分なりの答えを探すしかないのだ。

文=東京ゆい

『女子をこじらせて(ポット出版) 』

著者=雨宮まみ

価格:1500円+税
ISBN:978-4-7808-0172-9 C0095
発売:2011年12月5日
出版社:ポット出版

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東京ゆい 他人の人生を覗き見するのが趣味。聞き役なら、愚痴、ぼやき、自慢話、何でもこい。サブカル系と思われることが多いが、実際はサブカルをほとんど知らない。休日は動物と触れ合っていることが多い。
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11.12.18更新 | レビュー  > 
文=東京ゆい |