WEB SNIPER's book review
前代未聞!? 美少女ゲームで活躍する声優のインタビュー集!!
美少女ゲームのキャラクターを演じる声優たちの"声"をまとめた本邦初のインタビュー集。第一線で活躍中の人気声優から新人まで総勢18組25名が、この仕事を志したきっかけやキャラを演じる上での努力、
将来の夢、今だから話せる収録秘話、意外なプライベートの素顔など、
世間ではあまり知られる機会のない「お仕事」の現実を語る――。気になる1冊を「美少女ゲームの哲学」でお馴染み、批評家の村上裕一氏がレビュー!!本書は、声優の中でも18禁美少女ゲーム(通称エロゲー)の声優にスポットを当てた、非常に専門的な書物である。ボイスコンテンツ満載の特典DVDも付属し、文章だけに留まらず気になった声優の声をそのまま視聴することも可能なので、知らなかった役者について理解を深める機会にもなるだろう(※1)。
声優と言えば、いまやアイドル化して久しい業種だと言える。単純に、顔を隠して声を売る、という職業ではなくなり、声優自身のタレント性やアーティスト活動が商品となる時代となった。しかし、エッチな声を売るということが重要な仕事であるエロゲー声優(※2)の場合、そのようにはいかないのも実情だった。特に顔出しというのはなかなか考えられないものだった。そこへきて、巻頭に9名ものカラーグラビアを掲げて本書が登場したことには、一種の隔世の感を覚えずにはいられない。
25人のインタビューを中心にエロゲー声優の実体に迫る本書には独特の面白さがある。特に、各人の「どのようにしてエロゲー声優になったのか」というエピソードは、個々のファンはもちろん、エロゲー業界というものに興味がある人間であれば外せないトピックではないだろうか。たとえば何人かの発言を追っていると「友達に誘われるままにアフレコにいったら、そのまま声優になってしまった」とか、「もともとは事務職だったが社長の思いつきで声優デビューした」などという驚くべき事態が散見される。個別のファンには馴染み深い逸話かもしれないが、改めて振り返ってみると、人はそんな風にして声優になるのか、と驚きを禁じえない。実に業界のリアルが垣間見える内容である。
かような書物を眺めてみて思い出すのは――そして本書にとっても決して無関係ではないのは――かつてエロゲー業界におけるインターネットラジオの草分け的役割を担った『アケミとマリカのがっちゅみりみり放送局』(2002-2005、すたじおみりす。略称「がちゅみり」「がっちゅ」)というウェブラジオ番組である。
というのは単純に、本書に登場する声優に、上記番組に出演したことがある、いわゆる「がっちゅ系声優」が多い(実に10人!)からというばかりのものではない。なかなか表には出にくかったエロゲー声優という職業の、いわゆる「中の人」の生の声をファンや外部に届けようという本書の方針に、かつての「がちゅみり」と同じような態度を感じたからである。
「がちゅみり」が受けたのは、それまではあまり表立っていなかったエロゲー声優その人にスポットを当てたことはもちろんのこと、草創期のネットラジオとしてのアナーキーさにあった。たとえば、喘ぎ声の実演や演技技術の開陳が行なわれていた。今こうして言ってみてもなかなか考えにくいものがある。暴露話も少なくなかったが、問題がある音声には基本的にピー音を被せることで対処し、なかったことにはしないという編集方針は非常に画期的だった。
本書もまた同様である。確かに、かわいらしいポップな表紙をあつらえ、アイドル的に売り出されている若手声優たちのグラビアを巻頭に掲げたりはしている。しかし、妙なオブラートに包んで、内容的にエロゲー声優の仕事を誤魔化したりということはおよそ行なわれていない。御苑生メイの下記のような発言は、それを非常によく表わしているだろう。
ゲームをしたユーザーさんが「エロい! 勃った! 抜いた!」っていうのが大事。ゲームの世界に入り込んで気持ちよかったなと思わせるのが目的なんじゃないかなと思います。芝居だけで聞かせようなんて思えるほど私は上手い役者ではないです。他の声優さんには驚かれるかもしれませんけど私は「ポルノを作っている」という気持ちが大前提にあるんですよ。
かように透徹した職業意識がなければ、やり続けることが難しいことについては、業界の大ベテランとして、今は指導にも当たっている大野まりなも認めるところである。
こういう仕事は精神的な面が強くないと続けられません。夢というものを現実にしようという気持ちがないと続けられないんです。辞めるのは簡単だけど、続けられるのは難しいと生徒には言っています。
あらゆる仕事がそうであるわけだが、常に華やかなのではなく、うんざりするほど長いドブさらいのような下積みの結果として、人の目に触れる成果がある。もちろん、本書に登場する声優たちは、その下積みのつらさを述べ立てているのではない。しかし、その裏打ちがインタビューの端々にちらほらと見受けられる様子には独特の臨場感があり、大いなる魅力だろう。本書にはそういう言葉が詰まっている。
文=村上裕一
【注釈】
※1 収録音声は全体の半分程度、若手中心であることには注意されたい。
※2 実体に即しているのであえてこう呼称する。
『美少女ゲーム声優のお仕事』(ミリオン出版)
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