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連休特別企画 四日市さんのフリーコラム!
『全滅脳フューチャー!!! 』
著者=海猫沢めろん イラスト=Chim↑Pom
ISBN10:4778311892
発売日:2009/9/17
出版社:太田出版

各所で評価の高い、海猫沢めろんの著作『全滅脳フューチャー!!! 』。WEBスナイパーが休日の終わりにお届けするのは、この作品を読んだばかりの四日市さんから届いた熱い魂の雄叫び。フリーコラム『チラシの裏 from 閑散無産の繁華街までアニメの国からさよならFuture Head's』です!!
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Webの紹介文(http://www.ohtabooks.com/hon-nin/blog/2009/11/07114359.shtml)で、ライター・宗像明将とジャズマン・菊池成孔のふたりが「高橋源一郎」という単語を持ち出していたので、高橋源一郎分の不足していた私は書店へ向かい「海猫沢めろんの全滅脳フューチャー置いてませんか」と尋ねた。あった。1700円だった。

『優雅で感傷的な日本野球』著者=高橋源一郎 出版社=河出書房新社 発売日=2006/6/3
『さようなら、ギャングたち』著者=高橋源一郎 出版社=講談社 発売日=1997/04
私は高橋源一郎が好きだ。いったい何について書かれているのかさっぱりわからないのだが、どうしても好きだ。『優雅で感傷的な日本野球』や『日本文学盛衰史』も好きだが、いちばん好きなのは作者自ら失敗作と断じた『ゴーストバスターズ』。相変わらずわけのわからないお話で、ほとんどテキストを流してみるだけなのだが、ペンギン村における「ありがとね」という言葉になぜだか止め処なく溢れるエンドレスでトゥルーなティアーズ。あの台詞に何か真実があるように感じられて、未だに忘れることができないし、忘れる気もない。

とにかく「何か」だの「真実」だの、具体的なことは何一つ言えず「よくわからない」と繰り返すことしかできない。たしかに解説文を読むとなるほどと納得はする。『さようならギャングたち』の講談社文芸文庫版に付録されている加藤典洋の解説を読めば、高橋の来歴と共になるほどなーあったまいーなーと思いはするが、日本文学についてまじめに勉強したわけでもなく、また今後ともする予定のない私がそんな暗喩まで読み取った上でおもしろいと、好きだと思っているわけもなく、基本的にはよくわからないから、なんで好きなのかひとに伝えることができないのだが好きだといったら好きだ。わかれよ。

そんな高橋源一郎を持ち出されたからきっとわけのわからない、人物名だって「中島みゆきソングブック」みたいなのだろうと思っていたのだがいきなり主人公である地方在住のオタクが重度の厨ニ病をこじらせ邪気眼、つまり自分は人間に見えるが本当は極めてアニメ的な来歴――超能力を持っている、魔法が使える、隠匿された機関の一員、呪われた血族の末裔である――を持っているのだと信じ込んでしまう精神の病を発症していた。

ちなみに私は厨二病に罹患したことがないので、この種の人たちがよくわからない。どうして異世界に召還されるなんて信じられるのだろう。確かに、私だってエルフの住まう剣と魔法の世界に召還されたり、空から女の子が降ってきたり、大江戸線の妖精を目の当たりにした時の振る舞いを間違えたりはしないだろう。そこは自信がある。竜破斬の呪文だって今でも正しく唱えられる。でもそんなことあるわけないし。あほか。どう見たってパンツだろ。恥をしれ。あほか。

『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん! 歌のレシピ1』歌=福原遥 レーベル=キングレコード 発売日=2009/11/26
なんだオタクの本なのか、よかった安心したと思い私はしおりとしてぷにケット 19のサークル通行証を使った。イラストは『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』のまいんちゃん。とってもかわいい。

内容はといえば、自伝的小説というからにはおそらく著者であろう、件の病気の人の「現在=私」と、「過去=僕」の一人称文体が交互に挟み込まれる、回想にも似た演出を採っている。地方のどうしようもなく大ボラ吹きでやりきれないヤクザに雇われて、どうしようもなくインチキなホストクラブで、どうしようもない人たちを相手にしながら、彼はどうしようもないヤクザになっていくのだが、そこに「トコトコ節」はない。極めて冷めた、肉体と精神を乖離させた目線が淡々と、ロールプレイングゲーム――それも、なにひとつ魅力的なことなど起こりえないクソゲー――のイベントをこなしていくかのように話は進んでいく。実際に彼はイベントをこなしているのだ。人間の愚かな行ないに遭遇するたびに人類絶滅ポイントカードに判を押す。全て溜まったら人類絶滅、という脳内ルール。これも病気の症状である。

目を惹くのは、全てのページに著者自らの手による DTPで、かなり凝ったデザインが施されているところ。私は常々、書籍は紙なんだからテキストデータのみに頼らずもっと好き放題すればいいだろうと思っていた。ライトノベルのイラストはまさしくそれで、キャラクターの姿かたちの描写なんてイラストに頼ればよくて、そもそもアニメ的造詣をテキストで描写したって滑稽なのだしアニメを見ていても髪の毛の色や役割や声優の名前でキャラを呼ぶくらいには記憶力を Googleに吸い取られているのだから、もっとこう、たとえばライトノベルが読者とキャラクターと距離を縮めるために挿入するドタバタ日常コメディを四コマ漫画に代えてみたり、ぐにゃぐにゃさせたりチカチカさせたり、このニコニコ動画の時代、誰も彼も動画を使うのだからもっとしっちゃかめっちゃかやるくらいの誠意と努力と愛しさと切なさと心強さと部屋と Yシャツと俺とお前と大五郎があってもいいだろうがダボハゼが、テキストサイトでさえフォントをいじって工夫していたのだぞ、言葉に因らない情報伝達しろや、と思っていたので非常に五体が満足な充実に満たされて良かった。楽しめた。え、この原稿ではやらないのかって? すごく……めんどくさいです……。

話を戻そう。主人公のどうしようもない日々は、雇い主のヤクザが精神の安定を失うと共に崩壊へ走りだす。全て消えていく、どこにもなくなってしまう。まるで「路地」が消えたように。収束へ向かう 90年代が飲み込んでいく。そして現実は、唐突に反転する。

高橋源一郎が遠回りな、とても遠回りな言葉をドッキン★ばぐばぐアニマルしながら用いること。そのおっかなびっくり綴る言葉によって現実との接続を図っていたのだとしたら、たどたどしく注意深く慎重に触れる指先が現実に届いたその瞬間に私が感動させられたのだとしたら、『全滅脳フューチャー!!!』の破滅的な日々が終わりを迎え、現実が反転したその瞬間は、まさしく同じ類の Zの鼓動だった。

私はずっと信じていたことがある。それは「よい大人のnWo」というテキストサイトに書かれた言葉だ。それは、こんな内容だった。

オタクに類する人間の物語は、マイナスの人間がゼロに戻る物語なのだから、ゼロから始まる普通の、当たり前の人々の心を動かすことなどできるはずがない。全ての人間は本来的にゼロの位置に在り、ゼロがイチになることに感動する。そもそもがマイナスの人間が、普通の人間になりました、などと鼻くそほじりながら「それで、何か?」なのだ、と。

きっとそうなのだろう。オタクがそうなのだ、とは思わない。だが少なくとも、私はそうなのだろうと、ずっと信じていた。

終盤、夢のような日常を終えて数年が経ち、再び故郷へ戻ってきた主人公に、かつてを過ごした女がこういう。「変やけど、筋、通ってんなあ思ってたで」。しかしその時、主人公はマンガもアニメもゲームも捨てていた。病気は完治していた。

人は筋の通ったものに理想を見る。夢を抱く。けれども現実は筋など通ってはいない。筋を通すことで見られる夢など、ある日とつぜん崩れ落ちては嘲笑うこの現実に比べればあまりにも狭すぎるアニメだ。アニメの物語から外へ出て、その外がまた物語を作り出す。ゼロアカだってそうだろ、あなたの人生の物語というやつだ。密室の外から密室を作り出す。まるでクラインの壷だ。叩き割ったらまた壷のマトリョーシカだ。マイナスから、ゼロへ、しかしその次は本当にプラスだろうか。

追いかけても追いかけても逃げていく月のように現実はまるで物語のようでコミック雑誌なんかいらないのかもしれないけれど、それでも私はこの本にまいんちゃんを挟んでよかったと思う。かわいいから。とってもかわいいからね。

文=四日市

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四日市エヴァンゲリオン研究家。三度の飯よりエヴァが好き。クラブイベントにウエダハジメ、有馬啓太郎、鶴巻和哉らを呼んでトークショーを開いたり、雑誌に文章を載せてもらったり。プロフィール画像は昔描いた三十路魔法少女漫画。
http://twitter.com/ykic
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09.11.23更新 | 特集記事  >  特集
文=四日市 |