special issue for happy new year 2010.
2010新春特別企画
ばるぼら × 前田毅〜ビジュアル系対談:激突!!血と薔薇 【後編】2010年お正月企画第二弾はビジュアル系小特集!ここ数年、 X JAPANに代表されるビジュアル系バンドに再評価の兆しが見え始めているとか。その特徴的な出で立ちから敬遠されている方も少なくないと思われますが、ビジュアル系のことをよくわからないまま、距離を置いていませんか? ビジュアル系の系譜を紐解きながらその秘密に迫る対談、本日は後編をお届けいたします!
ばるぼら:ジャパメタ〜お化粧〜ヴィジュアル系に至る流れって、1995年までは全体性を獲得できていたと思うんですね。分かりやすい例では、ジャパメタからヴィジュアル系と呼ばれるインディのほぼ全作品、全バンドを網羅していた『ロッキンf』の別冊シリーズというのがあるんですが(※註17)、それが1996年から出なくなるんです。当時はJ-POPバブルでもあって、ビジュアル系と呼ばれるバンドがミリオンヒットを連発したことで、バンドの数やCDの量が爆発的に増えて雑誌側が把握できなくなったのでは?と推測してるんですけど。
前田:細かいバンドは沢山いたよね。SOPHIAとか。
ばるぼら:Sleep My DearはLUNA SEAっぽい音なんだけど、録音が妙にいいんだよな、あれなんでだろう。あと90年代中期だとD≒SIREもすごかった。何がすごいってメンバーにドラマーがいるのにCDだとドラムが明らかに打ち込みなんですよ(笑)。打ち込みってオプティック・ナーヴ(※註18)とかいたけど、バンドなのにドラムが打ち込みってそれで初めて聴いた。ボーカルの幸也はその後Kreisってレーベルの代表として、Ize、Blue、Dir en greyのプロデューサーもしてました。
ばるぼら:もちろん見た目からして明らかに違うんだけど、マリスミゼルとそれ以前の違いってあえて言うと何ですかね?
前田:1995年までの、XとCOLORの影響下にあったとされるビジュアル系の格好って“武装”だと思うんですよ。
ばるぼら:ヤンキー的な?
前田:威嚇するような、目立つというか、生殖器みたいな(笑)。初期のXのライブで「気合入れろ!」って煽ってるけど、たしかにあれだけ髪染めて長くてあの格好してたら、気合い入れないと生活できないわけだから。カツラじゃないし、コスプレでもないし。その辺で「気合入れろ」ってのはわかる気もする。前人未到の領域にこれから入っていくって感じはたしかにあったなと、今考えるとわかる。でも1996年のマリスミゼルくらいになると“武装”じゃなくなると思うんですよね。
ばるぼら:完全にファッションになったということ?
前田:そうとも言い切れない。よく言われるのは、Xはヤンキー、マリスミゼルはオタクっていう区分け。でもオタクって言うのも違う気がするんだよ。いや、だってマリスはヒゲが生えてるメンバーがいるんだもん。それはものすごいことだと思いますよ。別の位相にマリスミゼルは行ってる感じがあって。言葉にならないんだけど、海外でいうと精神性は初期のブラックメタルに近いと思うんですよ。ああいう風にマジっていう。ばるぼらさんはマリスミゼルってどうですか?
ばるぼら:単純に「なんかすごいのが出てきたな」って。LUNA SEAやGLAYの化粧・髪型がどんどんソフト・ビジュアル化していった中で、揺れ戻しが起きた、と最初は思った。けど見た目だけじゃなくて、世界観自体が違うんだよね。ヤンキー感がないのかな。まあヤンキーとオタクは昔から実は距離が近いとは言われるから。あと日本人が捨てられないセンスとしてのヤンキーとファンシー。あ、ファンシー側のビジュアル系ってことでは?
前田:(笑)完全にファンシーだね。あれは発明かな?って気がすごくしたんですね。
ばるぼら:ゴスロリはマリスミゼルからはじまったんですよね。
ばるぼら:森ガールに怒られるんじゃないの(笑)?
前田:俺はそう思ってるの!
■リミテッド・エディション・カルチャー
前田:1998年がCDが一番売れた年ですよね。それと並行してビジュアル系もピークを過ぎる。ラルクが「ポップジャム」で“ビジュアル系”って紹介されてキレた事件もありましたね。ラルクはイメージを払拭するためにCMがすごかったよね。踊ってるヤツとか。
前田:そんなんだったっけ(笑)?
ばるぼら:あとビジュアル系というと限定盤の存在がすごかったと思うんですよね。初回限定盤は当たり前、XXXX枚限定、通常盤ジャケ違い、収録曲違い、通販限定、会場限定配布……。これはつまり物語を担保してるんですね。無名から有名に、インディからメジャーに上昇していくバンドの物語を、無名時代から支えるファンっていう。
前田:バンドの無名時代を支えていた証拠品。
ばるぼら:どの媒体だったか忘れたけど、SHAZNAがメジャーになってからのインタビューで「インディーズには初回限定盤っていう文化があって、だからメジャーでも僕らのCDはそういう風に作ってます」って、シングルの限定パッケージについて明確に解説してたんですよ。だからバンド側もすごく自覚的だった。
前田:リミテッド・エディション・カルチャーね。『音楽誌にのらないJ-POP批評』でビジュアル系を特集した時、グラビア用に目黒のサードステージ(1993年2月開店、老舗ビジュアル系専門店)にレア盤借りに行ったもん。あそこ閉店しちゃったんでしょ?
ばるぼら:そう、2008年12月に閉店。
前田:ちょっとショックだなあ。すごく丁寧に運んだ憶えがあるよ(笑)。この特集はやりがいがあって面白かったな。編集部に電話が結構来たんですよ。「持ってるんですけど、どこでこの値段で買い取ってくれるんですか!?」って。
ばるぼら:(爆笑)。あの店は2階にあった時にちょくちょく行きましたよ。V2(小室哲哉とYOSHIKIのユニット)のビデオはあそこで買った記憶がある。80年代から限定盤っていうのはあるんだけど、それを完全にシステム化したのはビジュアル系だと思う。
前田:やっぱみんなパッケージを買ってた時代ですからね。
ばるぼら:この後、Yahoo!オークションの登場で値段が一回リセットされて、売る方も店に売るより直接売った方が何倍も儲かるから、リアル店舗では中古盤ってどんどん隅に追いやられていくんですよね。だって3000円で買い取られたものが、翌週から20000円で売られてんだもん(笑)。そりゃ店にレアもの売るわけない。限定盤カルチャーが一旦勢いを失くしたことで、ビジュアル系も停滞してしまった、という説を唱えたい。
■2000年代、海外進出で息を吹き返すビジュアル系
前田:2000年代のビジュアル系っていうと何になるの? 雅-miyabi-とかアリス九號.とか?
前田:海外評価が先行したよね。エグゼクティブ・プロデューサーがDYNAMITE TOMMY(COLOR。フリーウィル代表)で、YOSHIKI(X JAPAN。エクスタシー代表)がプロデュースでしょ? 完璧だよね。全部ある。
ばるぼら:ポップなメロディじゃないってすごいと思うんですよね。90年代後半に人気が出たSIAM SHADEとかTRANSTIC NERVEとか、どんどんビジュアル系がポップ化していく中で、ハードコアなサウンドで出てきて新鮮だった。
前田:S.K.I.N.は? YOSHIKIとGacktとSUGIZOと雅-miyabi-のスーパーバンド。
ばるぼら:ほとんど活動してないからなあ。2007年のANIME EXPOで1回ライブしたくらいでしょう? 海外での活動はいまオタク関係での進出というのが大きくて、オタクイベントに集まった何万人の観客の前で演奏して「海外進出成功」って帰ってくる。つまり海外から見ると、アニメやマンガやビジュアル系が一緒くたになって“日本のポップ・カルチャー”ってことで受け入れられてるんですよね。
前田:海外のオタクイベントは重要ですよ。OTAKONって1994年からやってるの知ってます?
ばるぼら:そんな前からやってるの?
前田:最初のゲストは外国人ばっかりで、アニメーターや漫画家がメインなんだけど、2003年のT.M.Revolutionで初めて日本人ミュージシャンが招聘されて、それから毎年日本人が呼ばれてるんだよね。2006年にYOSHIKI、2009年はVAMPS。で、2005年だったかな、叶姉妹とかも呼ばれてるの(笑)。
ばるぼら:プロダクションI.G.が叶姉妹を題材にアニメ作ったのってそういう背景だったんだ! 衝撃。
前田:PuffyもOTAKON出てたし。あと海外進出というとソニーが2003年に作った東風レコード。ジャパニメーションみたいなのと一緒に音楽を売るためのアメリカの支社なんだって。そこからラルク、T.M.Revolution、アジカンとか、アメリカ盤が出てて結構売れてた(2007年3月終了)。それがOTAKONと相互影響与えてたみたいなんだけど、そういう流れがあって、海外のマーケットは企業も視野に入れて動いてるんだなあって。
ばるぼら:なるほどなるほど。ラルク・アン・シエルのデビューシングルがアニメ「DNA2」のタイアップで、初回限定でアニメキャラのカードが封入されていた時代を思いだすよ。一周して戻ってきたのね。
前田:ていうか最初の話に戻すけど、レイジーのボーカルの影山ヒロノブが解散後「ドラゴンボールZ」とかアニソンに行くじゃないですか。完全に歌い方はジャパメタのまま。
ばるぼら:アニソン中心のランティスってレイジーの人が作った会社だもんね。
前田:それで水木一郎とJAM Project組んで海外活動したりOTAKONに出るわけですよ。アニメタルとかあったけど、最初からオタクとメタルは近接してるジャンルではあるんだよね。だからビジュアル系も当然相性がいいんだよ。
■ビジュアル系の未来は何処に?
ばるぼら:じゃあビジュアル系の未来を考えるとすると、どうなりますか?
前田:椹木野衣さんじゃないけど“シミュラークル”ってキーワードで考えると、Xとか最初のビジュアル系って、刺激的な虚構を提供できていたんだと思うけど、それが90年代から「HEY!HEY!HEY!」や「うたばん」の登場もあって、ビジュアル系の持ってたシミュラークルが回収されてしまった気がするんですよ。
ばるぼら:たしかに一時期、歌番組でトークが面白いミュージシャンっていうのがもてはやされて、ビジュアル系もその波にのってしまった感があったね。
前田:そこで新たな幻想・虚構を用意しなくちゃいけないはずなのに、どんどんソフト・ビジュアル化していって、ビジュアル系は虚構を捨てて、転向したわけです。その時に、歌番組にもインターネットにも対応できる新たな幻想を立ち上げたのがマリスミゼルだったと思うんだよ。マリスは解散しちゃったけど、その後マリスのローディだった人が組んだバンドがVersaillesなの。そこに受け継がれてる。VersaillesはMySpaceとかで名前が広まって、海外で先にデビューして、2009年にようやく国内デビューでしょ。ベースの人が亡くなってしまったけど。
ばるぼら:虚構性というのはすごく濃い化粧すればいいってことなんですかね?
前田:あと「本気」、だと思うけど。ジャパメタもシミュラークルじゃないですか。ヒロイック・ファンタジー的なね。でもX以降もっとヒリヒリしたものになると思うんだよね。そこで精神性を問われるというか、本気か本気じゃないか問題っていうのが絶対出てくる。リスナーも絶対そういう論争を起こしますよね。そこのファンタジーを発展させた虚構の立ち上げ方があったんじゃないのかなと。ブラックメタルで言うなら「人を殺した俺」みたいなさ。
ばるぼら:ファンが投影する虚構の姿を演じきれるかっていうのは大変だよね。ファン同士のネットワークが整備されたインターネットに適応できる虚構性っていうのはすごく難しい。そこがビジュアル系の未来につながる課題だと。ワタシは未来というと、女性中心のビジュアル系バンドが一杯出てくれば面白いのになあと思ってます。ビジュアル系ってバンド側に極端に女性がいないジャンルでしょ。
ばるぼら:誰、誰?
前田:MANA様プロデュースで、『KERA』で連載持ってて、モデルとかもして超かわいいんだよ。ずっとクラシックやってきてるから、今までお城とかに幽閉されててやっと解放されたみたいな、そういうズレっぷりがあるわけですよ。父親が絵を描いてるとか、浮世離れ感が最高です。
ばるぼら:最強じゃん!
前田:最強。アルバム『侵食ドルチェ』はアメリカ盤も出てて、そこそこ売れてるという話。彼女は2009年のOTAKONにも出てるよ。
ばるぼら:じゃあビジュアル系の今後を考えるためには、分島花音を聴けばいいのね。ビジュアル系はレイジーから始まっていま分島和音に辿り着いたと! そんなビジュアル系対談って予想してなかったよ……!
【註釈】
※註17『ロッキンf』の別冊シリーズ=『メタル・インディーズ・マニア』『New Age Attack』『Street Fighting Man』『ストリートロックシーンの怖るべき子供達』『ストリートロックシーンの怖るべき子供達1994』『ジェネレーション・エッジ』。
※註18 オプティック・ナーヴ=Zi:KILL脱退後のyukihiroが元マッド・カプセル・マーケッツの室姫と結成したユニット。1991年9月、デンジャー・クルーよりアルバム『Optic Nerve Abstraction』をリリース。経歴からは想像できないシンセを多用した打ち込み音楽で、ハウス/ボディに接近していた。yukihiroは現ラルク・アン・シエル。
構成・文=ばるぼら・前田毅
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ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』(共に翔泳社)『NYLON 100%』(アスペクト)など。『アイデア』不定期連載中。
「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/
前田毅 フリー編集者たまにライター。参加したものに『音楽誌が書かないJポップ批評』(宝島社)、『STUDIO VOICE』(INFAS)、『NYLON 100% 〜80年代渋谷発ポップ・カルチャーの源流〜』(ばるぼら著/アスペクト)などなど。