web sniper's book review
「オマエらが知りたかろうがなかろうが、そんなのオレにはマジでどーでもイイ――」
カナダのモントリオールで生まれたフリーマガジン『VICE』を手に取ったことは? 「ウェブ、レコードから、TV、映画に至るまで、雑誌の粋を遙かに超えた、エンターティメントとジャーナリズムを追求する」というユニークなブツ『VICE』。配布されたばかりの『VICE A FILM ISSUE』に見る、その独特の味と魅力とは……俺はシャレオツな服屋とか出かけない。出かけるといったらレコード屋か、本屋か、秋葉原くらいなもんだから、レコード屋でしか見かけたことがないんだけど、『Vice』っていうフリーマガジンがある。
表紙には誌名と特集内容を一言で表わしたシンプルなフォント。表紙の情報量をとにかく過密にする日本の雑誌とは逆方向にブッチギッてるけど、写真がいつも印象的だから見たことあるなら記憶の片隅にでも残ってるかもしれない。目にしてるのに手に取らなかった人は本当にご愁傷様ですね。でも、バックナンバーを含めて全てWebで読めます。ちょっと味気がないけれど。
『Vice』は1994年にカナダで『Voice of Montreal』として立ち上がり、1996年にニューヨークへ移動。現在の誌名『Vice』に改名。16カ国以上で発行され、読者数は90万人にもおよぶカルチャー雑誌。ユース・カルチャー、サブ・カルチャーの紹介を中心に、毎回独自の特集を組んでおりイラク特集号ではサダム・フセインの弁護士にインタビューを取っていた。基本的には翻訳記事だけど、最近は日本の編集者が作成した記事を英語に翻訳する試みもはじめたようだ。ラジカルな輸入雑誌にふさわしく気さくで挑戦的な日本語に訳されているが、日本人のインタビューだと答える方は丁寧語なのでものすごい違和感がある。
今回は「THE FILM ISSUE」、つまり映画特集号。世界第三位のクズ映画量産大国ナイジェリア擁する「Nollywood」が誇るどうしようもなく『映画秘宝』的なフィルムの紹介から、DCハードコアパンク・シーンの要であるNation of Ulysses, The Make-Up, Weird Warなどのヴォーカルを務めた重要人物イアン(だよね?)による全方位に向けて爆散する政治的皮肉まで。ホラー漫画家・日野日出志へのインタビューもあり、伝説的ニセ・スナッフ・ビデオ『ギニーピッグ2』に対する海外での評判は島国ひきこもりとしては驚きだったし、かの宮崎勤事件の時に何が起きていたのかも暴露されている。官憲に対するファックを維持するためにも必読。
別にマニアックな人選ばかりじゃない。『未来世紀ブラジル』や『12モンキーズ』のテリー・ギリアムへのロング・インタビューでは彼の映画監督以前の仕事や『モンティ・パイソン』へ到る刺激的な物語や、『未来世紀ブラジル』のハッピーエンド説など自作品への言及もある。
雑誌の焦点は映画産業のハリウッド以外に当てられている。それもある一面ではなく、メインストリーム以外の全側面。様々な立場と意見をフラットに取り扱うことで、価値観の要塞を建設するのではなく平らな文化の地平を見せる。それこそがジャーナリズムだろう。デヴィッド・リンチに対する編集長のインタビューに 『Vice』 の考え方が端的に表されている。
「オマエらとちがってオレはこの雑誌の編集長。つまり、オマエらが知りたかろうがなかろうが、そんなのオレにはマジでどーでもイイわけ」
映画に携わる人々の、芸術観と精神病と自分勝手と性善説とマゾヒズム、瞑想と統一場とチーズとタバコについての考え方がこの一冊にまとめられている。混沌をフラットに並べ、見せ付けてやること。見たいものを並べてあげるサービス精神でもなく、見たくもないものを見せつける露悪でもないジャーナリズムのさじ加減を楽しめるのなら、どうぞ手にとってごらんください。
文=四日市
『VICE A FILM ISSUE(Vice Japan)』
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