WEB SNIPER's special Interview.
『おと☆娘』発売記念特別インタビュー!!
漫画業界で深く静かに進行するオトコノコ(女装男子)ブーム
『おと☆娘』頭根宏和編集長に訊く
拡大する男の娘ブームをさらに盛り上げることになるのか――先日創刊されたばかりの新しい男の娘雑誌『おと☆娘』(ミリオン出版)。漫画を軸に様々な男の娘カルチャーを盛り込んだこの雑誌が狙うマーケット、魅力、そしてコンセプトとは? 編集長の頭根宏和氏に漫画評論家の永山薫氏が迫ります!!
■ミリオン出版らしいアキバ系雑誌とは?
――そもそも、この時期に、どうして男の娘テーマの雑誌を創刊しようと思ったのか? そこのところからお訊きしたいんですが。
頭根:元々は、『漫画ナックルズ』っていう実話漫画誌を作ってました。見世物小屋みたいな、ヤクザとか裏社会とか事件とかをごった煮にしたような。そこからスピンアウトした「タブー」を冠する雑誌、『ザ・タブー』や『漫画ナックルズGOLD』ですね。4月に隔月で出していた『漫画実話ナックルズ増刊 ザ・タブー』が休刊して、次に何をやるか?と考えた時、最近の若い子たちの女装ブームがあると。自分が作っている実話誌の誌面でも何回か採り上げてるんですよ。三和出版の井戸編集長の協力を得て漫画家さんを伴って女装現場の体験ルポをやったり、聾唖のニューハーフヘルス嬢のマンガを掲載したりしていたわけです。
――『オトコノコ倶楽部』の井戸編集長ですね。
頭根:そうです。ふとそのことがうかんで、ここ7〜8年実話誌をやってきたことと違うベクトルで本を作りたい。アキバ系ジャンルにトライしてみたい。ミリオン出版は昔から大手がやらないネタ、王道邪道でいえば邪道的なものを、変わったアイテムを出してきた。ミリオンらしいアキバ系雑誌ができるんじゃないかと考えたんですね。それで、先行の『わぁい!』を拝見して、かなり王道的な作りをしていると見ました。これをミリオンらしい、ウチらなりのやりかたでできるんじゃないかと。
――『わぁい!』創刊号がかなり売れたというのは聞いているんですが。
頭根:実際、よく売れています。『わぁい!』は書店で売っているんだけど、全国の書店で均等に手に入るかというとそんなことはない。アキバ界隈、オタクの人が集まるような場所では売れている。創刊号は数日で完売したって話は聞いてます。
――そうらしいですね。どこの書店でも見かけるって本じゃないけど売れた。
頭根:極論すればそれでいいんじゃないかと。「アキバとネットだけで成り立つ商品でいい」という発想だと『わぁい!』は非常によくできた商品だといえます。
――全国のコンビニ、書店で売るという戦略とは対極的なアプローチですよね。。
頭根:ミリオン、大洋図書グループがやってきた実話誌はほぼコンビニ限定アイテムで、弁当を買うついでに買っていくような消費形態をベースにしているので、発想が全く逆なんです。そのジャンルが好きな人が、書店で決め買いするような、そこはあまり手がけてこなかった。だから、『おと☆娘』は新しいビジネスモデルを構築するという意味合いもあるんですね。
――『おと☆娘』は10月25日発売ですが、初動の数字は出てますか?
頭根:ネット書店は好調です。アニメイトはソコソコ。そこまでしかまだ出ていません。
――ネット書店と実店舗の違いがありますよね。書店で、このサイズが平台に並んじゃうと『わぁい!』もそうだけど目立たない。
頭根:判型は『電撃萌王』サイズも考えましたが、ただ、ちょっとそこまで大きな判で自己主張していいものかってのもあって(笑)。この種のジャンルの読者は、矛盾する話ではあるんですけど、秘められた楽しみっていうか、あまり目立って欲しくない、あんまりジャンルとして盛り上がって欲しくないような傾向があるんですね。あまりデカデカと男の娘ってやるのはどうかなって。これくらいの判型でやるのがちょうどいいかなと。あまり小さいと目立たないし。
――ちっちゃくするとA5ですか。それだとアンソロジー、『チェンジH』的なのが、また出たってことになっちゃう。
■『わぁい!』との差別化
――『わぁい!』との差異は? テーマも判型も厚さも同じとなると、後発誌ならではの差別化が必要だと思うんですが。
頭根:同じものを作っても仕方ないんで。さっき言ったように王道邪道ってところで、マニア向けではなく全年齢向けで、下は中学生から手に取っていただきたいという趣旨なので、エロ本にするわけにはいかない。ただ、性表現に関しては限界があるんだけど、規制内でセクシャルな部分は盛り込んでいきたい。それは、セックスシーンじゃなくって、たとえばキスシーンとかでシチュエーションやフェティシズムで萌えさせることを意識してます。「可愛い」の中身は「恥ずかしい」だと思うので、表紙でもちょっと顔を赤らめさせたりしています。
――面白いのは、『わぁい!』と比較して、漫画では男女の組み合わせが多い。
頭根:それは意識してますね。元々ニッチなジャンルなんですが、そのニッチな中で嗜好が分かれてですね。コアな層の中では男×男のカップリングが支持されているのはわかっているんですが、ライトユーザーも掴みたい。女性を出すことによって女装少年を引き立たせることができると思うんです。いくつかアンケートが返ってきてるんですが、生々しい絵じゃないとはいえ男×男は一般的には敷居高いんです。初めて手に取った人にとっても入り口として抵抗感ない部分が必要だと思いますしね。
――女装で同性愛となると、ハードルが二つできちゃいますからね。
頭根:あとストーリーの幅をもたせたかった。誌面ではごった煮で詰め込んでたんですけど、好きな人はこっからスピンアウトして単行本にしたりとか、特化した増刊作ったりして、読んでもらえればいいと考えてます。でも、母艦たる雑誌は色んな振れ幅があっていいのかなと考えてはいるんですよね。現状では漫画は読み切りなんですが、パイロット版というかプロトタイプという意味合いもあるので、ここで反響を見て、すでに連載に近い形でと考えてる作品もあります。
――『わぁい!』を見てて気になったのが連載なんですよ。季刊で連載って辛くないですか? 間が空きすぎて、読者が前の話を忘れてしまう(笑)。
頭根:カラーページではアニメだとかゲームの情報を色々調査したんですけど、簡単にいうとそんなにネタがあるわけじゃなくってですね、季刊ペースでもけっこうつらいです。漫画は、コミックスにするという展開を考えた場合、続き物の方がやりやすいし、ケータイコミックで展開する場合、続き物のほうが喜ばれるとか、『わぁい!』も、そのへんの事情があるのかなあ。『おと☆娘』でも先々、連載も考えてますけど、漫画+情報というのを重視しているところがあって、『わぁい!』との差別化もありますが、定価1,050円という価格は漫画誌としては決して安くないので。ある程度付加価値でご満足いただける構成が必要になってくると思いますし、漫画誌そのものが読まれない時代になっている。漫画は一つの核なんですけど、それ以外の部分で雑誌として成立する、成立させることを考えています。
■女の子の気持ちになれる催眠CD
――新雑誌ということで発売前から、読者に認知してもらうための戦略を実行していましたね。
頭根:グループ全体としてはコンビニ雑誌が多いということもあって、店頭で露出することが広告みたいなもので、広告もほとんど打ってない。衝動買いみたいなものです。それとは違う決め買いなので、ある程度、認知してもらわないといけない。今回重視したのは、10月25日の発売が決まっているので、早目の段階から手を打っていこうと。まず8月のコミケでミリオン出版で企業ブースを出したので、そちらでチラシを4,000枚配布、それが一発目。これはニュースサイトで採り上げられました。また、ネットで、「おと☆娘Jp」(http://otonyan.jp/)を立ち上げて、情報を小出しにしていく。Twitterも同時に始めて、徐々に認知させていくという手段を採ったので、それでいきなり発売日に出ましたってことではなくって。今までミリオン出版でやってなかったんですが、その辺が功を奏したのかもしれません。
――発売日にはニュースサイトの「GIGAZINE」にも採り上げられましたよね。
頭根:あれは付録CD『快感催眠“娘”化プログラム』のサンプル音声公開とのタイミングが合ったので、ネタとして面白かったんだと思います。「GIGAZINE」にはプレスリリースを出して、それも採り上げていただいたんですが、前から、『実話ナックルズ』や『MEN'S KNUCLE』もネタ的に採り上げられてたんで、『MEN'S KNUCLE』出してるミリオンがこんなの出したってのが美味しかったのかも(笑)。
――付録CDが意表を衝いた。催眠系って付録では日本初ですか?
頭根:一発目なのでネタとして驚かせたいというのがあって、『わぁい!』創刊号の付録だったブルマ的なものも考えたんですが。ブルマはネタとして面白いんだけど、実用性を考えるとどうかなと。それで、ある人と「催眠オナニーすごいよ、コンドーム一枚だと足らないよ」みたいな話になって(笑)。催眠CDはひとつのコンテンツとして50分楽しんでいただけるので。女の子の気持ちになりきるっていう意味で雑誌のカラーというかコンセプトを実現する手段として有効なんじゃないかと。二次元の紙だけじゃなくって音声からも、この世界にはまって欲しいなと。すでに「ブッ飛んでるよね」って反響があったりします(笑)。導入部から解除パートまで構成してあるので、つまみ食いで聞いても効果がない。巻末に使い方書いてますけど50 分聞かないと効果が出ないんですよ(笑)。「これはスゴイですねえ」「はまりましたよ」っていうハガキやメールをいただいているのでよかったなあと思ってます。
――スクリプトは誰が書いているんですか?
頭根:制作はネット上でDL販売しているライターさんにお願いして、収録を進めました。
――実際、ご自分で聞いてみてどうでしたか?
頭根:暗示をかけないといけないんだけど、僕は実話誌を作ってたんで、猜疑心が強いんで、なかなか思い込めない(笑)。
――実話誌編集の弊害ですね(笑)。宗教とか主義主張にハマらないのはいいけど、楽しい催眠も効きにくいという(笑)。
■男の娘って一体?
――かねがね気になっているのは、漫画における男の娘って、着衣だと男って、絵だけではわからないですよね。特に全年齢向けの場合、設定で「男子」ってなってるだけで、どこが違うの? 台詞やナレーション隠しちゃうと区別つかないよねってのがあるんですが、そのあたりはどうなんでしょうか?
頭根:エロ本じゃないので全部露出することはできないし、デリケートなところなんですよ。「モッコリは見たくない」って読者も少なくない。「体のラインの違いだけで見せて欲しい」と。それはもうものすごいマニアックな世界なんで、記号表現のギリギリのところで、ある程度の膨らみプラスアルファで表現していきたい。
――難しいところですよね。あとはストーリーでどう読ませていくか?
頭根:天然系と強制系っていうのならば、どちらかといえば強制系のほうにドラマがあると思うし、漫画もそちらが多いんですけど、「男なのにこんなことしちゃってて恥ずかしい」という前提から、背徳性みたいなものがあって成立すると思います。表紙にしても、「こんなかっこうさせられて恥ずかしい」と、ちょっと涙目になってる。こういうところに込めていきたいですね。
――表紙キャッチコピーの「女の子よりかわいくてゴメンね」の「ゴメン」が利いてます。
頭根:セクシャルな意味での可愛いってのは女性って性の特権じゃないですか。DNA に対する反逆じゃないですけど、それを否定しちゃってるのは、一種のタブーだと(笑)。そうしたこともあり、バックグラウンドを含めて世界観を作っていきたいと思ってはいるんですよ。漫画やイラストの中に何がこめられているのかを重視していきたいんですよね。「もっこりしてるから男の娘」じゃなくって、この男の子はどうしてこの表情をしているのか?とか、そこを読者に想像してもらえれば、その方向を目指していきたいし、それが可愛いの中身だと思うんですよね。「無理矢理女の格好をさせられて恥ずかしがってるのが萌え」みたいなのが鉄板だとは思うんですが、男女の性が、社会の規範みたいなものがあって、それを前提としてこそ成立するわけじゃないですか。でも、それは二次元の世界なので、ある程度自由にしていけるし、読者にとって、絶対実現できないようなファンタジーっていうんですかね。それをうまく紡いでいきたいですね。
――全年齢向けという縛りがあるわけですが。
頭根:全年齢向けの『ストップ!!ひばりくん』にはじまって『バーコードファイター』に衝撃を受けた、トラウマになったって人がかなりいるはずなんですよ。あれはなんだったんだって。そういうのを考えてると、すごくニッチなジャンルだとは実は考えてなくて。逆にもっと間口を拡げることができたらなって思ってるんですよ。けど、一方では「こういうのはこっそり楽しむものだよ」って、マニア心理もわかる。日陰で楽しむもんだと。あまりメジャーな舞台に踊り出るべきではない(笑)。
――でも、売れないと困る(笑)。
頭根:部数はメジャーで中身はマニアックでというのが一番いいですよね(笑)。前提としての世界観が日陰なので、だから恥ずかしいんだし、だから萌えるってことを考えると、それはそれで魅了する部分ではあるけど、たとえば同じ漫画でもBLなんかはあそこまで広まっていますよね。ある意味倒錯的な世界なはずなんだけど、もはやマニアだけの世界とも言えないスケールになっている。だから男の娘もひとつのジャンルとして、あの域を目指したい、耕していきたい。でもこっちは、同じ倒錯でも毒性が強い(笑)というか、バーコードファイターで有栖川さくらちゃんが男だったてことを知って受けた衝撃って、なんとなく気まずいっていうか(笑)。BLは女性読者のフィジカルな世界とは無縁でいられるかもしれないけど、男の娘ジャンルが好きな男性読者は二次元とはいえ、もっこりを見たくない人も多い。なのでフィジカルとは違う二次元ならではの表現領域を模索していきたいですね。僕は可愛いオトコノコの、男なんだけど究極に可愛い生命体を構築していきたいなあと(笑)。
――最後に読者に向けて何かありますか。
頭根:決して敷居は高くないので、まずは、新しい世界の扉を開けてください。
インタビュー・文=永山薫
『おと☆娘 VOL.1 』(ミリオン出版)
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『おと☆娘』公式サイト
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永山薫 1954年大阪生まれ。近畿大学卒。80年代初期からライター、評論家、作家、編集者として活動。エロ系出版とのかかわりは、ビニ本のコピーや自販機雑誌の怪しい記事を書いたのが始まり。主な著書に長編評論『エロマンガスタディーズ』(イーストプレス)、昼間たかしとの共編著『マンガ論争勃発』『マンガ論争勃発2』(マイクロマガジン社)がある。